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カルティエ「LOVE」に新作『LOVE UNLIMITED』誕生。ピエール・レネロが語る愛のアイコンの進化

  • 2025.9.29

1969年、ニューヨークで誕生したカルティエCARTIER)の「LOVE」ブレスレットは、ビスをドライバーで開閉するという革新的な仕組みで、“愛する人をロックする”という大胆なコンセプトを打ち出した。永遠の愛を象徴するその存在は、ペアで身につけることもでき、半世紀以上にわたり時代を超えて愛され続けている。

そしてこの秋、進化を遂げた新コレクション「LOVE UNLIMITED」がデビューを飾る。ゴドロンモチーフが繊細に施された200以上のパーツから成るブレスレットは驚くほど柔軟で、まるでリボンのような流れるフォルムが特徴だ。仕様も大きくアップデートされ、従来のビスの意匠を受け継ぎつつ、ドライバーを使わず一人で着脱できるスライド式の構造を採用。留め具は目立たず、まるで“第二の肌”のように自然な着け心地を実現した。

その名のとおり“Unlimited=無限”を感じさせるデザインで、複数本を重ね着けすることで、自分だけのスタイルを生み出すこともできる。“無限の愛”を重ねていくように、人生の節目ごとに一本ずつ加えていく楽しみも。普遍的な美学と革新性が見事に融合した「LOVE UNLIMITED」は、メゾンの新たな象徴として未来を切り拓くに違いない。

この新作の注目すべきポイントやメゾンが所有するコレクションの活用について、イメージ スタイル&ヘリテージ ディレクターを務めるピエール・レネロに話を伺った。

──まず、カルティエにとって「LOVE」コレクションはどのような存在なのでしょうか?

非常に特別な存在です。他に類を見ない独創的なデザインであり、ジュエリーというものがいかに象徴的で特異な創造物であるかを示しています。「LOVE」コレクションは、ビスという象徴をもとにデザインが構築されています。円の中に一本の直線が走るフォルムは美しく興味深いものであり、同時に“つながり”や“約束”といった意味を込めています。こうした前提があるからこそ、また新たに発展させるのは容易ではありませんでした。しかしカルティエでは、強いデザインにはバリエーションを可能にする力があると考えています。新しい「LOVE UNLIMITED」は、まさにその証なのです。

「LOVE アンリミテッド」ブレスレット PG ¥1,372,800
「LOVE アンリミテッド」ブレスレット PG ¥1,372,800

──新作「LOVE UNLIMITED」ブレスレットは、200以上のパーツで構成されており、実際に装着してみると驚くほどフレキシブルです。

今回の挑戦は、「これはLOVEブレスレットである」と明確に示しながら、同時に“着ける人だけがその違いを実感できる”という特権を与えることでした。オリジナルへの敬意を込め、意図的に外見は従来の「LOVE」と大きく変わらないようにしています。しかし実際に身につけると、その質感や柔らかさが確かに伝わってきます。ジュエリーは“身に着けるもの”だからこそ、着け心地や身体との調和には最大限の注意を払う必要がある。その姿勢にカルティエらしさを体現しています。

(左)「LOVE アンリミテッド」ブレスレット WG ¥1,478,400 (右)「LOVE アンリミテッド」ブレスレット YG ¥1,372,800
(左)「LOVE アンリミテッド」ブレスレット WG ¥1,478,400 (右)「LOVE アンリミテッド」ブレスレット YG ¥1,372,800

──具体的には、どのような新しい技術が用いられているのでしょうか?

外観上の違いは、表面に並行に入ったラインだけですが、そこには意味があります。これは関節のように一本ずつ繋がれた構造を示すもので、つまり「アーティキュレーション(可動性)」を視覚的に表現しているのです。このラインによって、どこが可動部分なのかが見えにくくなり、装着したときに仕組みを自然に見せています。徹底して考え抜かれたデザインにより、“ミニマル”と呼べる美しさを実現しているのです。

──「タイムレス」という言葉でも表現できそうです。

私たちは自ら「タイムレス」とは声高に言いません。ただ常に意識しているのは、今この瞬間のトレンドを超えるものを生み出すことです。つまり「数年後に誰かがこのジュエリーを身につけても、なお愛せるかどうか」。その視点でデザインを考えています。また、お客様のライフスタイルに寄り添うことも大きな関心事です。私たちはジュエラーです。ジュエリーとは人にとってどんな意味を持つのかを考え、その答えを創作に込めています。

3000点以上のピースを所蔵するカルティエ コレクション。その教育的役割とは?

