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マストウォッチ! 歴史を代表するファッション映画12選

  • 2025.10.14

ファッション映画は観客のインスピレーション源になるだけでなく、時代の写し鏡でもある。ファッションと映画ほど相性のいい組み合わせはない。ドレスの繊細な動きを監督の巧みな技術で捉えた映像や、デザイナーの長年にわたる業界への貢献を描いた名作……ファッションは、映画史に残る印象的なシーンを数多く生み出してきた。

ファッション業界という謎に包まれた世界への好奇心を満たすため、あるいはファッション史における重要な瞬間の裏側を知るため、華やかな装いで夢の世界に浸るためでもいいだろう。今回は、今観るべき歴史を代表するファッション映画12本を紹介する。

1. 『パリの恋人』(1957年)

FUNNY FACE, Audrey Hepburn, 1957.

ハリウッド黄金期の華やかさを愛する人、ミュージカルに目がない人、そしてパリへの憧れを抱き続けている人にとって、『パリの恋人』ほどよろこびに満ちた作品はないだろう。オードリー・ヘプバーンが演じるのは、ニューヨークの小さな書店で働く控えめな店員ジョー・ストックトン。彼女の夢は哲学を学ぶためにパリへ行くこと。ところが、ひょんなことから著名なファッション写真家ディック・エイヴリー(フレッド・アステア)に見出され、ミューズとしてパリへ渡ることに。ジョージ&アイラ・ガーシュウィンの楽曲、エディス・ヘッドとユベール・ド・ジバンシィによる豪華な衣装、そしてパリの美しいロケーションが詰め込まれた本作は、オートクチュールの魅力を称える完璧な1本だ。

印象的なシーン

ランウェイでのピンクのショートケープ、ラストシーンでのドロップウエストのバトーネック・ウェディングドレスなど、エディス・ヘッド&ジバンシィが手がけた衣装はどれも息をのむ美しさだ。ジャズクラブのシーンでヘプバーンが着る黒のタートルネック、カプリパンツバレエフラットの組み合わせは、1950年代を象徴するスタイルとして時代を表象している。

ファッショントリビア

編集長マギー・プレスコット(ケイ・トンプソン)のキャラクターは、実在のファッションアイコン、ダイアナ・ヴリーランドをモデルにしているそう。また、フレッド・アステア演じる写真家は、伝説的なフォトグラファー リチャード・アヴェドンから着想を得ている。

2. 『欲望』(1966年)

Vanessa Redgrave and David Hemmings in *Blow-Up.*
BLOWUP, (aka BLOW UP, aka BLOW-UP), Vanessa Redgrave, David Hemmings, 1966Vanessa Redgrave and David Hemmings in *Blow-Up.*

このリストのなかでも、最もダークで官能的な1本。イタリアの名匠ミケランジェロ・アントニオーニ監督によるスリラーで、舞台はスウィンギング・ロンドンの熱狂に包まれた1960年代。デヴィッド・ヘミングス演じるファッション写真家のトマスが、偶然殺人現場を撮影してしまった疑いから物語が展開。トマスの女性に対する態度は、現代にはない当時の時代背景を反映している。ヴェルーシュカやジェーン・バーキンらの登場によってさらに魅力的な一作に。ファッション史の転換期を記録した貴重な映像資料として存在感を放つ。

印象的なシーン

ヴェルーシュカがメタリックなミニドレスをまとって床を転がる姿は女神そのもの。また、バーキンのストライプのシフトドレスと無邪気な表情は、当時の若い女性たちの憧れだった。

ファッショントリビア

トマスのキャラクターは実在の英国人ファッションフォトグラファー、デヴィッド・ベイリーやドン・マカリン、ジョン・コーエンらをモデルにしている。

3. 『ポリー・マグーはどうしている?』(1966年)

Models in *Who Are You, Polly Maggoo?*
QUI ETES-VOUS, POLLY MAGGOO?, (aka WHO ARE YOU, POLLY MAGGOO?), 1966Models in *Who Are You, Polly Maggoo?*

『欲望』と同年に公開された本作。スウィンギング・シックスティーズの世界をまったく異なる視点で描いている。アメリカ出身の写真家で映画監督のウィリアム・クラインが手がけ、ファッション業界の過剰で軽薄な側面を皮肉たっぷりに描いた、グラマラスでありながらグロテスクな風刺映画だ。衣装は1960年代のスタイルを見事に再現。ジャン=ポール・ゴルチエやマーク・ジェイコブスにも影響を与えたとされる。特筆すべきは、グレイソン・ホール演じるファッション編集長ミス・マクスウェルの存在感。彼女はまるでダイアナ・ヴリーランドを思わせるカリスマ性で、辛辣な一言でキャリアを左右させるほどの力を持つ人物として表象される。

