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坂東玉三郎さんが語る六条御息所の嫉妬心と哀切、美しき『源氏物語』シネマ歌舞伎の魅力

  • 2025.9.23

坂東玉三郎さんが語る六条御息所の嫉妬心と哀切、美しき『源氏物語』シネマ歌舞伎の魅力

現代歌舞伎屈指の女方として絶大な人気を誇る、坂東玉三郎さん。シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』が9月26日から公開されます。作品への思いや、共演者・市川染五郎さんとのエピソード、舞台芸術の魅力などを語っていただきました。

シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』は、昨年10月に歌舞伎座で上演された舞台を収録したものです。

現代女方最高峰の坂東玉三郎さんが凄艶な女心を見せる六条御息所を、そして”歌舞伎界のプリンス”と呼ばれ注目を集める市川染五郎さんが世の女性を魅了する稀代の貴公子・光源氏を演じて、大きな話題を呼びました。

公開に先立ち、都内で開かれた坂東玉三郎さん登壇の記者懇親会の模様をお届けします。

嫉妬心については「練習しなくてもできます(笑)」

「源氏物語自体は、舞台にすることが難しい作品ですが、六条御息所は人間であれば誰もが根源的に持っている嫉妬心をテーマとしているため、見る人の琴線に触れるものがあります」
と、作品の見どころを玉三郎さんは語ります。

六条御息所を演じるにあたり、
「(嫉妬心については)練習しなくてもできます(笑)」
とユーモアたっぷりに話されました。

また、六条御息所が生霊となって葵の上を苦しめる場面については、
「本人は怨霊になっていることを知らず、そこはある意味では赦される点と言っても良いでしょう」
とキャラクターへの共感もにじませます。

光源氏を演じた市川染五郎さんについては、
「幕が開いたら、先輩・後輩などは考えないで欲しいと伝え、実際そのように演じてくれました」
と公演当時を振り返ります。

さらに、
「自分の意見を伝えることの重要性も伝えました。自らの意見を言うことで、その意見に責任を持つことになりますし、そのような参加の仕方が良い経験になると思います」
と、作品作りに欠かせないアドバイスも。

「なるほど」と思えるものを追求したい

舞台公演では、美しい世界観を生み出すための工夫も凝らされました。
「源氏物語の時代の文化である垣間見を基本として、舞台セットは全て几帳にしました。また、几帳をリバーシブルにして舞台転換をすることで、表裏で違った世界観を表現しました」

玉三郎さんは自ら映像制作にも携わっています。
「映像として見ると、一緒に芝居をしている共演者の良さに気づかされます。染五郎くんも良い表情をしていました」
と新たな魅力を発見する機会にもなったそうです。

さらに舞台づくりへの思いを、次のように語ります。
「古典の中に普遍的なものを見つけることが重要ですし、見ている人と気持ちがつながらないと意味がありません。ただ華やか、残酷であれば良いというものではなく、お客様が『なるほど』と思えるものを作りたいです。

例えば、『華岡青洲の妻』を見て、『人間ってこういうものなのだな』と感じる、そういう部分を追及してきました。そのような部分がどこか一点でもあるものを作りたいです」

また、かつて舞台美術家ボブ・クローリーと共に仕事をした際の印象的なエピソードも披露してくださいました。
「あなたにとって良い芝居は?と聞いたところ、(胸にグッと手を当てる仕草をして)こういうものだと。(自分も)そのような芝居作りをしていきたいと思っています」

『源氏物語 六条御息所の巻』 作品のあらすじ

時は平安の世。光源氏との子を身籠る葵の上は、謎の病に臥しています。物の怪や生霊による祟りを疑い、左大臣と北の方は比叡山の僧に修法を行わせます。すると、護摩を焚く僧が煙の中に感じ取ったのは、賤しからざる身分の女の気配...。

一方、光源氏は、美しく、品格と教養を持ち合わせた愛人・六条御息所のもとを訪れます。花見や連れ舞に興じ、久方ぶりの再会を喜ぶ二人。宮中の忙しさゆえの疎遠を詫びる光源氏でしたが、六条御息所は葵の上やその懐妊を嫉み、詰(なじ)ります。光源氏が堪えかねて屋敷を去ると、六条御息所は悲しみに暮れ、次第に嫉妬に狂って……。

【見どころ1】大河ドラマ「光る君へ」で大反響の『源氏物語』

紫式部は、970年頃、学者や歌人として活動した父・藤原為時を始め、文学に優れた一家に生まれました。父・藤原為時の影響下で、幼い頃から漢文などに親しみ、文学に類まれなる才能を発揮したため、為時は紫式部が男の子ではなかったことを嘆いたと言われています。

998年頃に藤原宣孝と結婚した紫式部は、その後、一女をもうけますが、それからほどなくして夫と死別します。『源氏物語』は、死別の悲しみを紛らわせるために書かれたと言われ、藤原道長は、その評判を聞き娘・彰子の家庭教師として紫式部を宮廷に招きました。その後、源氏物語は宮廷でブームとなり、人々を魅了しました。

