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罹患したら、治療期間は1年以上?!中高年女性に多い「肺NTM症」。その治療法とは?

  • 2025.10.22

罹患したら、治療期間は1年以上?!中高年女性に多い「肺NTM症」。その治療法とは?

慶應義塾大学病院の南宮 湖先生によると、肺NTM症は「長くお付き合いする病気」だといいます。治療法は年々進歩しており、患者さんの負担も次第に軽減されてきているそうです。第2回では、肺NTM症の治療について南宮先生に伺いました。

基本治療は、3種類の抗菌薬の飲み薬

——肺NTM症と診断されたら、どんな治療を行うのでしょうか。

基本は、抗菌薬による治療になります。主に飲み薬を使うのですが、①クラリスロマイシン(またはアジスロマイシン)、②エタンブトール、③リファンピシンという3種類の抗菌薬が使われます。1回の服用が10錠以上になってしまうこともありますが、最近では研究が進み、初期の段階や病状が進行していない患者さんに対しては、服用量を少なくしても効果に差がないとわかってきました。ここ数年で、患者さんへの負担がだんだん少なくなってきている印象です。

注意すべき副作用ですが、クラリスロマイシンは下痢や腹痛などの症状が出ることがあります。エタンブトールは、まれに視力障害をきたすことがあるため、眼科に定期的に通院しながら治療を進めることが大切です。リファンピシンは尿や汗などの体液に赤っぽい色がついたり、肝機能障害を起こすことがあり、様子を見ながら服用していきます。

進行している場合は吸入・点滴、手術をすることも

——飲み薬以外の治療もあるのでしょうか。

はい。抗菌薬で治療を続けても、たんから菌が出続けている人や、肺に空洞ができて悪化してしまう人には、プラスアルファの治療として抗生物質の吸入や点滴が行われます。

——「肺に空洞」とは、どういう状態ですか。

菌の感染が続くことで肺の組織が壊れて、穴のような空洞ができた状態です。この空洞には菌が多く集まりやすく、飲み薬の成分も届きにくいため、病気が進行しているサインになります。空洞ができている場合は、より積極的な治療が必要になります。

抗生物質の吸入は基本的に1日1回、約15分を1年ほど続けます。点滴は、患者さんの自宅では行えないため、自宅の最寄りのクリニックなどにお願いして週3回程度、1回30分ぐらい行います。効果を見ながら、3か月から6か月ぐらい点滴することが多いですね。

また、体力があり手術に耐えられる患者さんで、肺の一部を取れば改善する、もしくは菌がいなくなることが想定できる場合は、手術を検討することもあります。手術にまで至るのは、治療中の患者さん全体の1割弱くらいです。

治療期間は最低でも1年以上。経過は人それぞれ

——肺NTM症の治療期間はどのくらいですか?

飲み薬を飲んでから、まずは3~6か月くらいで効果を見ます。そのくらいの期間で、たんから菌がいなくなる(陰性化する)患者さんが約6~7割。残りの3割強の患者さんは菌が出続けているので、次の段階として吸入や点滴を検討します。

菌が陰性化してからも、少なくとも1年は治療を続ける必要があります。なかなかしつこい菌ですし、これから先10年、20年後に元気な肺の状態でいられることを目指して長く治療を行うことになります。最近の研究では、陰性化しても1年3か月~1年半ほど治療を続けたほうが、5年後、10年後の経過がいいといわれています。

——治療経過について教えてください。

肺NTM症と診断されても、症状が落ち着いている場合は、薬を飲まずに経過を観察するだけでよいケースもあります。治療しなくてもよいケース、薬を飲んで改善するケース、そして薬を飲んでも進行してしまい、さらに治療が必要になるケースが、それぞれおおよそ3分の1ずつという印象です。

最近では、重症になる前に早めに治療を始めようという考え方が広がってきています。新しい薬も登場しており、今後さらに治療法の選択肢が増えていくことが期待されます。

この記事のポイント

・基本治療は3種類の抗生物質の飲み薬
・最近は薬の錠数が減り、患者の負担が軽くなってきている
・進行している場合は吸入や点滴、手術という選択肢もある
・治療期間は菌が陰性化してからも最低1年以上。早期治療が重要

プロフィール

南宮 湖先生
慶應義塾大学医学部 感染症学教室 教授

なむぐん・ほう●慶應義塾大学病院予防医療センター助教、永寿総合病院呼吸器内科、米国国立衛生研究所アレルギー・感染症研究所博士研究員などを経て、2025年4月より現職。肺NTM症の宿主因子を探索するための国際共同研究グループを主宰。同じ感染症にかかっても重症化する人・しない人がいることに関心を持ち、国内外の研究者と共に研究を進めている。

撮影/柴田和宣(主婦の友社) 構成・文/武田純子

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