印象的なシーン

冒頭でポリーが身にまとうスペースエイジ風のアルミニウムドレスは、パコ・ラバンヌやアンドレ・クレージュらによる当時の未来的デザインへのオマージュだ。

ファッショントリビア

監督のウィリアム・クラインは実際に『VOGUE』のファッションフォトグラファーだった。主演のドロシー・マクゴーワンも、実際にモデルとして活躍していた人物である。

4. 『マホガニー』(1975年)

MAHOGANY, Diana Ross, 1975
MAHOGANY, Diana Ross, 1975MAHOGANY, Diana Ross, 1975

ダイアナ・ロスが演じるのは、アメリカのデザイン学生トレイシー・チェンバース。彼女の作品は偶然にも1970年代ローマの上流社会で注目され、ファッション界の寵児となる。モータウン・レコードの創設者ベリー・ゴーディが監督した本作は、きらびやかなファッションの世界を称えると同時に、現代にも通じる社会的メッセージを持つ。トレイシーは、故郷・シカゴで再開発に抗う黒人活動家の恋人と、ヨーロッパでの華やかなキャリアとの間で葛藤する。豪華なサウンドトラックも魅力的な、ファッション・ファンタジーだ。

印象的なシーン

最も有名なのは、ロスがミラーパーツを散りばめた輝くマントをまとい、スポットライトの下でまばゆい光を放つシーン。その他の衣装も、ホルストンやボブ・マッキーを思わせる要素が満載だ。

ファッショントリビア

ロスは60点以上ある衣装のうち、50点を自らデザイン。衣装デザイナーとしてはクレジットされていないがその影響は今も健在で、ビヨンセリアーナゼンデイヤらがレッドカーペットでオマージュしている。

5. 『プレタポルテ』(1994年)

Marcello Mastroianni and Sophia Loren in *Prêt-à-Porter.*
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ロバート・アルトマン監督による群像劇。アルトマン特有のモキュメンタリー的手法を駆使し、パリ・ファッションウィークを舞台に多くのスターたちが登場する。ジュリア・ロバーツソフィア・ローレンローレン・バコールなどがファッション業界人たちを演じ、フランス・ファッション評議会の会長オリヴィエ・ド・ラ・フォンテーヌの死をめぐる騒動が描かれる。公開当時は批評的にも興行的にも不振だったが、年月を経てファッション業界からの評価は愛着へと変わった。1990年代のランウェイ全盛期を記録した映画として、これほど魅力的な作品はないだろう。

印象的なシーン

ジャン=ポール・ゴルチエ、ティエリー・ミュグレーソニア・リキエルクリスチャン・ラクロワヴィヴィアン・ウエストウッドなど、実際のパリ・ファッションウィークのショー映像が登場する。

ファッショントリビア

カメオ出演陣はまさに、当時のファッション界オールスター。ソフィア・ローレン、ジュリア・ロバーツ、ティム・ロビンス、ローレン・バコールのほか、アヌーク・エメ、フォレスト・ウィテカー、ルパート・エヴェレット、ナオミ・キャンベルクラウディア・シファーリンダ・エヴァンジェリスタなどが登場する。

6. 『プラダを着た悪魔』(2006年)

Anne Hathaway, Meryl Streep, and Emily Blunt in *The Devil Wears Prada.*
THE DEVIL WEARS PRADA, Anne Hathaway, Meryl Streep, Emily Blunt, 2006, TM & Copyright (c) 20th CentuAnne Hathaway, Meryl Streep, and Emily Blunt in *The Devil Wears Prada.*

ファッションメディアという閉ざされた世界を一般の人々に開いた作品として、これほど成功した映画はほかにないだろう。主演のメリル・ストリープは、伝説的編集長ミランダ・プリーストリーを冷酷かつ圧倒的な存在感で演じ、アカデミー賞にもノミネート。アン・ハサウェイ演じるアンディ・サックスは、ファッションに無頓着な新米アシスタントとして『Runway』誌に入社するが、やがてこの苛烈な業界で生き抜く術を学んでいく。エミリー・ブラントスタンリー・トゥッチによる脇役陣の名演も光り、ファッション界に生きる人々の狂気じみた情熱と執念をユーモラスに描き出す。「本当の悪役はミランダではなく、アンディの恋人では?」という議論が今も続くなど、伝説的な一作だ。

印象的なシーン

アンディが冴えない姿から洗練された女性へと変身するシーンは圧巻。シャネルCHANEL)のブーツ、エルメスHERMES)のスカーフ、完璧なトレンチコートなどが次々と登場する。