『源氏物語』は約10年間かけて執筆され、世界で初めての長編恋愛小説と言われています。795首の和歌で構成され、光源氏とその子・薫を中心として約70年にわたる恋愛模様が描かれています。第一部は、光源氏の誕生から、栄華を極めるまでの三十三帖、第二部は光源氏が生涯を終えるまでの八帖、第三部は光源氏の子・薫の半生を描く十三帖です。

その後、時代を超えて多くの人々に愛読されてきた『源氏物語』は漫画、映画、ドラマなど多くの作品でモチーフとされ、時代ごとに様々な形を通して、人々を魅了してきました。中でも、昨年の大河ドラマでは、『源氏物語』誕生とあわせて紫式部の人生が描かれ、その細やかな人物描写と恋愛模様が反響を呼び、大きな話題となりました。放送が終わるたびにSNSでも感想が投稿され、ドラマの人気ぶりと共に、『源氏物語』の普遍的な魅力が改めて示されたと言っても過言ではないでしょう。

【見どころ2】六条御息所という人物と、光源氏への凄絶な恋心

『源氏物語』には様々な女性が登場しますが、九帖「葵」に登場する六条御息所は、多くの女性の中でも特筆すべき女性です。前東宮妃という高貴な身分に加え、美貌と教養を備えていますが、夫の死後、光源氏と恋に落ちることで苦悩します。

一方、光源氏は世の女性を魅了する稀代の貴公子で、正妻の葵の上は懐妊中です。六条御息所は、光源氏が年下ということも相まって自分の気持ちに素直なれず、次第に平常心を失います。そして、光源氏も六条御息所に惹かれつつも、次第にその気位の高さに息苦しさを覚えていきます。そんな中、六条御息所は、遂に想いが募り知らず知らずのうちに生霊となって葵の上を苦しめてしまいます。

『源氏物語』に出てくる女性の多くが儚く運命に翻弄されるなか、六条御息所は生霊となるほどの激しい気持ちを持つ女性として描かれます。他方で、六条御息所が抱く嫉妬心や愛するがゆえに抱く強い想いは、女性なら誰でも共感できる部分でもあります。その想いが物語に起伏を与え、源氏物語の中でも特にドラマチックで魅力的な場面となっています。

【見どころ3】玉三郎さんが魅せる究極の恋物語

坂東玉三郎さんは、重要無形文化財保持者(人間国宝)であり、芸と華を兼ね備えた現代歌舞伎屈指の女方です。これまでにも『源氏物語』をテーマとして、光源氏、藤壺、浮舟を演じてきました。今回演じる六条御息所役は、高貴な身分ゆえに恋に思い悩み、嫉妬心から自分の意に反して他の女性を苦しめるという役どころです。

玉三郎さんは、令和6年10月歌舞伎座筋書において、本演目について次のように語っています。
「六条御息所は、高貴な身分と高い教養や知性それらに対する誇りを持ち合わせるがために、年下の光源氏へ素直な心を表現できずに、自分を押し殺し苦悩するという、『源氏物語』ならではの女性の恋心を凝縮したような存在だと感じております」

また、特典映像では源氏物語が長年愛されてきた理由や本作で着用した衣裳について語る玉三郎さんのインタビューも収録。さらに、自らが映像制作にも携わり、編集や無観客での撮影を通して本作の魅力を最大限に引き出すよう尽力しました。

シネマ歌舞伎では、玉三郎さんが演じる美しくドラマチックな六条御息所が、大スクリーンで楽しめます。

プロフィール

坂東玉三郎(五代目) 大和屋

1957年に初舞台を踏む。1964年に十四代目守田勘弥の養子となり、歌舞伎座「心中刃は氷の朔日」のおたまほかで五代目坂東玉三郎を襲名。桜姫のほか、「助六由縁江戸桜」の揚巻、「伽羅先代萩」の政岡、「壇浦兜軍記」の阿古屋など当り役は多い。2012年、重要無形文化財(人間国宝) に認定。2013年仏芸術文化勲章最高賞コマンドゥール章受章、2014年紫綬褒章、2016年日本芸術院賞・恩賜賞、2019年高松宮殿下記念世界文化賞を受賞、文化功労者に選出。

市川染五郎(八代目) 高麗屋

2005年3月27日生まれ。十代目松本幸四郎の長男として東京に生まれる。2007年(平成19年)6月歌舞伎座『侠客春雨傘』で初お目見え。2009年6月歌舞伎座『門出祝寿連獅子』童 後に 孫獅子の精で初舞台。2018年1月・2月歌舞伎座『勧進帳』源義経他で八代目 市川染五郎を襲名。時代劇ドラマ「鬼平犯科帳」シリーズ、劇場版『鬼平犯科帳 血闘』にも出演。

写真/岡本隆史

シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』
2025年9月26日(金)全国公開
配役 :
六条御息所:坂東玉三郎
光源氏:市川染五郎
葵の上:中村時蔵
左大臣家の女房衛門:中村歌女之丞
比叡山の座主:中村亀鶴
左大臣:坂東彌十郎
北の方:中村萬壽

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