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「右投げ左打ち」は最強の打撃スタイル? 大谷翔平も実践する「非対称フォーム」の科学的優位性

  • 2025.10.25
【医師が解説】日本人の左利きの割合は10%程度ですが、日本のプロ野球選手は左打者が約半数と言われています。イチロー、大谷翔平、松井秀喜選手らが「右投げ左打ち」なのは偶然ではありません。科学的根拠を分かりやすく解説します。※写真:アマナイメージズ
【医師が解説】日本人の左利きの割合は10%程度ですが、日本のプロ野球選手は左打者が約半数と言われています。イチロー、大谷翔平、松井秀喜選手らが「右投げ左打ち」なのは偶然ではありません。科学的根拠を分かりやすく解説します。※写真:アマナイメージズ

イチロー選手、松井秀喜選手、大谷翔平選手……。

実は彼らには、ある「共通点」があるのですが、それが何だか分かりますか?

1つは「メジャーリーガー」として大活躍していること、そしてもう1つは「右投げ左打ち」スタイルであることです。実は「右投げ左打ち」は、野球界では特別な意味を持ちます。特に近年の研究では、打撃面での大きなメリットが科学的に示されつつあります。

最新の研究論文をもとに、「右投げ左打ち」がなぜメジャーリーガーとして有利なのかを解説します。

「右投げ左打ち」はプロへの近道!? 最新研究が示す驚きのデータ

「利き手と脳の関係」については、以前から研究されてきました。1982年には、左利きの選手が野球の打撃で有利であるという報告が発表されています。

しかし、その後の再分析により、「右投げ左打ち」の選手に、さらに大きなメリットがあることが明らかになりました。

医学的に権威のある雑誌である『New England Journal of Medicine』に2017年に掲載された報告で、1980年当時のプロ野球選手(投手を除く)を対象に、バッティングスタイルとプロ入り確率の関係を再検証したものがあります(※1)。

結果は驚くべきものでした。「右投げ左打ち」の選手がプロになる確率は、「左投げ左打ち」の選手の約3倍も高かったのです。通常スタイルと比較したら7.6倍もの差がありました。

さらにキャリア打率.299以上のトップ打者に絞ると、その差はより歴然で、右投げ左打ちの選手は、トップ打者になる可能性が「左投げ左打ち」の選手の約4.8倍も高かったのです。

すなわち、「右投げ左打ち」は、圧倒的に実績を出しやすいスタイルということが分かります。

なぜ「右投げ左打ち」が有利なのか? バイオメカニクスが明かす秘密

では、なぜ「右投げ左打ち」がここまで有利になっているのでしょうか? 研究では次のような複数の要因が挙げられています。

1. 左打者に対する投手の経験不足

右投手が多い野球界では、左打者と対戦する機会が限られており、結果的に左打者が有利になりやすい

2. 投球の見え方の違い

右投手のボールは左打者から見ると内側から外へ逃げるように見え、軌道を視覚的に捉えやすい

3. 一塁までの距離の短さ

左打者は右打者よりも約1歩分一塁に近いため、ゴロでも出塁しやすい

4. 守備配置の非対称性

左打者に対する守備は右打者中心に最適化されているため、野手の反応にズレが生じやすい

5. チーム戦略の幅

左打者は打線のバランスを取る上で重宝され、出場機会が増えやすい

しかし、これでは「左投げ左打ちでも同じではないか」と思うかもしれませんね。最も注目すべき点は、「バイオメカニクス的な利点」です。

「右投げ左打ち」の選手は、利き手である右手をバットのグリップから遠い位置(トップハンド)に置くことになります。そのため、バットを振る際のレバーアームが長くなり、より大きな力をボールに伝えやすくなる可能性があると考えられています。つまり、右投げ左打ちは「効率よく力を出せる打撃フォーム」とも言えるでしょう。

もちろん、バットコントロールとの引き換えになる可能性もありますが、長距離打者にとっては大きな利点です。

また、他の論文では「右投げ左打ち」になると、バットを支えるボトムハンド側の肩関節の外転が大きくなる一方で、下胴の回転が小さく、上胴・下胴の角速度が小さい傾向にあることが分かっています。つまり「右投げ左打ち」では筋肉の使い方が全く異なるということです。

野球の才能は1つではない! 右投げ左打ちが全てではない理由

右投げ右打ちの選手は、投げる・打つの両方で同じ側の筋肉を酷使しやすく、筋肉のバランスが偏りやすいと考えられていました。そのため、かつては左打ちへの転向が「体のバランスを整える」方法として注目されていました。しかし、最新研究からは「右投げ左打ち」が単なる偶然ではなく、理にかなった結果であることが示されています。

筆者の母校である桐蔭学園高校には、同学年に高木大成選手(元プロ野球選手・西武ライオンズ)(※高は、はしごだか)、2学年下には高橋由伸選手(元プロ野球選手・読売ジャイアンツ)と言ったスター選手がいたので、より「右投げ左打ち」の選手に特別な感情があるのかもしれません。彼らは内野ゴロでも俊足と左打者の利を生かし、数多くの安打を積み重ねていました。

ただし、野球の世界には多様な才能があります。

左投げ投手は希少で有利とされる一方、キャッチャーや内野手は右投げのほうが動作効率的に有利です。また、左投手に強い右打者を目指すという戦略も十分に考えられます。「右投げ左打ち」は強力な武器ではありますが、唯一の成功法ではありません。

とはいえもしメジャーリーガーを目指すのであれば、単純に「右投げ左打ち」というイチロー、松井秀喜、大谷翔平選手のスタイルで目指してみるのも、1つの手かもしれません。

■参考文献
1. David L.Mann,Florian Loffing,Peter M. Allen, The Success of Sinister Right-Handers in Baseball.N Engl J Med 2017;377:1688-1690.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc1711659
2. 川村卓,波戸謙太,小池関也,他. 野球の打撃における左右打者の相違について. 日本体育・スポーツ・健康学会予稿集 2021.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspehssconf/71/0/71_397/_article/-char/ja/
3. Neuroscience News.Right Handed Baseball Players More Successful When Batting Left Handed.October 31, 2017.
https://neurosciencenews.com/baseball-handedness-7841/

秋谷 進プロフィール

小児神経学・児童精神科を専門とする小児科医・救急救命士。プライベートでは4児の父。子どもの心と脳に寄り添う豊富な臨床経験を活かし、幅広い医療情報を発信中。

文:秋谷 進(医師)

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