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20年前、日本中の耳に刻まれた“悲しまない別れのラップ” 実体験から生まれた“再生の一曲”

  • 2025.9.10

「20年前、あの日のフレーズを耳にした瞬間を覚えてる?」

2005年の秋。ラジオから流れてきた新曲は、華やかなダンスビートでも、派手なサウンドでもなかった。静かに、けれど確かに胸に刻まれる言葉が、聴く者の耳を離さなかった。“9月8日”という日に届けられたその一曲は、“別れ”を描いた作品として、聴き手に深い余韻を残した。

KREVA『スタート』(作詞・作曲:KREVA)——2005年9月8日発売

前年の同じ日にソロメジャーデビューシングル『音色』を発表したKREVAが、再び“9月8日=クレバ(908)の日”にリリースしたシングルは、自身にとって初めて“別れ”をテーマに据えた作品となった。

静かに始まる“別れのスタート”

『スタート』というタイトルは、一般的には“始まり”を意味する。けれどもこの曲では、同時に“別れの瞬間”が新たなスタートであることを示していた。

歌詞の中で描かれるのは、同じ時間を過ごした2人がそれぞれの道を選んで歩き出す姿。そこには未練や悲嘆といった感情がまったくないわけではないが、むしろ未来を見据える強さの方が強調されている。

「G・O・O・D・B・Y・E」の響きは、そのシンプルさゆえに強烈で、聴き終わったあともしばらく耳に残り続ける。まるで人生の節目に刻印を押すように、楽曲全体が“別れと始まりの記録”として機能しているのだ。

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KREVA-2008年撮影 (C)SANKEI

戸惑いから生まれた“リアルな言葉”

この曲には、KREVA自身の実体験が色濃く刻まれている。スタッフが突然やめることになり、その知らせを本人は直接ではなく間接的に耳にしたという。後に本人が語った言葉によれば、怒りや呆れではなく、ただただ残念だったとのこと。その戸惑いと落胆の中で、彼は「曲を作るしかない」と感じ、一気に歌詞を書き上げた。

つまり『スタート』は、ただのフィクションのラブソングではなく、彼自身のリアルな感情を吐き出した記録でもあった。個人的な出来事を普遍的なテーマに昇華させることで、聴き手一人ひとりが自分自身の“別れ”や“始まり”を重ね合わせることができる。そこに、KREVAの人間味あふれる深みが宿っている。

特別な日に託された“節目の一曲”

この楽曲が発表された2005年9月8日は、“908の日”として特別な意味を持つ日だった。前年に『音色』をリリースした同じ日を選び、再びシングルを出したことで、彼自身の活動にとってこの日が“節目”であることが強調された。

自らの名前に重ねたこの日付は、ファンにとっても“毎年記憶に残る日”となり、作品の存在感をより大きなものにしている。

その意味で『スタート』は、KREVAにとって単なる5枚目のシングルではなく、“自分の歴史を刻むための一章”だった。個人的な別れの体験をもとにしながらも、それを大切な記念日にリリースすることで、音楽の記録として永遠に残したのだ。

20年後に残る“再生の余韻”

あれから20年。KREVAは日本のヒップホップシーンを代表する存在として数多くの作品を発表してきた。この曲には別れの痛みをただ悲しむのではなく、新しい決意に変えていく。その矛盾を受け入れる強さが、静かに、しかし確かに刻まれている。

聴く人にとっては、恋人との別れ、友人との別れ、あるいは仕事や人生の転機など、さまざまな“スタート”と重なり合う。だからこそ、この曲は“再生の物語”として今も心に残り続けている。

――静かに別れを告げ、同時に未来へと歩き出す。KREVAが2005年の“908の日”に刻んだのは、その矛盾を抱えた人間の姿そのものだったのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。