1. トップ
  2. ファッション
  3. ヴェルサーチェ再考。ダリオ・ヴィターレが創造する、絢爛なリアルクローズ【2026年春夏 ミラノコレクション】

ヴェルサーチェ再考。ダリオ・ヴィターレが創造する、絢爛なリアルクローズ【2026年春夏 ミラノコレクション】

  • 2025.9.27

今季デビューを控えたデザイナーの中で、最も高いハードルに直面しているのは、ヴェルサーチェVERSACE)の新チーフ・クリエイティブ・オフィサーのダリオ・ヴィターレではないだろうか。

ヴェルサーチェ家以外の人物がメゾンのトップの座に就くのはこれが初めてだ。亡き兄ジャンニよりもヴェルサーチェを長く率いた前任のドナテラは依然としてチーフ・ブランド・アンバサダーとして携わっており、メゾンの売却手続きはまさに今進められている。そしてその買収者は、ヴィターレがつい最近までウィメンズウェアのデザイン・ディレクターを務めていたミュウミュウMIU MIU)の親会社であるプラダ・グループだ。

余程の自信家でなければ、尻込みしていまいそうな状況だ。しかし、ヴィターレは確固たる信念と、揺るぎない自信を持ち合わせている。今回発表した初コレクションは大胆不敵で、人々のワードローブにおけるヴェルサーチェの立ち位置を徹底的に再考。手の届かない偶像的な存在から、日常に根差したブランドに堂々と変えてみせた。「神話というものは、神々が自らの情事に飽きて、オリンポス山を下り、人間たちと交わり始めたことで生まれました。床に着くほどの長い丈のイブニングドレスばかりが主役なわけではありません」と、ヴィターレは自身の考えについて話した。その言葉通り、今季はガウンが1着もない。「よりリアルな服を作りたかったのです。刺繍が施された豪華なレザーベストに強く惹かれる友人はたくさんいますが、皆そういった服をメットガラMET GALA)とかではなく、普通にディスコやクラブとかに着て行きたいのです」

これまでとは違う色気が漂う、ヴィターレのヴェルサーチェ

ヴィターレのアイデアは、ジャンニ・ヴェルサーチェが1980年代後半に手がけたデザインを振り返ることだった。彼の母親は当時、ヴェルサーチェの服を熱心に集めていた。だが、何足かのパンプスやハンドバッグ以外、今季展開されたアイテムは決して、母親世代の人たちが身につけるようなものではない。確かに、キャストの年齢層は幅広く、コレクションはあらゆる人に向けられたものだ。しかし、服そのものは、ヴィンテージやレイヤードスタイルを好んで着る、ヴィターレの世代であるミレニアル世代の人たちに、はっきりと寄り添っているように感じられた。

ヴィターレが手がけるヴェルサーチェは艶やかだが、過去のヴェルサーチェとは切り離された、ラフな色気が漂う。ジャージ生地のドレスは、正面から見るとマダム・グレのピースを彷彿とさせたが、バックは生地を申し訳程度に縫い合わせただけで、下に履かれたロゴ入りのブリーフが露わになっている。トップはボディビルダーが着るような袖なしのTシャツと同じくらいサイドの切り込みが深く、アームホールの縁は切りっぱなし。ハイウエストデニムに合わせられたベルトは締められておらず、チャックが空いたままのルックもいくつかあった。チェーンメールのブラトップとお揃いのスカートに、上品なカシミアのカーディガンを腰に巻くという崩したスタイリングがヴェルサーチェのランウェイに送り出されたのも、これがおそらく初だ。

今シーズンのミラノでは、カラフルなアイテムが目立つ。そしてヴィターレも、オーベルジーヌをオレンジがかった赤やアジュールブルー、ケリーグリーンと組み合わせ、卓越した色のセンスをリネンのテーラードピースで披露した。また、ヴェルサーチェを代表するプリントも新たに解釈。「異なるプリントのシャツを何枚も持っているクライアントが、すでに着ていそうなルックにするのが狙いでした。皆それぞれ個性があって、まるでさまざまな柄を集めた、壮大なプリントのコレクションみたいです」

この日のプレゼンテーションは、アンブロシア―ナ絵画館で行われた。絵画や手記など、世界最大級のレオナルド・ダ・ヴィンチのコレクションを誇り、カラヴァッジョの作品も所蔵している隠れた名館で、ファッションショーの会場として使用されたのは、今回が初めてだという。「カラヴァッジョに狂おしいほど魅せられている」と語るヴィターレは、謎の男がブルジョワ家庭に入り込み、清々しいまでに崩壊させていく様を描いた、ピエール・パオロ・パゾリーニの映画『テオレマ』(1968年)も好きでたまらないという。そんな彼はプレゼンテーションのために、絵画館をまるで自宅のように飾り、一室の隅に敷かれたマットレスには、私物のベットシーツをつけるほどの徹底ぶりを見せた。「目覚めたのです」──ヴェルサーチェを再解釈するにあたって、ヴィターレは『テオレマ』の謎の男と自分自身を重ね合わせたのだった。

※ヴェルサーチェ 2026年春夏コレクションをすべて見る。

Text: Nicole Phelps Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.COM

2026年春夏ファッションウィークの関連記事

元記事で読む
の記事をもっとみる