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事故物件は価値がある? 怪奇現象を数値化 日本初【事故物件専門の不動産コンサル】が手掛ける「オバケ調査」とは

  • 2025.10.24
ただの不動産屋さんではありません!

事故物件を“科学的に”調査する、「(株)カチモード」という会社があります。

代表の児玉和俊さんは、ベテラン不動産マンにして“オバケ調査員”としても知られる人物で、この秋刊行された『事故物件の、オバケ調査員 心理的瑕疵物件で起きた本当の話』(Gakken)も好評です。

そんな児玉さんに、会社を立ち上げた経緯から、現場で体験した不可思議な出来事までを聞きました。


事故物件の調査はリフレッシュの一環!?

株式会社カチモードの代表、児玉和俊さん。

――まず、不動産の管理会社でキャリアを積んできた児玉さんが、「オバケ調査」を始めた経緯を聞かせてください。

独立を決めた当初は、これまでの経験を生かして普通の不動産会社を立ち上げるつもりでした。ただ心残りだったのが、これまで出会ってきた「不思議な現象が起こる」と言われる部屋をしっかり調査できなかったことです。

もともと稲川淳二さんの大ファンで“その手の話”は大好きでした。とはいえ当時は仕事に追われる日々。なにかあっても「あの現象は何だったんだろう」と思うだけで……。だから自分の会社をつくるなら、そうした調査ができる部署を置きたいと思っていました。

不動産管理の仕事って、長くやっていると気が滅入ることがあるんですよ。営業的なことは部下に任せられても、トラブルの際は上役や社長が出ていくしかない。結局、火消しみたいな仕事ばかりになってしまうんです。

だから、そうした調査部署をつくれば、仕事の合間に現場確認という名目でリフレッシュできるんじゃないかと。メインは不動産管理や売買で、調査はあくまでサブのつもりだったのですが――サラリーマン時代の最後の2年間、物件を管理する部門の責任者をやったことで考えが変わりました。

ときには「第一発見者」になることも

――不動産の管理部門って、どんな仕事をするのですか?

管理を任されている物件のメンテナンスやリフォーム、オーナーや入居者からのクレーム対応などを一手に請け負っていました。

管理会社の収益は扱う戸数に比例するので、常に人件費との追いかけっこ。効率化しないと回らないし、社員はギリギリの状態で働いています。でも死亡事故は、ある日突然起こる。その対応に追われてしまうと、ほかの仕事がなし崩し的に遅れていってしまう。だから僕は、あえて自分のスケジュールを7~8割程度に抑えて、「突発的なことは、すべて僕に回してくれ」としていました。

――“死亡事故”の対応というのは?

ある部屋から異臭がするとか、郵便物がたまっている、住人と連絡が取れないといった連絡は、警察より先に管理会社にくることが多いんです。その場合、我々が安否確認を行うことになります。

――つまり「第一発見者」になる可能性もあると……。

そうですね。入ってみたら単に寝ていただけということもありますが、稀にご遺体を発見することも。その状態もいろいろで……ショックで辞めてしまう人もいました。

さらに警察やご遺族への連絡、保険会社とのやり取り、特殊清掃や原状回復工事の算段など、さまざまな業務があるのですが、問題はすべてが片付いたあと。オーナーさんからすれば、「徹底的にクリーニングして元通りの部屋にした後は、同じ家賃で貸したい」となるのですが、ダメなんですよね。

――事故物件だから、ですね。

家賃据え置きでは現実問題として入居が決まらないので、オーナーさんはもちろん管理会社としても困ります。だから我々は家賃減額の提案をすることになるのですが、どのオーナーさんも「それって、いつまで?」とおっしゃいます。当然ですよね。

「事故物件」の烙印を押された物件のその後

――今さらですが、「事故物件」の定義ってどういうものなのでしょう。

基本的には、室内や敷地内で何らかの死亡事故(主に自殺、他殺、特殊清掃が必要な孤独死)が発生した物件のことを指します。そのため心理的瑕疵、つまり見た目はきれいでも心理的に「気味が悪い」「できれば住みたくない」という“訳ありの物件”ですね。