ファッショントリビア

衣装デザイナーのパトリシア・フィールドは、オートクチュールとプレタポルテを巧みに組み合わせ、100着以上の衣装を制作。アン・ハサウェイのために約100万ドル相当のアイテムがシャネルより貸し出され、カール・ラガーフェルド本人が承認したという。また、パリ・ファッションウィークのシーンにはヴァレンティノがカメオ出演している。

7. 『ココ・アヴァン・シャネル』(2009年)

Audrey Tautou in *Coco Before Chanel.*
COCO BEFORE CHANEL, (aka COCO AVANT CHANEL), Audrey Tautou as Coco Chanel, 2009. Ph: Chantal ThomineAudrey Tautou in *Coco Before Chanel.*

ファッション史を学びたいなら、この映画を選べば間違いない。オドレイ・トトゥが、若き日のココ・シャネルを繊細に演じる本作。まだ無名の仕立て屋として働いていた彼女が、やがて自分の名を冠したブランドを立ち上げ、20世紀の女性の装いを根本から変えるまでの道のりを描いている。エレガントな撮影と美術、衣装デザインのカトリーヌ・ルテリエによる洗練されたスタイルが印象的だ。ルテリエはこの作品でセザール賞(フランスのアカデミー賞)を受賞。表面的な華やかさだけでなく、デザイナーとしての葛藤と孤独、そして自立した女性としての強さを描いた、稀有なファッション伝記映画だ。

印象的なシーン

映画のなかでは、シャネルが生み出した20世紀ファッションの定番が次々と登場。ストライプのボーダーシャツ(ブレトンシャツ)、そして“リトル・ブラック・ドレス”の誕生だ。

ファッショントリビア

シャネルは本作のために資料へのアクセスを許可。当時の作品を参考・貸出することで、歴史的な正確さが担保された。また公開当時、主演のトトゥは「シャネル No.5」の広告モデルも務めており、ブランドとの深いつながりがあったのだ。

8. 『ファントム・スレッド』(2017年)

Vicky Krieps and Daniel Day-Lewis in *Phantom Thread.*
PHANTOM THREAD, from left: Vicky Krieps, Daniel Day-Lewis, 2017. ph: Laurie Sparham /© FocusVicky Krieps and Daniel Day-Lewis in *Phantom Thread.*

ポール・トーマス・アンダーソン監督とダニエル・デイ=ルイスの再タッグによる珠玉の作品。1950年代ロンドンを舞台に、仕立て屋・レイノルズ・ウッドコックと、彼のミューズであり恋人となるアルマの関係を描いた心理ドラマだ。ウッドコックは実在のデザイナー、クリストバル・バレンシアガハーディ・エイミスなどに着想を得た人物で、完璧主義と芸術的狂気を併せ持つ。衣装デザイナーのマーク・ブリッジスはこの作品でアカデミー賞を受賞。生地の質感、縫製の音、針が布を通る瞬間までもがスクリーンに美しく映し出され、ファッションを“聖域”として描いた稀有な映画だ。

印象的なシーン

レイノルズが顧客のために作ったドレスを静寂のなかで着せる場面。布の落ちる音すら神聖に感じられるほどの緊張感。また、アルマがドレスを試着しながら自分の居場所を見つけるプロセスは必見だ。

ファッショントリビア

デイ=ルイスは役作りのため、撮影前に1年間ロンドンのサヴィル・ロウで実際に仕立ての修行を。さらに、映画のために彼自身が手縫いしたドレスも登場する。

9. 『クルエラ』(2021年)

Emma Stone in *Cruella.*
MCDCRUE G5023Emma Stone in *Cruella.*

ディズニーの悪役・クルエラ・ド・ヴィルの若き日を描いたスピンオフ映画。主演のエマ・ストーンが演じるのは、1970年代ロンドンのファッションシーンに現れた才能あふれるデザイナー、エステラ。やがて“クルエラ”というもう一つの人格を作り上げ、保守的な上流社会のファッション界を挑発していく。衣装デザインは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でも知られるジェニー・ビーヴァンが担当。ヴィヴィアン・ウエストウッドやアレキサンダー・マックイーンのスピリットを感じさせる、反逆的かつアート性の高いコスチュームが評価され、アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞した。

印象的なシーン

夜会でゴミ収集車から現れ、炎のドレスへと変化するシーンはまさに圧巻。モードの象徴としての“破壊”をビジュアル化した瞬間だ。また、ライバルのデザイナー(エマ・トンプソン)とのファッションバトルも必見。

