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人間には「欲」が必要?吉原・女郎屋・庶民の現実から見える江戸の真理【NHK大河『べらぼう』第37回】

  • 2025.10.3

*TOP画像/政演/山東京伝(古川雄大) 蔦重(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」37話(9月28日放送)より(C)NHK

吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第37話が9月28日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

戯作家の筆折れ、蔦重の期待が政演に重圧を…

春町(岡山天音)が自ら腹を切り、喜三二 (尾美としのり)が国に帰り、南畝(桐谷健太)が執筆を自粛する中、蔦重が頼れる作家は政演/山東京伝(古川雄大)だけに…。

一方、政演(古川雄大)は幕府から目をつけられ、処罰を受けることを恐れ、新老中首座・定信(井上祐貴)に抗う作品や幕府の言いつけに背く作品を書くことに乗り気ではありません。彼の表情からは幕府の命令に背くことへの恐れと、蔦重の大胆な勢いに戸惑う心情が伝わってきました。

また、てい(橋本愛)についても、蔦重が向かう方向に必ずしも賛同しているわけではありません。蔦重から倹約を茶化すような作品の執筆を頼まれている歌麿(染谷将太)と政演に、「どうか書かないでくださいませ!」と必死に頼んでいました。父から継いだ店を過去に失いかけたていは、大切な店を失う危機の恐怖を骨身にしみるほど味わっています。また、蔦重が罪に問われるのを妻として何としてでも防ぎたいという思いもあるのでしょう。このような経験や思いから、ていは「少々 己を高く見積もり過ぎではないでしょうか!」と、蔦重に釘を刺していました。

てい(橋本愛) 蔦重(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」37話(9月28日放送)より(C)NHK

蔦重は親なし、金なし、家なしの境遇から日本橋の店の主にまで出世し、当代一の戯作家を抱える板元に成り上がりました。とはいえども、幕府から目をつけられれば店の営業はあっけなく停止される身であり、命令に背けば命の保証もない身です。蔦重はポジティブで、困難に立ち向かう力強さを持っていますが、過剰な楽観主義は欠点ともいえるかもしれません。冷静沈着なていは蔦重を応援しつつも、行き過ぎた言動をセーブし、蔦重も店も守っています。

現在の蔦重は春町の死に報いるためにも、黄表紙を守るためにも、ていの言葉に耳を傾けようとはしません。しかし、ていの存在こそが蔦重や耕書堂を守ることになると思います。夫婦とはお互いに欠けているものを補い合う関係性であるならば、蔦重とていは理想の夫婦関係といえそうです。

また、本作では若い新婚夫婦の愛も描かれていました。歌麿ときよ(藤間爽子) です。歌麿の絵本を見た栃木の豪商・伊兵衛(益子)が蔦重の店を訪ね、歌麿に肉筆の絵を襖に描いてもらいたいと頼みにきました。歌麿は自分の絵が襖にど~んと載ることを誇りに思い、きよと喜びを分かち合っていました。

歌麿(染谷将太) きよ(藤間爽子) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」37話(9月28日放送)より(C)NHK

歌麿は「おきよがいたら俺 何でも できる気がするよ」と胸の内を言葉にしていたように、歌麿はきよとの出会いをきっかけに前向きに生きられるようになりました。

しかし、本放送では、きよの足の赤い腫れ物が暗示的に映し出され、二人の幸せの終わりを予感させるシーンがいくつかありました。歌麿ときよのこの世での幸せがもう少し続いて欲しいと願うのは筆者だけではないはずです。

人間が生きるには「欲」が必要

江戸時代は戦の火が燃え盛ることはなかったものの、“偉くなりたい” “楽したい” “一旗揚げたい” “儲けたい”といった欲の業火が激しく燃えていたと、本作の1話において説明がありました。吉原の女郎屋の主人たちは強欲で、自らの利益しか考えておらず、自分にほんのわずかでも損になることには猛反対。

本作は前半においては人間の欲が否定的に描かれていましたが、後半においては人間の欲が肯定的に扱われているように思います。

「遊ぶってなぁ 生きる楽しみだ。楽しみを捨てろってなぁ欲を捨てろってこった。けど 欲を捨てることなんかそう簡単にはできねえんだよ」

蔦重は強欲な女郎屋の主人らを批判していた時期もありましたが、人間が欲を簡単に捨てられないことを今は認めています。

また、政演の『心学早染草』に登場する善玉と悪玉と呼ばれる人間の魂の化身のように、人間の内には善と悪の二つが存在します。

山東京伝『心学早染草』 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」37話(9月28日放送)より(C)NHK

人間は内に抱える“欲”や“悪”を抑え込むことを苦手とする傾向にあると思います。だからこそ、社会の秩序を保つには吉原のような幕府公認の場が必要なのかもしれません。

徳川治貞(高橋英樹)が定信に“物事を急に変えるのはよくない”と忠告していましたが、老中首座に就任後すぐに社会の在り方を変えた弊害が弱者を中心にいたるところで出てきています。りつ(安達祐実)が話すように、中州が取り壊され、岡場所も取り締まりが始まると、これらの場所で働く女たちが吉原に流れ込むようになりました。さらに、口利きの金を倹約することで、女郎屋は安く女郎を世話できるという考えも広まり、女郎が置かれる状況はこれまで以上に悪くなりそうな雰囲気です。

蔦重 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」37話(9月28日放送)より(C)NHK

ふく(小野花梨)は社会の状況が悪くなると真っ先に苦しむのは下々の者であることを理解していましたが、定信の政策でもっとも苦しんでいるのは娯楽を享受できるほどのゆとりもなく、自身の欲を満たせるほどのお金もなく、地べたを必死に這いつくばって生きている人たちなのかもしれません。

定信は大切なことに気づけるのだろうか…。

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