僕は2007年に不動産業界に入り、2008年に初めて事故物件を担当したのですが、そのとき、オーナーさんに言われたんです。「部屋は元通りきれいにしたのに、いつまで家賃を下げておかなきゃいけないの? はっきり教えてよ」と。

駆け出しだった僕は答えることができず、諸先輩方に聞いたのですが、返ってきた答えはこうです。「その質問が来たら、こう言うんだ。“まずは今を乗り切りましょう!”」

お客様向けの資料で分かりやすく説明してくれた。

――答えになっていない(笑)……笑いごとではありませんが。

ですよね。けれど、管理部門の責任者になっても答えは出ませんでした。「いつまで事故物件として扱わなきゃいけないのか」――それは誰にもわかりません。もしかすると、ずっと元の家賃に戻せないかもしれない。

2021年に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」ができ、原則として“死を知ってからおおむね3年間”は入居者に告知することが義務になりました。ただし、有名人が亡くなったり、事件性の高い出来事があるなどして、死の記憶が風化せず周辺住民の間に根強く残っている場合は、3年を過ぎても告知しなければならないことがあります。

告知を怠ると、あとになって借り主に知られトラブルに発展する可能性がありますから。何年経っていようと、例えば入居希望者に「ここってあの事件があった部屋じゃないですよね?」と聞かれたら、ウソはつけないんです。

オバケ調査後に発行される「異常なし」の証明書。

――いまはネットでも調べられますもんね。「大島てる」(事故物件情報サイト)とか。

「大島てる」の情報も、いまは投稿型なので事実ではない情報が含まれている可能性があるのですが⋯⋯。ともあれ僕としては、「事実は事実として受け入れて、そのうえで“絶対、大丈夫”と言えるなら、それがいちばんいい」と考えています。オーナーはウソをつく必要がないし、入居者も納得のうえで借りられますから。

それを実践するために、自分の会社のメインに事故物件の調査を据えることにしたんです。「事故物件の価値を取り戻す」――そんな思いを込めて、社名を「カチモード」と名づけました。

「オバケ調査」が貸主・借主の安心に

――「オバケ調査」というのは、具体的にどんなことをするのですか?

まずは、事故の状況や、特殊清掃、リフォーム、室内の臭気などを確認し、賃貸に耐えうる状態かを見ます。また、外壁や共用部分――自転車置き場やポスト周辺、ゴミ置き場などがきちんと管理されているかも確認します。事故物件の場合、部屋以外のマイナス印象が変に意味を持ってしまうことがあるので。

そしてオーナーさんの予算を聞きながら、優先順位をつけて修繕などの提案をします。管理会社さんとの連携がうまくいっていないようなときは、僕が間に入って連絡を取ることもあります。カチモードはあくまで不動産コンサルなので、管理や売買はしません。

このような報告書にまとめてもらえる。

――児玉さんが不動産業界で得た経験と知識は、そこで生かされているわけですね。

「オバケ調査」も、物件の収益を最大化させる方法のひとつです。他にやっている会社がないので、一見、特殊な会社に見えるかもしれませんが。「オバケ調査」は僕1人で、22時から翌6時まで、室内に滞在して行います。

録音・録画のほか、電磁波や温度、湿度、気圧、風力、サーモグラフィ、騒音の測定などを行います。こうした方法は、イギリスのオバケ調査会社のやり方を参考に、大学の研究者の方にも協力していただきながら、アップデートしてきました。

採集したデータは持ち帰って解析し、異常がなければ“異常なしの証明書”を発行。借主には相場に近い賃料で入居していただきます。ただし、住み始めてから異常が見つかった場合は、カチモードから最大100万円の懸賞金をお支払いします。

――借りる側も「万が一のときは引っ越し費用が出る」と思えば安心ですね。

そうなんです。「オバケ調査」の報告書と異常なしの証明書がオーナーの安心材料に、懸賞金が入居者の安心材料になり、両者納得のうえで事故物件と関わっていただく。その橋渡しこそが、僕らの仕事です。管理会社からの依頼もありますよ。調査の結果、下がった家賃を元に戻せるなら御の字だし、戻せなくても「これだけやったんだから」という、オーナーさんの納得材料になりますから。

――調査の結果、やはり不思議なことが起こるとなったら、どうするんですか。

その場合は追加調査をし、それでも結論が出なければ、その部屋をカチモードが借り上げます。じつは「不思議なことが起こる部屋」って、一定の需要があると考えているんですよ。

「事故物件」をマネタイズする

――事故物件“だからこそ”借りたい人がいるということですか?