ファッショントリビア

47点以上のオリジナル衣装が登場。なかには、エマ・ストーンが20kg以上のドレスを実際に着用して撮影したシーンもある。ロンドンのパンクシーンを再現するため、実際の1970年代ファッション誌やアーカイブ写真を徹底的に研究して制作された。

10. 『ティファニーで朝食を』(1961年)

Breakfast at Tiffany's

オードリー・ヘプバーンが演じるのは、ニューヨークで“お金持ちと結婚する方法”を夢見て奔走する、風変わりで純粋な女性ホリー・ゴライトリー。彼女の日常は社交やパーティであふれており、そんななかで作家志望のポール・ヴァージャック(ジョージ・ペパード)が同じアパートに引っ越してくる。愛をめぐってすれ違う2人は、失恋、混乱、そしてついには逮捕まで経験しながらも、お互いの心の奥にある“本当の愛の形”を見つけようとする。作品内で流れる「ムーン・リバー」はあまりにも有名だが、誰もが思い浮かべるのは、ホリーが身にまとう黒いドレス、パール、サングラス、そして煙草のホルダーだ。

印象的なシーン

全ての衣装が伝説的だが、ジバンシィの黒のロングドレスにオペラグローブ、パールのネックレス、オーバーサイズのサングラスを合わせた装いは、映画史上最も有名なファッションの一つだ。

ファッショントリビア

『麗しのサブリナ』に続く、ヘプバーンとユベール・ド・ジバンシィのコラボレーション作。また、この作品をきっかけにティファニーTIFFANY & CO.)は世界的な知名度をさらに高め、公開後には5番街の本店への来店者が急増した。

11. 『ドレスメーカー』(2015年)

THE DRESSMAKER, Kate Winslet, 2015. ph: Ben King / © Broad Green Pictures / courtesy Everett

ケイト・ウィンスレット演じるマートル・ダネージ(通称ティリー)は、級友の死の責任を負わされた過去を持ち、何十年ぶりかにオーストラリアの田舎町へ帰郷。今や彼女は一流のクチュール仕立て職人となっており、町の人々の目を釘付けにしている。本作では、ティリーが村の女性たちに「ドレスとは、ただの服以上のもの」であることを教える。そして同時に、かつて自分を傷つけた人々に対して静かな復讐を遂げていく。クライマックスでは、炎に包まれた赤いドレスの生地が風に舞いながら丘を転がり落ち、町へと燃え広がる──その圧巻のラストが忘れられない。

印象的なシーン

ティリーが真っ赤なドレスにお揃いの帽子と手袋を身につけ、故郷へ凱旋するシーン。まさに究極のリベンジ・ルックだ。

ファッショントリビア

ウィンスレットの衣装は1950年代のバレンシアガや、ディオールDIOR)のニュールックを彷彿とさせるシルエット。ウエストを絞ったラインが、復讐とエレガンスの両立を象徴している。

12. 『ハウス・オブ・グッチ』(2021年)

COMO, ITALY - MARCH 18_ Adam Driver and Lady Gaga are seen filming 'House of Gucci' on March 18, 2021 in Como, Italy. (Photo by Vittorio Zunino Celotto/GC Images )
"House Of Gucci" Shooting In ComoCOMO, ITALY - MARCH 18: Adam Driver and Lady Gaga are seen filming 'House of Gucci' on March 18, 2021 in Como, Italy. (Photo by Vittorio Zunino Celotto/GC Images )

実際の事件をもとにした本作。パトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)がグッチ家に嫁いだことで、野心と欲望が裏切りと殺人を招くという壮絶な物語。「Father, Son, House of Gucci(父と子、そしてグッチの御名において)」という名台詞とともに、ファッション帝国の栄光と崩壊が描かれる。レディー・ガガ、アダム・ドライバーアル・パチーノといった豪華キャストが、家族の愛憎劇を鮮烈に演じた。

印象的なシーン

ジャレッド・レト演じるパオロ・グッチのパステルスーツは、もはや一種の芸術。彼の奇抜さと哀愁が、ファッションそのものとして表現されている。

ファッショントリビア

レディー・ガガが着用した70点以上の衣装には、ヴィンテージのグッチ(GUCCI)やイヴ・サンローランYVES SAINT LAURENT)、そして衣装デザイナーのジャンティ・イェイツがグッチのアーカイブ資料を元に制作した再現クチュールも含まれる。時代考証に基づいた緻密なデザインで、1970〜90年代の“イタリアン・ラグジュアリー”がリアルに再現された。

Text: Liam Hess, Gia Yetikyel Adaptation: Nanami Kobayashi

From: VOGUE

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