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35年前、日本中が心震わせた“国境を越えた慈愛のバラード” 洋楽ながら40万枚超を記録した“異例のドラマ主題歌”

  • 2025.9.24

「35年前の冬、あなたはどんな音楽に耳を澄ませていた?」

1990年1月。新しい年が始まり、乾いた空気が頬を刺すような寒さの中、喧騒に包まれた日常の隙間から、まるで時を止めるかのように響いてきたやさしいバラードがあった。

ダイアナ・ロス『If We Hold On Together』(作詞・作曲:James Horner, Will Jennings)――1990年1月25日発売

この曲は1988年にアメリカで公開されたアニメ映画『リトルフット』の主題歌として生まれた。しかし日本で大きな注目を集めるようになったのは、1990年にTBS系ドラマ『想い出にかわるまで』の主題歌に選ばれてからだろう。主演の今井美樹が繊細な表情を見せるシーンに寄り添うように流れるその旋律は、視聴者の心に深く焼きつき、ドラマの物語と一体となって語り継がれていくことになる。

映画からドラマへ重なり合った“祈りの響き”

ハリウッド映画のために紡がれたバラードが、国境を越えて日本のドラマに溶け込む――その事実は、当時の音楽ファンに大きな驚きを与えた。映画音楽家のJames Hornerと、作詞家のWill Jenningsの黄金コンビが手がけた楽曲は、壮大でありながらどこか温かい。この2人が手掛けた楽曲だと映画『タイタニック』の主題歌となったセリーヌ・ディオンの『My Heart Will Go On』を思い浮かべる人もいることだろう。

2人が生み出した『If We Hold On Together』は、まるで人々の胸にそっと手を置き、「信じる心を失わないで」と語りかけているかのようだった。ドラマの切ない人間模様とリンクすることで、その旋律は登場人物の感情を代弁するような役割を担い、多くの視聴者の涙を誘った

「洋楽が日本のドラマ主題歌として日常に溶け込む」――その体験が多くのリスナーの記憶を強く刻んだ。

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1996年、NHKホールで開催されたダイアナ・ロスのコンサートより (C)SANKEI

ダイアナ・ロスの声が届けた“母のような慈愛”

この曲でのダイアナ・ロスは力強さだけでなく、慈愛に満ちた柔らかさにあふれている。高音に伸びるときの透明感は冬空を切り裂く光のようであり、低音のささやきは寒さを包み込む毛布のようにあたたかい。大きな会場を揺らす迫力よりも、聴く人一人ひとりの胸に寄り添う親密さ。だからこそこの歌は、まるで自分のために歌われている祈りのように響いた。

『If We Hold On Together』は、日本で40万枚以上という、洋楽シングルとしては異例の売上を記録した。背景にはドラマ人気の追い風があったのはもちろんだが、それ以上に、誰の心にも響く「普遍的なやさしさ」が人々を惹きつけたのだろう。アメリカ生まれのバラードは、日本で“自分たちの思い出の一曲”として大切に受け止められていった。

時代の隙間に残された“永遠の余韻”

1990年という年は、表面的には華やかさが続いていたが、街の片隅にはどこか言葉にできない寂しさも漂っていた。そんな時代の隙間で聴いた『If We Hold On Together』は、きっと多くの人に「大切なものを信じ続けたい」という気持ちを思い出させたに違いない。

35年の時を超え、今もこの楽曲が語り継がれているのは、それが単なる“ヒットソング”ではなく、人生の大切なシーンを彩る“祈りのバラード”として人々の心に寄り添い続けているからだ。

アメリカから届いた旋律が、日本の冬を優しく包み込み、いまも静かな余韻を残し続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。