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テレビドラマでは“珍しい職業”に真正面から光を当てた意欲作、実力派の役者陣が織りなす“繊細な演技”『終幕のロンド』

  • 2025.10.27

死は誰にでも訪れる。しかし、死を見つめることは恐ろしいことでもある。そんな死を真正面から見つめるテレビドラマが登場した。

草彅剛主演の『終幕のロンド ―もう二度と、会えないあなたに―』は、テレビドラマとしては珍しい“遺品整理”という職業に真正面から光を当てる意欲作だ。第一話は、現代社会の深刻な問題である“孤独死”という重いテーマを軸に据え、観る者の心に静かな、しかし確かな問いを投げかけるスタートとなった。

「死」を見つめ、「生」につなぐ遺品整理

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月10ドラマ『終幕のロンド ―もう二度と、会えないあなたに―』第1話より(C)カンテレ・フジテレビ

本作のポイントの一つは、主人公・鳥飼樹(草彅剛)が勤める“遺品整理”という仕事を通して、“死”を深く見つめる点にある。樹は5年前に妻を亡くしたシングルファザーだ。彼にとって遺品整理は、単なる物品の処理ではない。故人の思いを丁寧に汲み取り、生きている人へと言葉なきメッセージを届ける“申し送り”なのだ。

その信念は、コストや効率を度外視する仕事ぶりにも表れており、周囲との軋轢を生むこともある。だが、彼がそうまでしてこだわる理由は、第一話で描かれた孤独死の現場と、彼自身が妻を亡くした時のエピソードから痛いほど伝わってくる。

孤独死の先にあった、届かなかった母の愛

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月10ドラマ『終幕のロンド ―もう二度と、会えないあなたに―』第1話より(C)カンテレ・フジテレビ

第一話の核心は、まさに“孤独死”との向き合い方にある。亡くなった母親に幼い頃“捨てられた”と信じ、すべての遺品処分を望む息子(吉村界人)。悪臭が漂う凄惨な現場で、樹は単なる“ゴミ”として処理されるはずだった物の中から、故人の切実な思いを見つけ出していく。

息子の名前が記された古いぬいぐるみ。彼のために毎月欠かさず積み立てられていた通帳。そして、「かならず会いに行く」と書き添えられた幼い頃の似顔絵。

それらはすべて、母親が離れてからもずっと息子を愛し、思い続けていた明確な証拠だった。樹は、事務的な作業を越えて故人の届かなかった思いを拾い上げ、絶望していた遺族へとつなぐ。遺品整理が“死者と生者をつなぐ”仕事として描かれる、本作の根幹を成す感動的なシークエンスだった。

そんな彼の仕事ぶりは、同僚からは効率が悪すぎると疎まれることもある。しかし、樹はかつて、仕事を優先するあまり、妻の異変に気づけず、死に際にも立ち会えなかった苦い過去を持っている。人は死んだら二度と会うことはできず、その後悔は取り消すこともできない。だからこそ、彼は故人の想いを生きている人に届けることで、自分自身の後悔と向き合おうとしているように見える。

草彅剛をはじめ、実力派キャストが織りなす繊細な演技

この重いテーマを支えているのが、草彅剛をはじめとした役者陣の好演だ。主人公・樹を演じる草彅は、静かな佇まいの中に、妻を突然亡くした深い喪失感と、故人の思いに寄り添う繊細な優しさを同居させる。感情を爆発させるのではなく、ふとした瞬間に見せる涙や、遺族にかける「昨日まで自分を待ってくれていた人が、明日も待ってくれているとは限りませんから」という言葉に、彼の抱える哀しみと他者への深い共感が滲み出ていた。

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月10ドラマ『終幕のロンド ―もう二度と、会えないあなたに―』第1話より(C)カンテレ・フジテレビ

一方で、絵本作家・御厨真琴(中村ゆり)と、余命宣告を受け“生前整理”を樹に依頼する母・こはる(風吹ジュン)との根深い確執も、もう一つの大きな軸として動き出した。資産家の嫁として冷え切った夫婦関係を送る真琴と、清掃員として働く母。まったく異なる世界に生きている二人の人生が、樹と交錯し始める。中村ゆりが見せる複雑な内面と、風吹ジュンの達観したような、それでいて娘への愛を感じさせる演技もまた、物語に一層の深みを与えている。また、樹が務める遺品整理の会社社長を演じる中村雅俊の抱える、亡くなった息子にまつわる深い悲しみもまた、物語に大きく関係してきそうだ。

第一話は、遺品整理という仕事を通して、孤独死という現実と、家族間の愛憎という二つの側面から“死と再生”の物語を紡ぎ始めた。今後は、樹の会社で様々な事情を抱えた家庭の遺品整理のエピソードが描かれつつ、真琴とこはるの母娘関係に樹をどう救いあげていくのかが描かれることになるだろう。重いテーマではあるが、樹がどのように人々の“申し送り”を届け、愛と希望を見出していくのか。役者陣の繊細な演技に支えられた、今後の展開から目が離せない。


カンテレ・フジテレビ系 月10ドラマ『終幕のロンド ―もう二度と、会えないあなたに―』毎週月曜よる10時

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi