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「ライブで頑張って拍手しようとしなくていい」。 “どうしても肩の力が抜けない人”に「涙そうそう」を生んだBEGINの音楽が効くワケ

  • 2025.10.24

いきなりで申し訳ない。「我ながら肩の力抜くのが下手だぜ族」挙手をお願いします。手を挙げた方、友よ……(固い握手)。一緒です! 私もなにをするにも緊張する。アプリをダウンロードする、電子マネーを差し出すなど、少しのことでも肩に力が入ってしまう。夏は暑さ、春と秋は気温の微妙な変化、冬は寒さ、どれも緊張の原因になる。オールシーズン、肩がガチガチだ!

どうすればよいのか、気が休まったことがないこの人生。最近では「もしかして石垣島に改善のヒントがあるのではないか」と思い始めている。

なぜ石垣島? 当然な疑問である。きっかけはBEGINである。このバンド、存在そのものがなんというか、とってもネイチャー。寄せる波のようにジワジワと聴きたくなって、砂が水を吸うように心に沁み入り、日常の忙しさでスーッと忘れ、しかしまた波のように聴きたい欲が押し寄せるというイメージなのだ。テクニカルなのに押しつけがましくない三線の音色。「ほのぼの」と「しみじみ」を攪拌させたような温かな歌声。軽やかで楽しいイーヤーサッサの掛け声! あのおおらかさを生んだ沖縄県石垣島に、私を解放するリラクゼーションがあるのではなかろうか。

沖縄県石垣島出身の幼なじみ3人で1988年に結成。

実はこの夏、ビルボードライブ大阪の公演に行ったのだが バリバリ楽しい宴会に紛れ込んだ感覚! 踊りながらステージに乱入する人が出てきてもおかしくないくらい、オープンマインドな空気だった。気が付けば私は100年前からの彼らのファンのように手を振り上げ、「イーヤサッサ!」と大声で叫び踊り、この日が初対面の隣の座席の人と、100年前からの友人のように乾杯していたのである。BEGINの心の扉を開く音楽マジック、ヤバいぞ!


やさしすぎて切ない「声のおまもりください」

1990年3月21日発売「恋しくて」(発売元:テイチク)。日産自動車のCMソングとなり、大ヒットを記録。

私がBEGIN(比嘉栄昇、島袋優、上地等)を知ったのは100年前ではなく35年前の1990年。デビューシングル「恋しくて」である。ただ、90年代の彼らの歌には、沖縄フレイバーはほとんど感じなかった。

当時のBEGINで私がよく覚えているのは、1996年の「声のおまもりください」。「さよならまたね」で始まるこの曲は、歌声があったかいから、余計にすごく寂しくて、たまらなかった。

それほど、「誰かを好きになってしまったら、とたんに心が頼りなくなる」というあの我慢ならない現象をズバリと歌い上げている。「恋ってそれおいしいの?」状態になってしまった今聴いても、破壊力は変わらず。夕焼けがきれいな日は、とても聴けない。やさしすぎて切なくて胸が苦しい。

1996年7月6日発売「声のおまもりください」(発売元:ファンハウス)。

そのほか「空に星があるように」のカバーなどが話題になったけれど、「恋しくて」ほど大きなヒット曲が出なかったBEGIN。それでも彼らはライブ活動を淡々と続けた。会場がどんどん狭くなっていったそうだが、3人は気にしない。それどころか、車一台で身軽に全国を回る旅を楽しんだそうだ。ええなあ。

小学校からずっと友達。ケンカしそうなものだが、100回同じ話をしても、笑ってしまうのだとインタビューで読んだ。ええなあ。

「ええなあ」と思わずニッコリし、肩の力が抜ける。私にとって、それがBEGINのイメージだ。

カラオケで大盛り上がり!「島人ぬ宝」

2002年5月22日発売「島人ぬ宝」(発売元:インペリアルレコード)。

ビッグヒットが出なくてもなんくるないさ。そうして気が付けば、彼らは島唄を歌い始めていた。きっかけは2000年にリリースした初の島唄アルバム「ビギンの島唄 ~オモトタケオ~」だそうなのだが、悔しいことに、私がこのアルバムを聴いたのはかなり後である。