例えば、大学でそうした研究をしている先生たちの研究材料として。最近では、事故物件に住んで配信をしたいというYouTuberの方や、怪談会に使いたいという方もいますし、不思議な現象に再現性があるなら見てみたいという人は世界中にいると思います。

調査に使用する機材。

――アメリカの「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス」みたいに。国内でも、そうした部屋を取材撮影したドキュメンタリー映画や番組はありますね。

もちろんオーナーさんの同意を得ることができれば、ですが。もともと家賃が月10万円の部屋が、年間150万円の収益を出せるとしたら、必ずしも賃貸に出さなくてもいいということになるかも知れません。もし霊とコミュニケーションが取れるなら、お客さんのいるときだけ、ちょっと出てきてくださいとお願いしたいくらいです。

――収益化は実現しているのですか?

それが机上の空論ではないという検証を行っている段階です。当社が平屋の事故物件を借り上げ、大学の先生と一緒に調査を続けています。オーナーさんも了承済みで、調査に関する取材を受けたりもしながら、収益化できるかどうか試しているところです。うまくいけば、物件を借りたい人とのマッチング事業もできるようになるかも知れません。

――ちなみに、そこで亡くなった方のご遺族への対応は⋯⋯?

確かにデリケートな問題です。そもそもカチモードは、お祓いや供養の類を推奨していません。もし亡くなった方が幽霊として部屋にいるなら、いてくれていいというスタンスです。それは“誰かの大切な人”ですから。ご遺族の方もいろいろですが、「どんな形であれ、もう一度会いたい」という方も少なくありません。

幽霊だってもともとは「誰かの大切な人」

“怖イイ話”も披露してくれた。

今回の本(「事故物件の、オバケ調査員」)にも載っていますが、以前、こんなことがありました。短期での退去が頻発している物件のオーナーさんからのご相談で、自殺があったのはその5年前。賃貸を再開したのは数年たってからで、事故物件であることを告知のうえ、割安な賃料で貸していました。でも、何人もの人が数カ月で「気味が悪い」と出ていってしまうというんです。

その部屋で亡くなったのは1人暮らしの女性でしたが、ご両親は複雑な心境からか一度も物件を訪れていないと聞き、直感的に「ご両親の協力が必要かも知れない」と思いました。そこで管理会社を通じて連絡先を聞き、まずは電話でお父さんに事情を話したところ「娘がオバケになっているとでも言いたいのか!」と非常に気分を害されてしまいました。

――日本初の「オバケ調査」だけに、よくわかりませんもんね。

大事な娘さんのことですし、霊感商法やオカルト系の詐欺を警戒する気持ちはわかります。僕はただ、事故物件を気味悪く思う人がいるということ、オーナーが本当に困っていることを丁寧に説明し、「調査を手伝っていただけませんか」とお願いして、なんとかその部屋に同行してもらえることになりました。

後日、ご両親と僕とでその部屋を訪れたところ、お父さんの言葉に反応するかのように天井のLEDライトが点滅する現象が何度か起きました。お父さんが「そこにいるのか?」と言うと、フッと暗くなってパッと点く。ライトは新品に交換してすぐの状態とのことでしたし、リモコンやブレーカーの問題でもありません。

ご両親は部屋を訪れたことで娘さんの死を受け入れられたようで、お礼を言って帰られました。その部屋は、しばらくオーナーさんが経過観察のため寝泊まりしていたのですが、1年ほどたった今でも部屋には何も起きていないそうです。「一緒に帰ろう」と呼びかけたご両親とともに出て行ったのか⋯⋯僕にはわかりませんが。

児玉さんがオバケ? に出会った話

柔らかな物腰で怪談も披露!

