「試合に負けたのはママのせい」と言われ困惑した私。夫の言葉で気づいた私の歪んだ本音とは？【短編小説】

「試合に負けたのはママのせい」

リビングに響いた息子の言葉に、私は凍りつきました。
小学4年生の息子、蓮が所属するサッカーチームは、今日の試合で負けてしまいました。

雨が降る中、泥だらけになってボールを追いかける蓮を、私は誰よりも大きな声で応援していたつもりです。

それなのに。

「どういう意味？」

震える声で聞き返すと、蓮はイライラした様子で叫びました。

「うるさいんだよ、ママの声！『走れ！』とか『そこじゃない！』とか！集中できないんだ！」

バタン、と乱暴にドアを閉めて部屋にこもってしまった蓮。
私はその場に立ち尽くすしかありませんでした。

私は、蓮のために必死でした。練習の送り迎え、栄養を考えた食事、汚れたユニフォームの洗濯。
試合の日は、蓮が最高のプレーをできるようにと、力の限り応援していました。

それが、蓮にとっては「うるさい」だけだったなんて。ショックで、涙が溢れて止まりませんでした。

その夜、帰宅した夫の翔太に、泣きながら今日の出来事を話しました。
「蓮も悔しくて、当たり散らしただけだよ」翔太は優しく慰めてくれましたが、ふと、こう付け加えました。

「でも彩、最近ちょっと応援に熱が入りすぎじゃないか？蓮が、というより彩が試合をしてるみたいだ」

夫の言葉に、ハッとしました。

私は、本当に蓮のためを思って応援していたのでしょうか。

私の「本音」は、違ったのかもしれません。

もし蓮がミスをして負けたら、他の保護者から「伊藤くんのせいで」と思われるのが怖かった。

一生懸命サポートしている「完璧な母親」だと思われたかった。

私の応援は、蓮のためではなく、私自身の見栄や不安を満たすためのものだったのです。
蓮のプレーではなく、周りの目ばかりを気にしていました。

翌朝、私は目を腫らしたまま、蓮に謝りました。

「蓮、ごめんね。ママ、周りのことばっかり気にして、蓮にプレッシャーかけてた」

蓮は驚いた顔をしましたが、小さな声で「…俺も、ごめん。ママのせいじゃない。悔しくて、言っちゃった」と言ってくれました。

あの日以来、私は試合で大声を出すのをやめました。
ただ静かに、蓮が仲間たちとサッカーを楽しむ姿を見守るようになりました。

息子に「負けたのはママのせい」だなんて言わせたのは、紛れもなく私の「本音」が歪んでいたからです。

もう二度と、あんな思いはさせたくありません。

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

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