1. トップ
  2. ファッション
  3. 【著者インタビュー】寺地はるなさん生きづらさの先にある「もっと自由な」生き方とは?

【著者インタビュー】寺地はるなさん生きづらさの先にある「もっと自由な」生き方とは?

  • 2025.8.25

デビュー10周年を迎えた作家・寺地はるなさん。
最新作『リボンちゃん』では、 “かわいいもの”を愛する主人公・百花(ももか)と伯母の物語を通じて、
「生きづらさ」の先にあるより軽やかな生き方を描いています。
執筆の舞台裏やこれからの挑戦を伺いました。

個性を出そう、自分らしく……だけではしんどい 「生きづらさ」の先にある、自由な生き方を描く

——最新作の『リボンちゃん』は、33歳の誕生日を迎えたばかりの、かわいいものが大好きな主人公の百花とその伯母が、下着のリメイクを通じて身につける人の背中を押し、自分たちも前に進んでいく……という物語です。下着という題材を選んだきっかけは何だったのでしょうか。
 
寺地はるなさん(以下、寺地) 編集者さんとの打ち合わせで「オーダーメイドの下着」という提案をいただいたんです。私自身は、そこまで下着に興味はなかったんですけど、「興味がない」方が、私はむしろいいと思っていて。自分の中から出たものだけを追いかけていたら、どんどん幅が狭まってしまいます。
ただ、私が最初にイメージした下着は、見る人を意識したような、華やかできれいなものだったんです。でも調べていくと快適さを追求したもの、見た目を重視したもの、体の変化に応じて、ある機能に特化したもの……と、とても多様なものだと分かって、それなら書けるなと思ったんです。小説を書くことって、分からないことを分かろうとするための、手段のひとつでもあるので。
 
——そこからどんなふうに、物語を膨らませていったのでしょうか。
 
寺地 私の小説は「生きづらさ」をテーマにしていると言われることが多いのですが、あまり自覚がなかったんですよね。でも、そう言われるということは、周りからはそんなにラクに生きているように見えないのかな?と思って。もちろん世の中は自分用には設計されていないから、それなりの工夫は必要。だけど、自分ではそれほど生きづらさは感じていなかったんです。今回は、その「生きづらさ」のもっと先にあるものみたいなのを書きたくて、百花という主人公ができたんです。
 
——「生きづらさの先」というのは?
 
寺地 たとえば「この年齢でこういうファッションはすべきではない、と押しつけられるのが嫌」というのが、生きづらさのひとつだとしますよね。それに対して「勝手にそう言っててください、私には関係ないので」「私は私でいきます」と言えるのが、「もうちょっと先にある人」かなと。
百花は髪に大好きなリボンをつけているけれど、みんなに彼女のような生き方をしてほしいのではなく、違う生き方を選んでもいい。だから今回の作品では、いろんな選択をする女の人たちが出てきます。自分にとってラクであれば、それが「周囲から浮かないようにするため」という理由だとしてもいいんですよね。
「個性を出していこう」「自分らしく生きていこう」というメッセージだけでは、ちょっとしんどいと思うので。この本では「どっちでもいいんだよ」ということを伝えたかったんです。
 
——過去のインタビューで寺地さんは、「年齢に応じたファッションをすべき」という価値観に抗(あらが)うために、あえてキャラクターものを持つこともある、とおっしゃっていました。
 
寺地 最近はもう「何歳だから」という前提がなくなってきて。あえて抗うというよりも、自分が好きなもの、かわいいなと思ったものを素直に持つようにしています。最近買ったバッグがフリフリのキラキラで(笑)。子どもにも指摘されるんですけど、そこで「フリフリだけど、かわいいと思ったから」とか言い訳をしないでおこうと。「そうだよ、かわいいでしょ」だけでいいと思うんですよね。
 
——本作はデビュー10周年記念作品でもあります。作家生活を振り返って、あらためて感じることは?
 
寺地 必死にやっていたらもう10年経ちました、という感じです。大ヒットした作品があるわけではなく、本を一冊出すごとに新しい読者の方に出会えて、ずっと読んでくれる人が10年いてくれて。それはすごく恵まれていたなあと思います。

区切りを待っていたら始められない 学び続けることで、小説にも新しい風を吹き込む

——「大人のおしゃれ手帖」の読者は50代が中心です。子育ても落ち着いて、新しいことを始めたいと考える人も多い世代ですが、寺地さんがこれから挑戦してみたいと考えていることは?
 
寺地 子どもが手を離れたら、通信制の大学で勉強するつもりだったんです。でも、手が離れるっていつなんだろう……?と思って。区切りを待っていたらいつまでも始められないので、2021年に入学して、今もオンライン授業を受けています。当初はコロナ禍で家にいる時間も長かったので順調に授業を受けていたんですけど、最近は時間を取るのが難しくなって、卒業が一年延びてしまいました。でも時間がかかっても、自分のお金と時間だし、別にいいかなと思って。心理学や言語学、看護学、韓国語……など、分野に関係なく、そのとき興味の湧いた授業を受けています。学んだことをそのまま小説の題材にできるわけではないのですが、新しいものに触れることで、私も考えることができるので。それが小説を書くうえでも役立っていると思います。

——卒業後は、また新しいことに挑戦するのでしょうか?
 
寺地 ここ5〜6年、誕生日に「やったことがないことに挑戦する」ということを続けていたんですけど、今年からは誕生日に関係なく、見たことのないものを見ようと思っていて。最近は初めて「能」を観ました。分からないなりに興味深かったですね。

——今後、書きたい作品のイメージはありますか?
 
寺地 より新しい表現ができたらいいなと思います。ひとつ考えているのは、今はオーディブルで聞かれる方も多いのですが、文字で読んだときと耳で聞いたときの面白さは違う気がするので、そこが今の課題です。それとは別に、私は今までSFやファンタジー、極端に言えば、幽霊が出てくるような、「現実に起こり得ないこと」をあまり書いてこなかったんですね。でも小説の中で起こり得ることであれば、表現の一部として取り入れてもいいのかな、と思うようになって。ここ数年、挑戦を始めています。

寺地はるな

1977年佐賀県生まれ。現在、大阪府在住。2014年『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。21年『水を縫う』で河合隼雄物語賞受賞、24年『ほたるいしマジカランド』で大阪ほんま本受賞。『いつか月夜』『わたしたちに翼はいらない』『こまどりたちが歌うなら』ほか多数。

『リボンちゃん』

著/寺地はるな
¥1,650(文藝春秋)

幼い頃からかわいいものが好きで、いつも頭にリボンを付けている「リボンちゃん」こと百花は、あるとき伯母の加代子が営む「テーラー城崎」を手伝うことに。夫を亡くした後、主に日用品の制作を手がけていた加代子だったが、あるとき「下着のリメイク」の依頼が届き、手芸が得意な百花の力を借りることにしたのだった。


写真提供/文藝春秋 取材・文/工藤花衣
 
*画像、文章の転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

ライター
工藤花衣

工藤花衣

編集プロダクション勤務を経て、フリーランスのライターとして独立。『大人のおしゃれ手帖』をはじめとする女性誌や書籍で、主にインタビューや女性のライフスタイル、カルチャーに関する記事を執筆する。

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

ファッション、美容、更年期対策など、50代女性の暮らしを豊かにする記事を毎日更新中!
※記事の画像・文章の無断転載はご遠慮ください

元記事で読む
の記事をもっとみる