このアルバムには、のちにロングヒットを記録するあの森山良子さんとの名コラボ超絶美曲「涙そうそう」も収録され、同年18thシングルとしてリリースもされていたのに! こういったアーティストのターニングポイント聴き逃しはマジで時間よ戻れと思う。リアルタイムで聴いたからこそ感じられた尊い温度があったはずなのだ。悔しいなあ。アンテナは張っておくべきだなあ(泣)。

私のBEGINの島唄との出会いは、2002年の「島人ぬ宝」「オジー自慢のオリオンビール」である。しかもこの2曲も、初めて聴いたのはご本人歌唱ではなく、カラオケスナックでのオッサンの熱唱である。オッサン経由ではあるが、これは誰が歌っても盛り上がる、スベリなしの恐ろしいアドレナリンソングだと舌を巻いた。絶対同調したくない嫌いな上司やライバルが歌ったとて、超笑顔で応援してしまうだろうリズム!

書いているうちにまた聴きたくなり「オリオンビール」という単語で検索したら、オリオンビールが9月に上場したというニュースがヒットした。なんだかおめでとうございます。夢と飲むからおいしいさ!

「楽にいきましょう」

2025年7月2日発売「太陽」(発売元:AMUSE MUSIC ENTERTAINMENT)。

今年35周年を迎えたBEGIN。7月にニューアルバム「太陽」をリリースした。そこに収録されている「なんくる君であれ」のMusic Videoなんて、船も飛行機もいらない、観て聴くだけで石垣島まで行ける、BEGIN版どこでもドアだ! 「ほあ~」と顔の筋肉が緩み、気が付いたら、幸せな気持ちと切ない気持ちがいっしょに、額の真ん中あたりの毛穴からしんしん浸透していくのだ。おかげで、しばらくは鼻と目がジワッと熱くなる。つまり、どこでもドアであると同時に、聴くホットアイマスクでもある!

「なんくるないさ」は「何とかなる」という意味でよく使われるけど、「なんくる」が別の言葉とセットになっているのはあまり聞いたことがなく、調べてみると「自然に」という意味だった。この意味を知った瞬間、夏のライブでの彼らのMCを思い出した。

「みなさん、頑張って拍手しようとしなくていいです。楽にいきましょう」

あっはっは! あのとき私は笑うと同時に、ずっと肩のあたりにへばりついていた緊張が、プシュアーと小さい発泡音をたてて静かにはじけ消えていくのを感じたのだ。

彼らの歌声と、会場に満ちた笑顔と乾杯に揺れるグラスの光景、そしてこの「楽にいきましょう」の言葉は、今も不思議な温度を持って心に残っている。

「いつか琉球音楽とブルースを融合したオリジナルな歌を日本中の人たちに届けて、沖縄と日本本土の架け橋になりたいって使命感に燃えてた。誰にも頼まれてないのに」

BEGINデビュー35周年を記念した婦人公論.jpのインタビューで、比嘉さんはデビュー当時についてこう語っていたが、本当にその通りになっている。石垣島に降り注ぐ太陽は、こんな感じであったかいのだろう。彼らの声を聴いて想像したとおりに。

2025年1月29日発売「BEGIN さにしゃんベスト」(発売元:インペリアルレコード)。

これからも、ふと「BEGIN」を聴くたび、流れてくるやわらかい歌声と三線の響きに、肩の力が抜けるだろう。なんくる私でいれるだろう。

そして、歌の隙間からこの言葉も聞こえてくるのだろうなあ、と思うと、それだけで嬉しくなるのだ。

「楽にいきましょう」

ああ、本当に声のおまもりだ。

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

文=田中 稲

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