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【ばけばけ】蛇と蛙の阿佐ヶ谷姉妹の掛け合いにクスッ。この脱力感こそ令和の朝ドラか

  • 2025.10.13

【ばけばけ】蛇と蛙の阿佐ヶ谷姉妹の掛け合いにクスッ。この脱力感こそ令和の朝ドラか

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

そこはかとないあたたかな幸福感

日本の怪談を研究しさまざまな作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と、その妻セツをヒロインとしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第2週「ムコ、モラウ、ムズカシ。」が放送された。

本作に漂う、そこはかとないあたたかな幸福感。その空気へと毎回自然に誘ってくれるのが、ハンバート ハンバートによる主題歌「笑ったり転んだり」の存在も大きな要素になっているのではないだろうか。

おだやかなテンポで届けられるアコースティック調の男女デュオの楽曲、そして曲に合わせて流れる松野トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の本作主人公のふたりの笑顔。川島小鳥による夫婦役の二人の写真が曲調とのハマり具合も抜群で、その写真の二人を見るだけで自然と笑みがこぼれる。

メロディだけでなく、ハンバート ハンバートが実の夫婦によるデュオであるところもまた、その距離感が自然とあたたかさを滲み出す要素となっているのかもしれない。気づけばどこかおだやかな気分になり(特に朝の放送により強く感じる気がするが)、前述した「そこはかとないあたたかな幸福感」漂う作品世界に誘ってくれるオープニングだ。

主題歌をはじめとして、今のところ本作に漂う空気は、どこか脱力感もある「ちょっとした笑い」、そして夫婦や家族の関係性が生み出す「あたたかさ」だ。これは、怪談というおどろおどろしくなりかねない要素とのバランスをとるねらいかもしれないが、〝蛇と蛙〟として阿佐ヶ谷姉妹が軽快な掛け合いでツッコミ混じりに届けてくれる語りをはじめ、家族の掛け合いなど、細かなところで爆笑というよりも、クスッとさせられる場面が多い印象だ。

やりすぎない「ちょっとした笑い」は、怪談とのコントラストばかりではない。第1週は、「御一新」による大きな世の中の変化にうまく対応できず、ある意味没落した上級武士であるトキの父・司之助(岡部たかし)と祖父の勘右衛門(小日向文世)、そしてその妻たち。武士の誇り、御一新前の時代を引きずりながら、今なお髷を落とせなかったりする。一発勝負をかけたウサギの飼育ビジネスは、その暴落により多額の借金を背負う。

そして、架けられた「橋」によって隔てられた、遊女などが働く下層の世界のように描かれた世界。そこにトキたち松野家の一家が移り住むことになり、借金のため司之助は牛乳配達、母のフミ(池脇千鶴)は内職、そしてトキは小学校を辞め織子として働くことになるという、ややハードな展開だが、そこもまたそれぞれの飄々としたキャラクター、そして阿佐ヶ谷姉妹の語りで重苦しさをあまり感じずどこか笑ってしまうというつくり、これらが「ここ笑うところですよ」という押し付けを感じさせることなく届けられるところは、令和の朝ドラといったところだろうか。

「すみません、うちの落ち武者が…」

第2週は、その「ちょっとした笑い」の空気がさらに加速したような印象だ。なんとか暮らしを立て直したい。前週の予告で「貧乏脱出お見合い大作戦」と語られていたが、借金を返すための松野家の〝秘策〟が、トキの婿を働き手として向かい入れようというものだった。とはいえ、その条件面で肝心のトキの希望が「怪談好き」となると、河童だの小豆洗いだの司之助が妖怪の名前を挙げて混ぜ返す。さらにいえば勘右衛門の希望条件は「士族」。結果、「士族の小豆洗い」を探すという、ツッコミ待ちでしかない条件に着地する。

さて、そうなりながらもどうにか訪れたお見合い本番。今のところ本作の「ちょっとした笑い」の中でもよりコメディ要素の強い司之助と勘右衛門は、明治の時代に入ってなおかつ転落してなお武士の誇りは捨てきれられないということか、時代遅れ(?)の上下袴姿でトキの見合い相手を迎える。見合い相手に二人の髷姿をほめられ上機嫌なところもまた「ちょっとした笑い」を誘う。

松野家の掛け合いが生み出すテンポのいい笑いは、小日向文世、岡部たかし、池脇千鶴のベテランたちの演技力による部分が大きい。そこにさらに親戚であり早々に〝ざんぎり頭〟になり新時代に適応できている傳(堤真一)がからむことで、より喜劇風味が強まる。この掛け合いの会話劇だけでも見どころ十分だ。そもそもこの見合いも、傳たち雨清水家の口利きによる部分が大きいものだった。

見合い本番での相手の反応はよく、松野家は大喜びしたものの、結果はNO。その理由は、司之助と勘右衛門がレゾンデートルとしている「武士」の部分であるところがなんとも皮肉、というよりは「それはそうだろう」。そう思えるところもまた、本作のコメディ部分がうまく機能しているからといっていいだろうか。

二度目の見合いで意を決して髷を落とした司之助の姿が、月代を剃ったままなだけに、まさに落武者状態。そんなビジュアルでも笑いを入れ込んでくる。それなのに今度の相手が武士の心を忘れない髷姿の男性というところもまた、笑いを誘う。傳の「すみません、うちの落ち武者が」というセリフがそこに追い討ちをかける。つらい借金生活を笑いとともに気分を軽くしてくれるような演出だ。

しかし、二度目の見合い相手の銀二郎(寛一郎)がまさかの怪談好き、トキと話がはずみ、まさかのとんとん拍子で縁談が進む。銀二郎はこれまでこだわってきた髷を落とし、〝落ち武者〟の仲間入りをするというさらなるまさかで結婚への道を進んでいく。

そんなわけでヒロインのトキの婿取りが順調に進んでいってしまうわけだが、のちの夫となるヘブンは当然まだトキの前に登場していない。ほぼすべての視聴者は「結果」を知っている。そこにたどりつくまでどうなっていくのか。銀二郎との結婚はこのまま何事もなく進んでいくのか。気になるところもまた、軽妙な「ちょっとした笑い」で次週も突き進んでいくのだろう。

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