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最終回【あんぱん】が教えてくれた、人生100年時代の歩き方「何歳になっても…」

  • 2025.9.29

最終回【あんぱん】が教えてくれた、人生100年時代の歩き方「何歳になっても…」

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」、最終回のレビューです。 ※ネタバレにご注意ください

二人が一緒に歩いた人生を描いた作品だ

今田美桜が、国民的作品『アンパンマン』原作者やなせたかしの妻・小松暢をヒロインとして演じたNHK連続テレビ小説『あんぱん』の放送が、9月26日に終了した。

やなせたかし夫妻が歩んだ道のりと周囲の人たちを下敷きにしながら、ドラマならではのキャラクターやエピソードもバランスよく織り込まれ、まとまりよく半年間を駆け抜けた印象だ。

たとえば『マッサン』などがそうだが、多くの人に知られる大きなことを成し遂げた史実を元にした作品は、いつそこにたどり着くんだろうというところが視聴者にとって気になるポイントのひとつとなる。

本作では「アンパンマン」がいつ誕生するかというところだが、北村匠海が演じた柳井嵩がそれを描く場面が第1話の冒頭で示されたことで、その場面にいつつながるんだよと苛立ちを感じさせる展開とならなかったところは、本作に登場したキャラクターたちがそれぞれ魅力的であったことであまり気になることなくストーリーが進行したということだろう。

現在も親しまれるアニメ『それいけ!アンパンマン』は、まさに〝満を辞した〟というべきか、最終週「愛と勇気だけが友達さ」についに登場した。いってみれば、『アンパンマン』が国民的作品となるまでの人気を獲得していくのはそこからだ。

そして、多くの人が知っている、派手寄りのファッションでメディアなどに登場したやなせたかしの姿となるのは最晩年になってからのことで、これらは妻の暢さんがこの世を去ってからの晩年の期間のこととなる。ドラマでは、これらのぶの死後は描かずラストシーンまでのぶの明るい笑顔は消えることなく幕を下ろした。

極論すれば、これはのぶと嵩、二人が一緒に歩いた人生を描いた作品だ。国民的作品の誕生という偉業はもちろんだが、一番大切にした部分がそこにあったような気がする。だからこそ、実際には新聞社に勤務したころに出会った二人は子供時代に高知で出会い、同じ空気を吸い同じ経験を重ねていく人生を歩んでいった。

もちろん史実通り社会人になって出会うまで、のぶと嵩を別のルートで2本立てで成長させることもできたかもしれないが、明らかに大変だろうし視聴者の興味も散漫になってしまったかもしれない。のぶが成長して新聞社に勤務して、ようやく嵩が登場するよりも、のちの夫婦が幼馴染であるということで周辺の人物たちとの関係性が濃密に描かれたことも効果的な改変といえる。

朝田家の三姉妹(これも実際には二人姉妹だったわけだが)、ふたりそれぞれの父親(加瀬亮、二宮和也)や、そして嵩の育ての父のような存在であり、「何のために生まれて何をして生きるがか」をはじめ、のちのやなせたかし作品のテーマを思い起こさせる言葉などを語りかけ、のぶにも大きな影響を与えた寛(竹野内豊)、そして口は悪いが要所要所で登場し、キーアイテムである〝あんぱん〟を焼き続けたヤムおんちゃん(阿部サダヲ)をはじめとしたキャラクターたちによって二人が成長していったことも大きなポイントだ。

寛がのぶの背中を押した、二人が歩む速度は違ってもいつか一緒になるという言葉通り、最終週は多忙のなか二人が一緒に散歩している場面にそれを感じ、着地のうまさというか、やはりのぶと嵩、二人が幸せに歩ける時間を一番大切にしたい作品だったような気がした。

『アンパンマン』の根底に流れる〝正義〟

そして本作が放送された2025年の前期は、太平洋戦争の終戦からちょうど80年を迎える重要な期間でもあった。戦後80年、当時を経験した人たちも少なくなり、90年、100年のころにはその実際の記憶を辿ることは相当困難になってしまう。

このタイミングに、著書『ぼくは戦争は大きらい』をはじめ、一生をかけて反戦の思いを貫き平和の大切さを伝え続けたやなせたかしの人生は、描くべくして描かれたといっていいだろう。争いごとを好まない嵩のキャラクターにもそれは色濃く反映されていた。

「逆転する正義」。半年間に何度となく登場した言葉、概念である。愛と勇気、元気、平和、そういったものがさまざまなキャラクターの活躍によって、おもに乳児から未就学児の心に今も刻まれ続けるコンテンツ『アンパンマン』の根底にも流れる〝正義〟。本作の序盤から伝え続けられてきたが、〝正義〟とはその立場や考え方によって、ときに真逆のものとなる不思議な存在である。

その最たるものが戦争だ。互いの欲(と言ってしまっていいだろうか)は〝正義〟となり、それは大義名分として戦う理由となる。それが正義だと信じてしまうこと、それが戦争だ。そしてそれが敗戦と同時に真裏のものとなる。

そのあたりも、戦時には〝愛国の鑑〟としてもてはやされたのぶの葛藤とともによく描かれ印象づけられてきた。嵩の弟、千尋(中沢元紀)や蘭子(河合優実)の恋人、豪(細田佳央太)、のぶの最初の夫・次郎(中島歩)などの戦死による虚しさもまた、正義が逆転したことでの犠牲者である。

最後まで「できるかな」と自信なさげなことを口にする嵩だが、最初から最後まで奥にひめる芯の強さが変わることはなかった。嵩の中での〝正義〟は、一切逆転することはなく、今もたくさんの人たちに、「愛と勇気」が友達であることを教え、元気100倍、勇気100倍にさせてくれている。

何のために生まれて、何をして生きるか。人生100年時代、晩年になってからいっそう大きな勇気の花を咲かせたやなせたかし(嵩)、そしてのぶの生きた道は、長い人生、何歳になっても何かになること、何かをすることができる。二人が笑顔で寄り添って歩く姿は、それを示してくれたようだった。

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