1. トップ
  2. 恋愛
  3. 映画『宝島』を見る前に知ってほしい3つのこと。妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝の「実在感」が成し得たものは

映画『宝島』を見る前に知ってほしい3つのこと。妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝の「実在感」が成し得たものは

  • 2025.9.23

第160回直木賞を受賞した真藤順丈の小説を原作とした映画『宝島』が、9月19日より劇場公開中です。本作は、まず「数字」のとてつもなさから、知っておくべきでしょう。

1:とてつもない数字、そして上映時間は191分!でも身構えすぎないでほしい

本作『宝島』で公式に示されている、見ているだけでクラクラしてきそうな数字は以下です。

「構想6年 2度の延期 総製作費25億円
撮影期間106日 沖縄ロケ41日 ロケ地43カ所
エキストラ延べ5000人 希少アメリカンクラシックカー約50台
CGカット数615カット 圧巻の本編尺191分」

これらから想像できる(あるいは想像できないほどの)作り手の苦労と執念は、「アメリカ統治時代の沖縄」の「再現」を超えてもはや「本物」としか思えない画を見てこそ、真に伝わるでしょう。 それはそれとして、191分という長尺に身構えてしまう人もいるかもしれません。トイレを鑑賞の直前に済ませておくことは言うまでもなく必須ですし、なるべく体調が良い時に劇場へ足を運んだほうがいいでしょう。

しかし、「1950〜70年代の20年にわたる戦後沖縄の物語」を描くためには必要な尺だと納得できますし、劇場で「どっしり」と腰を据えて見てこその作品だと思うのです。

何より、決して小難しい内容ではなく、後述するように感情移入がしやすいドラマが根底にあり、テンポも良く、先が気になるエンターテインメント性も十分です。「3時間超もあるのか」とネガティブに捉えすぎず、「3時間超は必要な長さであるし、実際に見てみればあっという間だった」という体験のほうを、ぜひ期待してほしいのです。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

なお、「20歳未満の飲酒、ナイフによる殺傷及び違法薬物の吸引の描写がみられる」という理由でPG12指定がされており、「嘔吐」シーンも1カ所あるほか、女性への暴力が描かれる場面もあるので、ある程度の覚悟をした上で鑑賞するのがおすすめ。

そういった、やや過激な描写も、劇中の暴力の危うさを示す上で必要だと思えました。民衆の怒りが爆発した、約20分という長尺で描かれる「コザ暴動」は、ぜひ劇場の環境で見届けてほしいですし、それでこそ戦後80年という節目の年である今、当時の出来事を「体感」する意義があると分かるはずです。

2:「戦果アギヤー」だった者たちの青春物語

本作の物語そのものはフィクションですが、戦後アメリカ統治下の沖縄の背景や、実際に起こったコザ暴動など、史実が大いに反映されています。

事前の知識が求められるのではないか、歴史に明るくないと楽しめないのではないかといった不安が、191分という上映時間以上に、かえってハードルを高くしているのかもしれません。

しかし、その必要はないと断言します。最低限、事前に知っておくべきなのは「戦果アギヤー」という言葉だけで問題ありません。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

戦果アギヤーは「戦果を挙げる者」という意味で、米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民らに分け与えていた者たちのこと。「強盗」でありながらも、見方によっては「義賊」や「英雄」とも捉えられます。

彼らの荒々しい手口が描かれる冒頭から、スリリングで引き込まれるはず。さらに、大友啓史監督は、プレス向け資料で戦果アギヤーについて、以下のようにも語っています。

「米軍基地に忍び込んで物を盗むことは、現代では到底信じられないことですが、当時の沖縄は本当に貧しくて、米軍側もそれを分かっているから、あえて見逃していたところもあった。孤児たちは、フェンスを越えたり穴を掘ったりして基地や倉庫に忍び込み、鉄屑や薬莢などを盗み、それを売ることでなんとか生きていた。それが戦果アギヤーの始まりです。

けれどその行為は、彼らの成長とともにエスカレートして、規模が大きく、より切実な行為になっていく。最初は「お腹が空いたから何か欲しい」という目的だったのが、大人になり社会も変わっていく中で、誰かのために、困っている皆のためにという行為へと変容する。

それはまるで、現代にも通じる青年たちの意識の成長を、あるがままに捉えているかのようです。『宝島』は、沖縄がアメリカだった時代の青春物語です。」

本作の主人公は実質的に3人。グスク(妻夫木聡)、レイ(窪田正孝)、ヤマコ(広瀬すず)は、それぞれ別々の道を選んでいくのですが、その3人共が戦果アギヤーのリーダー格だったものの、消息を断ったオンちゃん(永山瑛太)の「影」を、ずっと追い続けているようにも見えるのです。大友監督の「青春物語」という指摘も「まさに」と納得させられます。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