――児玉さん自身は、霊感のようなものはあるのでしょうか。

自分ではないと思っているのですが⋯⋯亡くなったはずの方に出会ったことはありますね。サラリーマン時代の話ですが。

――ぜひ教えてください。

「お父さんが亡くなり、2階建ての一軒家を相続した」という男性からの依頼で、売却に携わったときのことです。その物件は男性のご実家で、お姉さんと共有名義で管理しなさいという遺言があったそうです。

男性としては遺言通りその家を持ち続けたい意向でした。しかし立地が良く大きな物件だったため固定資産税もばかにならず、お姉さんは「誰も住まないなら売って現金化したほうが良い」という考え。そこで揉めるのも嫌なので売却へ、となったわけです。

さっそく僕は、売却の査定をするために家を訪れました。預かった鍵で部屋に入り、室内をチェックしながら売却に必要な書類に記入していったのですが、1階の和室にさしかかったとき、「こんにちは」と声をかけられたんです。

――幽霊に……?

見ると1人の中年女性が、和室の畳を拭き掃除していました。お父さんが亡くなってから出入りする人はいないと聞いていたのでビックリしましたが、「大変失礼しました!」と、慌てて自己紹介をしたんです。査定に来ていると話したところ、「あの子たちったら、まったく⋯⋯」と。

その女性、「この家は主人と苦労して初めて買った不動産だから、『仲良く管理なさいね』というつもりであえて二人の共有名義にしたのに、なんでケンカするのかしら。本当にもう」とかブツブツ言い出すんです。女性は依頼者の男性のお母さんだったんですよ。家の事情もよくご存知でした。

ただ、亡くなったお父さんは一人暮らしだったと聞いていたし、相続の話にもお母さんは出てきていない。ということは離婚されたのだろうと思いつつ、「ところで、何をしてるんですか?」と聞くと、「長年お世話になった家をねぎらうために掃除しているの」って。

――律儀な方ですね。

その後も「あの子たちも昔は仲がよかったんですよ」「そこの柱に息子が頭をぶつけてケガをして」みたいなお母さんの昔話を片耳で聞きながら僕は査定を済ませました。帰り際に「鍵は開けておいていいですか?」と聞くと、「締めておいてください」と言われたのでそうして帰りました。

その夜、依頼者の男性に査定の報告をして、「そう言えば、家にお母さんがいらっしゃいましたよ」と言ったんです。すると「何言ってるんですか。母は30年前に亡くなっています。空き巣か何かじゃないですか」って怒り始めちゃって。

でも、家の事情やご家族についてよく知っていたこと、息子さんがケガをしたときの話も伝えると、やっと信じてもらえたようでした。翌日、お姉さんも一緒にその一軒家に行って、現地で改めてお母さんがどんな様子だったのかをお話したんです。お二人には羨ましがられましたよ。「私たちの前には出てきてくれないのに」って。

――児玉さん、やはり霊感があるのでは。

どうなんでしょう。そもそも僕は、その女性を実在の人間と思って接していましたし、今もオバケとは思えないんです。でも、お二人は「児玉さんにいろんなことを言って私たちをここに導いたのは、やはり母親だろうと思う」と。その家は結局、売却されませんでした。「母がいるなら、父も戻ってくるかも知れない」ということで。

霊らしき人物とじかに接したという経験はこのくらいなのですが……。

――十分です! 貴重なお話をありがとうございました。

児玉和俊(こだま・かずとし)

株式会社カチモード代表。2007年より賃貸不動産管理業に従事し、2022年に独立し現職。科学・非科学の垣根をまたぎ物件にまつわる不可思議な現象と向き合い、事故物件に悩む不動産オーナーをサポートしている。不動産業界向け講演会からオカルトイベント、YouTube出演等多岐にわたり活躍中。著書に『告知事項あり』(イマジカインフォス)など。https://kachimode.co.jp/

事故物件の、オバケ調査員 心理的瑕疵物件で起きた本当の話

原作:児玉和俊 マンガ:みつつぐ
定価 1,375円(税込)
Gakken

文=伊藤由起
写真=志水 隆

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