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【中目黒・うつわ探訪】ここの店主のセレクトは信用できる! “いつ訪れても”素敵なうつわに出会える店「SML」《目指すは“街のうつわ屋さん”》

  • 2025.10.18

人気作家のうつわを求めてお店に行ったものの売り切れていた、お目当ての商品が入れ替わっていて手ぶらで帰宅……こんな苦い経験がある人も多いはず。おすすめしたいのは、店主やバイヤーのセレクトが秀逸で「いつ訪れても」素敵なうつわに出会えるお店。今回は、中目黒のうつわ店「工藝 器と道具 SML」をご紹介します。


小鹿田焼との出合いから、“民藝”の世界へ

住宅街の一角に構える店舗。

中目黒駅から池尻方面へ、徒歩7分。目黒川沿いから少し路地を入った住宅街に構える「工藝 器と道具 SML」。店内には、全国各地の作家が手がけたうつわを中心に、日々の暮らしを彩る生活道具が並ぶ。

店内は不定期でさまざまな作家の個展を開催。もちろん、“常設”のうつわも。
取材時に並んでいた、齊藤十郎さんのスリップウエア。

開業は2008年。

「はじめは恵比寿の、小さなガレージのようなところからスタートしたんです。6畳くらいだったかな」と話す店主・宇野昇平さんは、もともとはデザインが本職。デザインの仕事は受注が基本。それだけにとどまらず、自分たちから何か発信がしたい、とまずは恵比寿にカフェと海外雑貨を扱うセレクトショップを開いた。

ヨーロッパを中心に買い付けに行くたび、「日本のデザインの方がクールなのに、なぜこんな場所に来るんだ?」と言われることも多く、もどかしさを感じていたのだとか。そんな宇野さんにとって、大きな転機となったのは、「ヨシタ手工業デザイン室」の横須賀雪枝さんを通して知った小鹿田焼との出合い。

「それまでまったく知らなかったのですが、こんなにモダンなデザインのうつわが日本で、それも300年も前から作られていたなんて……と衝撃を受けました。そうして調べていくうちに“民藝”というキーワードにたどり着きました」

民藝に興味を持った宇野さんは、山陰や九州をめぐり、さまざまな作り手のもとを訪れる。

「どうアプローチすればいいかわからなかったから、事前に筆ペンで手紙を書いたんです。当時の僕は、陶芸作家=ガンコで、でき上った作品が気に入らなかったら割ってしまう、と思い込んでいて(笑)。それで、いきなりメールや電話は失礼だからと、とてつもなく長い手紙を書いたうえで電話をかけたら『いまどき、あんな手紙を書く人はいないよ』とあきれられてしまいました」

結果的に、「印象を残すことができたから、お付き合いが続いているのかもしれません」と笑う宇野さん。自分と同じように「うつわとの出合いに心を揺さぶられる衝撃を受ける人がいるはずだ」と感じ、雑貨店からうつわの店へ転向。小鹿田焼をはじめ、民藝の流れをくむうつわを中心に扱っていたが、やがて「民藝は生活を彩るひとつのエッセンスだ」と考えるように。

気取らず、ふらっと立ち寄れる“街のうつわ屋さん”でありたい

「音楽が好きで、酒×音楽のイベントも始めました」とオーナーの宇野昇平さん。

「初めの頃はうつわブームと重なったこともあって“ネオ民藝”の店なんて言われたりもしたんですが、僕はそれがどうにも違和感があり……。僕たちの生活の中には、民藝の流れをくむうつわや道具もあれば、デザインされたプロダクトや100均のものもある。店もまた、自分の生活の延長線上にある存在として、いろいろなうつわやプロダクトを紹介したいと思ったんです」

何を盛るか、自分の手になじむか。楽しみながら選んでほしい。

宇野さんが目指しているのは“街のうつわ屋さん”。初めてうつわを自分で買う若い世代や、今までお気に入りのうつわに出会えなかった方々が、時間をかけてじっくりとご飯茶碗を選んでいる姿を見ると嬉しくなるという。ゼロからスタートした“街のうつわ屋さん”は、やがて作家とのつながりが紹介へとつながり、輪が広がっていった。

「初めてうつわを買うときに、思い出してもらえるような存在になりたいんです。使っている土や釉薬がどうという話よりも――もちろん、必要に応じて説明はしますが――、作り手のストーリーやどんな料理を盛るのか、その先のことまで一緒に考えられたら」

取材時に並んでいた杉本義訓さん(牧谷窯)のうつわ。
色の異なる粘土を組み合わせて模様を作る「練り込み」技法が特徴。

現在は常設展のほか、不定期で作家の個展や企画展が開催されている。客層は20~50代と幅広く、最近では国内外の外国人のお客様も多いのだとか。コミュニケーションが生まれやすいよう、それぞれの世代に近いスタッフを配置しているのも特徴のひとつ。

うつわは飾っておくものではなく、毎日使う道具。そんな思いから、取扱作家のうつわを使った料理教室や道具のお手入れワークショップなど、うつわを日々の暮らしに結びつけるようなイベントも企画している。

「こうしたイベントの目的は“うつわ好き”のすそ野を広げることなんです。お酒や料理をテーマにしたイベントをやっていると、飲食店と間違えた方が『2名なんですけど……』と入ってこられることも(笑)。」

単に「うつわを買いに行く」ためだけではなく、「SMLに行きたい」と思ってもらえる存在になりたいと話す宇野さん。

茶器やクロモジ茶が並ぶコーナー。オリジナルの茶こしは福田るいさん(小代瑞穂窯)によるもの。

「正直なところ、毎回何かを買わなくてもいいんです。スタッフに会いに来たり、大切な人への贈り物を探すときに『そういえば』と思い出してもらえたら」

SNSが発達し、一般の人でも窯元や作り手と直接つながれる時代だからこそ、自分たちなりのセレクトや、一つ一つのうつわや道具がより身近に感じられる見せ方、そしてぬくもりのあるコミュニケーションを大切にしながら、魅力ある店を作り続けている。

店頭には「SML」と描かれた看板代わりのプレートも。

工藝 器と道具 SML

所在地 目黒区青葉台1-15-1 AK-1ビル1F
電話番号 03-6809-0696
営業時間 12:00~19:00(土日祝は11:00~)
定休日 不定休
Instagram @kiguu15

文=河西みのり
撮影=深野未季

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