青年どころか少年といえる年齢だった若者たち(例えばレイは冒頭で17歳)が、大人になり違う道を進む一方で、実は思いを同じくしているところもある、という共感しやすい青春物語に加えて、「オンちゃんはどこに消えたのか(生きているのか死んでいるのか)」というミステリー要素も興味を惹かれる重要なポイントです。

彼らが歩んできた約20年の歳月で、どのように彼らの人生が、また時代が変わっていくことにも、大いに注目してみてください。

3:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝の熱演

本作の見どころは豪華キャスト陣が、隅々まで当時の沖縄にタイムスリップしたような世界に「本当にいたんじゃないか」とさえ思える、実在感のあるキャラクターを熱演していること。それぞれが演じてきた役柄の、集大成とすら思えました。

妻夫木聡が演じるグスクが選んだ道は「刑事」。言動はかなり荒っぽいものの、その有能さのため米軍諜報部の高官から「友達」になることを提案されたり、ヤマコ(広瀬すず)と過ごすシーンでは穏やかな表情も見せたりもする、人間くささが目立つ人物です。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

その苦悩や葛藤がやがて「コザ暴動」へと結びつく様、予告編でも見られる「なんくるない(なんとかなる)で済むかぁ! なんくるならんどぉ!」と叫ぶようになるまでの過程を見せきる、妻夫木聡の表現にも注目してほしいところです。

妻夫木聡は、19年前にコザを舞台にした映画『涙そうそう』をきっかけに地元の人々と交流を続けていたそうで、彼自身「今回の出演者の中でもコザに対しての思い入れはすごく深いのかもしれないですね」と語っています。劇中では攻撃的な印象が目立ちますが、一方で「うちなんちゅ(沖縄の人)」として溶け込むような、妻夫木聡の親しみやすい存在感にも注目してほしいです。広瀬すずが演じるのは、小学校の先生という道を選んだヤマコ。大友監督から「太陽のような存在でいてほしい」と役を託された彼女は、恋人だったオンちゃん(永山瑛太)への想いを年齢とともに変化させていきます。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

しかし、とある悲劇の場面では、その想いや人生までもが一変してしまいます。泣き崩れる広瀬すずの演技も圧巻ですが、その後はデモに参加するようになり、試練を乗り越える強さを手にしたようにも、危うい道を選んでしまったようにも見え、強く心が揺さぶられるのです。

広瀬すずは、9年前の映画『怒り』で性的暴行を受ける少女という、痛ましいという言葉では言い尽くせないほどの役を演じたこともありました。今回もまた沖縄という地で、決して消し去れない悲劇に見舞われる役であり、広瀬すず自身が「思い出すとその時の感情がよみがえってきて胸が苦しくなる」と振り返りつつも、「自分の中で何かひとつヤマコとしての軸を持ち、物語のなかでどんなことが起きてもブレずに、男たちに負けずに、沖縄に降りかかることに堪えることができたら、自然と太陽のような存在になれるのかなと思って演じました」と語っており、その言葉通りの「負けない」精神性も役柄から感じられます。一方で、窪田正孝演じるレイが選んだ道はヤクザという、完全に「正しくない」道です。窪田正孝自身、「レイの最終的な行動が、言葉ではなく暴力に動いていってしまうことも、この物語としての役割のひとつ」だと考え、「アクセルを踏んだらどこまでも行ってしまう危うさ、ブレーキが効かない、そういうレイの葛藤や本心の部分をお芝居として見せていけたら」と、意識して撮影に臨んだのだそうです。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

窪田正孝は善良な役を演じてきた一方で、直近の映画『悪い夏』では極端なサイコパス、また『Cloud クラウド』などでは「いつ暴走するのかわからない」危うさのある役も演じきっていました。今作で演じたレイは、簡単には感情移入することができない、非常に攻撃的な人物。非人間的な印象をまといながらも、偉大な兄貴分であるオンちゃんの存在に対するコンプレックスを抱えており、「もしかすると踏みとどまれるのではないか」と思わせる役柄なのです。三者三様の生き方で、足並みがそろわずにバラバラだった3人が、永山瑛太演じるオンちゃんの「不在」をきっかけに、実は同じ思いを抱き、時にはそのことで「つながっていた」ことを示す物語だといえるでしょう。

(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会

3人が辿り着く結末は、妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝はもちろん、他キャスト陣も全力で「ぶつかり合った」ことが結実した、言語化できないほどの感動がありました。それぞれのファンはもちろん、日本映画の底力を知りたいという人、戦後沖縄の出来事を体感したいという人は、最優先で映画館に駆けつけてほしいです。この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞

文:ヒナタカ

元記事で読む
の記事をもっとみる