1974年、『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されたカルティエ「LOVE」ブレスレットの広告。
PUB_ADLP_JOAILLERIE_CIPULLO_1974_RETOUCHE1974年、『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されたカルティエ「LOVE」ブレスレットの広告。

──1847年の創業以来、珠玉のジュエリーを数多く生み出してきました。そしてカルティエには、3000点を超えるコレクションピースが所蔵されているそうですね。

1980年代初頭、私たちは自社の歴史的作品を自ら収集し始めました。ただ、新作をすぐにコレクションに収めることはありません。作品はその時代を象徴するものであるべきで、実際に誰かに着用されたものにこそ価値があると考えているからです。プロトタイプを保管することはあっても、原則は「実際に愛されたもの」であること。たとえば新しい「LOVE」ブレスレットも、誰かに愛され、身につけられた後に初めてコレクションに加えられるでしょう。カルティエのコレクションは、そうした“意味あるジュエリー”を時代ごとに集めることを目的としているのです。

──こうした豊かなアーカイブやヘリテージの視点は、新しいアイテムを考える際にどのように活かされていますか?

それは「スタイル」という概念に深く関わっています。カルティエのすべてのデザイナーは、カルティエのスタイルとは何かを理解し、学ぶ必要があります。コレクションピースは重要な教育ツールであり、実物を手に取り、触れることでメゾンのDNAを感覚的に理解できるのです。私の部署は、それを「どのように、なぜ生まれたのか」という文脈で伝え、そこに宿る価値観や美意識、哲学を共有しています。たとえば「カルティエにおける色の組み合わせの独自性は?」と問われれば、具体例をもとに説明します。テーマごとに絶えず議論を重ね、「カルティエスタイルとは何か?」という問いに応え続けています。

──コレクションピースは世界の美術館に貸し出されることもありますね。現在ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で開催中の展覧会(V&A展)もその一つです。

カルティエの美学をひも解く展覧会「Cartier」、ロンドン・V&Aにて2025年11月16日まで開催中。
カルティエの美学をひも解く展覧会「Cartier」、ロンドン・V&Aにて2025年11月16日まで開催中。

こうした展覧会は、美術館側の強い意志によって成立します。カルティエとしても文化的なアプローチを支援しており、今回のV&A展では大半の展示品を私たちのコレクションから出展しました。個人コレクターや他の美術館、王室からの貸与作品も加わり、多彩な展示が実現しています。美術館がカルティエに関心を寄せる理由は二つあります。ひとつは、カルティエが果たしてきた文化的役割、もうひとつは、絶え間ない芸術的探求です。V&A展はまさにその両面に着目し、「なぜカルティエスタイルが特別なのか?」という問いに真正面から取り組んだものでした。展示空間は複数の部屋に分かれ、それぞれがこのテーマを掘り下げています。

──こうした活動は、メゾンにとってどのような意義を持っているのでしょうか?

ヨーロッパでは第二次世界大戦までは、ジュエリーは芸術性を伴うものでした。しかし戦後になると、「高価な宝石」という価値観が前面に出て、「デザイン」という視点が次第に失われていきます。ところが1980年代に入ると状況は一変しました。ウィンザー公爵夫人やモナ・ビスマルク、バーバラ・ハットン、デイジー・フェローズといった戦前の大コレクターたちの遺品が市場に出回り、アートマーケット、特にオークションハウスに大きな衝撃を与えたのです。そこからジュエリーに再び「クリエーション」という言葉が結びつき、美術館の関心も高まりました。芸術性と市場価値の両面から注目が集まるようになったのです。

カルティエに関する最初の大規模展は、1989年にパリのプチ・パレ美術館で開催されました。これはジュエリーが持つ芸術的価値を再発見する画期的な機会となり、カルティエが自らのコレクションを築いていたことも、この流れを大きく後押ししました。こうした展覧会は、ジュエリー制作における創造性や芸術性を可視化すると同時に、カルティエが創業以来一貫して体現してきた「スタイル」を伝えるうえで極めて重要な役割を果たしてきました。今回のV&A展もその一例です。来場者はカルティエがいかに独自のスタイルを築き上げ、世代を超えて美を受け継いできたのかを、あらためて深く理解することができるでしょう。

Profile

ピエール・レネロ(PIERRE RAINERO)

1958年生まれ。HEC(パリ経営大学院)で学位を取得後、広告業界を経て1984年にカルティエへ入社。イタリアでマーケティング&コミュニケーション ディレクターを務めたのち、パリ本社でリサーチ&ストラテジーやコミュニケーションなど主要部門を歴任。2003年よりイメージ スタイル&ヘリテージ ディレクターとして、カルティエのスタイル統括とともに、3000点以上のアーカイブを擁する「カルティエ コレクション」を管轄。世界各地の美術館との展覧会企画を通じて、カルティエの創造性と遺産を発信している。
1958年生まれ。HEC(パリ経営大学院)で学位を取得後、広告業界を経て1984年にカルティエへ入社。イタリアでマーケティング&コミュニケーション ディレクターを務めたのち、パリ本社でリサチ&ストラテジーやコミュニケーションなど主要部門を歴任。2003年よりイメージ スタイル&ヘリテージ ディレクターとして、カルティエのスタイル統括とともに、3000点以上のアーカイブを擁する「カルティエ コレクション」を管轄。世界各地の美術館との展覧会企画を通じて、カルティエの創造性と遺産を発信している。

問い合わせ先/カルティエ カスタマー サービスセンター 0120-1847-00

https://www.cartier.jp/

Photos: Courtesy of Cartier, V&A

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