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SNSアイコンから新鋭デザイナーへ。「ムッシャン」木村由佳、初のショーにかける思いとは?

  • 2025.8.30

ムッシャンを率いる木村由佳とは?

──ファッションに興味を持ったきっかけを教えてください。

小学生の頃、バービーが好きで人形の服を作ったり、身近な布や物を切って遊んだり、学校のあまり興味のない授業では漫画のような絵を描いたり──。昔から、ファッションに限らず、モノづくりに興味があったのだと思います。幼少期は中国・福建省の祖母の家で育ったのですが、祖母曰く、布団にまで切れ込みを入れていたようです。

日本でいう『ファッション通信』のようなランウェイにフォーカスした番組も印象に残っていて、その感動が今に繋がっているのかもしれません。

──2024-25年秋冬シーズンに始動したムッシャン(MUKCYEN)は、エムエーエスユーMASU)を運営するソウキに所属しています。どういった経緯で立ち上げデザイナーに就任したのでしょうか。

前職では小物もデザインしていたのですが、関われる部分が限られており、すべての過程に携わりたくなり退職を決意しました。その頃、知人の紹介で今の会社と出会い、半年ほど検討と相談を重ねて立ち上げるに至りました。ひとりでブランドをはじめることも選択肢にありましたが、「ショーを開催したい」と考えていたので、最終的には自社工場や背景のある会社と組むことに決めました。

──モデルやインフルエンサーとしての活動は仕事と並行して行なっていたのでしょうか。

中学生の頃からメイクは研究しつづけていました。そこで、働きはじめてからメイクやコーディネートをInstagram、Weiboや小紅書(RED)で発信するようになりました。共感していただけた方々へもっと情報をシェアしたい気持ちが強かったので、本業の仕事の合間の休日などにSNS用の素材作りをしていました。

カテゴライズされない、新しい形を目指して

ムッシャン 2024-25年秋冬コレクション
ムッシャン 2024-25年秋冬コレクション

──ブランド立ち上げ時のコンセプトを教えてください。

ムッシャンは、私の苗字の中国語表記を元にした造語。コンセプトのひとつでもあるのですが、何かにカテゴライズされることや自分の名前をブランド名にすることに抵抗があり、検索しても他のものが出てこない、何かに属さない新しいカテゴリーを作りたいという思いから名付けています。

もうひとつブランドにとって重要なのが“死生観”。人生は死という終わりがあり有限だからこそ、時間を有意義に使いたいと意識して生きています。タイトな服が多いのは、生地が直接肌に触れて気が引き締められ、より日々に意識が向くような気がするからです。

──タイトなシルエットに加え、構造が複雑なアイテムも多いかと思います。服作りへのこだわりはなんでしょうか。

この時代でしか生まれないものを作ることです。例えば、アウターを作る時、MA-1のような特定の型を決め、そのデザインに基づいて作ることは基本的にしていません。もちろんアウター、カットソー、ボトムのような大きいカテゴリーは決めて制作し、ディテールを参照することはあるのですが、常に新しい形を模索するようにしています。

──「この時代にしか生まれないアイテム」について、具体的な例はありますか。

ブランドを象徴するアイテムでもある細身のカットソーや、コルセットがその一例だと思います。16世紀ごろ生まれた身体を細く、姿勢正しく見せるコルセットは、男性的な視点や当時の社会規範によって広まったようです。しかし現代では誰かに求められるものではなく、自分の意思で身体を変える手段になり得ます。同じ「コルセット」と呼ばれるアイテムで似た形であっても、時代によって意味合いが変化する。だからこそ「これは今の時代のコルセット」と言えるのだと考えています。

初ショーは“問いかけ”

ムッシャン 2025年春夏コレクション
ムッシャン 2025年春夏コレクション
ムッシャン 2025-26年秋冬コレクション
ムッシャン 2025-26年秋冬コレクション

──服もルックも、この3シーズンで大きく変化していますね。

ファーストシーズンは制限なく世界観を伝えることを重視し、2025年春夏ではショーピースのような作り込んだアイテムを増やし、2025-26年秋冬ではブランドらしいリアルクローズに意識を向け、シルエットや素材のドレープ感を強調しました。

ただ、文学や映画といった何らかの作品をプロダクトやビジュアルに落とし込むというのは一貫しています。1シーズン目から、寺山修司、中国の奇談・怪異譚『聊斎志異』に収録されている『画皮』、ポーランドの映画『砂時計サナトリウム』をそれぞれテーマにしてきました。

そうした作品への関心は、自分の体験に由来しています。小学校卒業後に日本へ引っ越し、言語の壁で人とうまくコミュニケーションがとれず、大半の時間をひとりで過ごしていました。その頃、インターネットでひたすら好きなものを調べるなかで、様々な作品と出会ったのです。

──そして、「NEXT BRAND AWARD」アワードのグランプリ受賞をきっかけに初のショーを迎えます。

立ち上げ時からショー形式でコレクションを表現することへの意識はありました。ルックブックだけではなく、空間を通して伝えることの必然性を感じ、アワードに応募しました。5月からコレクション制作に取り掛かり、6月にはアワードの結果が出て、本格的に準備を始めました。今までは1人で制作することも多かったのですが、ショーを開催するにあたって、チームを作り関係性を深める必要に駆られ、未来に向けた大切なタイミングを迎えていると思います。

──最後にテーマとショーへの意気込みを聞かせてください。

テーマは「問いかけ」。限られた時間をどう過ごすか、という問いを観客のみなさんに投げかけたい。ショーはブランドの世界観を直接体感してもらえる貴重な機会なので、その場のムードに共感してもらえたら嬉しいです。

Photos: Ton Zhang

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