1. トップ
  2. かぜではなかった!結核やぜんそくよりも死亡者数が多い「肺NTM症」中高年女性に多い理由とは?

かぜではなかった!結核やぜんそくよりも死亡者数が多い「肺NTM症」中高年女性に多い理由とは?

  • 2025.10.21

かぜではなかった!結核やぜんそくよりも死亡者数が多い「肺NTM症」中高年女性に多い理由とは?

「どうして私が?」――多くの患者さんがそう口にするという「肺NTM症」。慶應義塾大学病院の南宮 湖先生によると、中高年女性に増えてきている病気ですが、認知度が低く、気づかず過ごして悪化する人も多いといいます。第1回では、肺NTM症の原因や症状、診断方法について南宮先生に伺いました。

結核菌の仲間だけれど、人から人にはうつらない

——「肺NTM症」という病気について教えていただけますか。

NTM(非結核性抗酸菌)という細菌が肺に感染する、慢性かつ進行性の呼吸器疾患です。肺の奥のほうに細菌が住みついて、人によってさまざまな症状が出ますが、なかには症状が一切出ない人もいます。

NTMは結核菌の仲間ですが、結核ではありません。細菌のなかには『抗酸菌』という大きなグループがあり、その中に結核菌と、らい病を起こす菌があります。この2つを除いたものがNTMです。自然の中にいる常在菌で、何らかの原因で人に感染することがありますが、人から人には感染しないといわれています。そのため、もし感染しても隔離入院の必要はございません。

——感染しやすい人はいるのでしょうか?

中高年以降の女性、特にやせ型の人が肺NTM症になりやすい傾向があります。詳しいメカニズムはまだわかっておらず、特に閉経後の女性がなりやすいといわれています。男性の場合はタバコを吸っていたり、かつて結核だったり、肺に基礎疾患がある人がなりやすいのですが、女性はそういった基礎疾患のない人が感染することが非常に多いです。やせていることや、ホルモンバランスが原因なのではと推測されていますが、まだ解明されていません。

——日本での患者数が増えているそうですね。

肺NTM症はここ20年で増え続けています。2022年の厚生労働省の統計では、NTM感染症(肺NTM症を含む)の死亡者数は、結核やぜんそくの死亡者数を上回る2,360人でした。世界でも増加傾向で、特に日本、韓国、中国などの東アジア圏で患者数が多くなっています。高齢化や、近年の診断技術の向上が増加の一因ではないかといわれています。

かぜによく似た症状。体重減少にも注意

——どんな症状が出るのでしょうか。

初期に出やすいのは、かぜのような「せき」と「たん」です。また、この病気の特徴的な症状として、たんに血が混じる血痰(けったん)が出ることがあります。肺にある気管支の周りの血管が、炎症やせきで切れてしまい出血して、たんに混じって出てきます。最初はこの血痰に驚く患者さんも多いのですが、肺の中には痛みを感じる神経がないので、痛みやつらさはあまりありません。

病状が進むと、微熱やだるさを感じることがあります。また、理由はわかっていないのですが、体重減少もよくある重要な症状です。

せきが3週間続いたら受診しましょう

——受診の目安はありますか。

一般的には、せきが3週間ぐらい続くようなら、内科や呼吸器内科などの医療機関を受診した方がいいでしょう。血痰が出た場合は、すぐに受診してください。

——診断はどのように行われるのでしょうか。

たんを調べて菌を見つける「喀痰(かくたん)検査」を行います。CTでの画像検査で見つかるケースもありますが、確定診断をするには喀痰検査が必要になります。ただ、NTMという菌は私たちの周りに普通に存在する常在菌なので、1回だけの菌の検出では診断できず、2回以上検出して初めて肺NTM症だと診断されます。

また、NTMはインフルエンザやコロナと違って、増殖スピードがとても遅いため、検査が終わるまで最大で1か月半ぐらい時間がかかります。かなり待つことになりますが、この期間に急激に病気が進行することはまれですので安心してください。

この記事のポイント

・肺NTM症は非結核性抗酸菌が肺に感染する病気
・結核菌の仲間だが、人から人にはうつらない
・中高年以降の女性、特にやせ型で閉経後の人がなりやすい
・主な症状はせき、たん、血痰、体重減少など
・せきが3週間続いたら受診したほうがいい

プロフィール

南宮 湖先生
慶應義塾大学医学部 感染症学教室 教授

なむぐん・ほう●慶應義塾大学病院予防医療センター助教、永寿総合病院呼吸器内科、米国国立衛生研究所アレルギー・感染症研究所博士研究員などを経て、2025年4月より現職。肺NTM症の宿主因子を探索するための国際共同研究グループを主宰。同じ感染症にかかっても重症化する人・しない人がいることに関心を持ち、国内外の研究者と共に研究を進めている。

撮影/柴田和宣(主婦の友社) 構成・文/武田純子

元記事で読む
の記事をもっとみる