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「子どもが大きくなったら観せたい」ホラー作品と再会! 菅野美穂が語る最新映画『近畿地方のある場所について』

  • 2025.8.6

リング〈コメット コレクション〉[WG×DIA×パール]¥3,080,000、時計〈プルミエール〉[WG×DIA×パール]¥13,090,000(共にシャネル/シャネル カスタマーケア)、ジャケット¥455,400、ニット¥149,600、ブラウス¥279,400、パンツ¥173,800、シューズ¥163,900 ※参考価格(全てクロエ/クロエ カスタマーリレーションズ)

20代では『富江』『催眠』『エコエコアザラク』などミステリーホラーの作品においても確かな人気を博した菅野美穂さん。2025年8月8日公開の話題の映画『近畿地方のある場所について』でホラーというジャンルとの再会を果たした菅野さんにインタビューを敢行! 将来、子どもにも観せたい1本になったと語る、作品のみどころは?
 
interview & text:HAZUKI NAGAMINE

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

経験したことのない、新世代のホラーに心惹かれて

オトナミューズ読者世代ならば、90年代のジャパニーズホラー人気を懐かしく振り返るはず。『富江』『催眠』『エコエコアザラク』など、菅野美穂さんとホラー作品との親和性はいわずもがなで、“理性”と“狂気”の境界を漂うような恐怖をあおる存在感は、最新映画においても際立っている。
 
「今回のお話をいただいたときに、最初に『すごく人気のホラー小説なんです』と教えていただいて。私は、ちょうど子どもがまだ手のかかる時期で、世の中の流行とかエンタメのサイクルについていけていなくて。そんな中で原作を読ませていただいたのですが、淡々としているのに、ものすごく引き込まれるものがあって。怖いものを自分から掴みに行く感覚というか、それがまさに原作の持つ力強さだと感じました。自分の世代では経験したことのないタイプのホラーという印象で、しかも原作者の背筋先生は独自の世界観がありながら、普通だったらファンの方も原作者も『この世界観を壊さないで』と思うはずなのに、ご自身の作品が映像化されることに柔軟さを持っている方。脚本にも関わってくださっているのですが、物語の“核”はしっかりとありながらも、アメーバのように形が変わっていくのをよしとして楽しんでいる印象すらありました。“どうぞ、料理してください”といったスタンスで、その姿勢が新世代的に映りましたし、すごく素敵だなと思ったんです。作家としても、今までにいらっしゃらなかったようなオリジナリティを持っている方だと感じて、ご一緒できたことがすごく幸運でした。あと背筋先生はすごく若くて、優しそうでおしゃれな方なんです。あの作品を書いた方がこんなに柔らかい雰囲気の方なんだっていうのも、ちょっとした驚きでした」

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

菅野さんが演じたのは、オカルト雑誌のライター・瀬野千紘(せの・ちひろ)役。
「千紘という女性は、実在のモデルになった方がいらっしゃって、見た目はおしゃれで綺麗なんだけど、内面がすごくユニーク。ホラーを愛してやまない人って、外見じゃなくて何か醸し出す空気で分かる気がします。髪型や衣装については、白石(晃士)監督から“普通の人”に見えるように、と。髪もあまり長過ぎないようにと指示がありました。ホラーの中で“普通”でいるって、逆に難しい。でもその違和感が怖さにつながっているのかなと思いました。白石監督はホラーを撮り続けてこられた方なんですけれど、現場でも本当に繊細な演出が多くて、ホラーは“演出の呼吸”で決まるんだなと思う瞬間がたくさんありました。私、これまでの現場では、脚本を読んで『ここはこうしよう』『このリアクションはこんなふうに』と自分なりの答えを、現場に持っていくことを大事にしてきたんです。でも今回は、監督がホラーを知り尽くしているからこそ、自分のアイデアは浅瀬でちゃぷちゃぷ遊んでいるレベルだなと察して(笑)。むしろ、監督がなぜそう演出されているのかをちゃんと受け取って、読み解くことのほうが大切だと感じたんです。印象に残っているのは編集者役の赤楚(衛二)さんに『もう少しホラーらしく、ドアノブ回してください』と演出をされていたこと。ガチャッて普通に開けるんじゃなくて、“何かいるかも……”という怖さを滲ませてから、そーっと回す。そういった細部の積み重ねで怖さは生まれるんだなと。だから今回は、自分の意見を持たないことがむしろ勇気なのかもと思いましたし、それが正解だったような気もしています」

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

キャリアが長くなればなるほど、現場に「何かを持って行かなければ」と背負うものもある。ただ、本作においては、あえて空っぽで飛び込む。それが新しいチャレンジでもあった。
「感動や笑いと違って、“恐怖”は特殊なもの。見ている人に怖さはどう波及するのか、どの瞬間で怖いとなるのか、その予兆をどう仕込んでいくか。自分が怖がることよりも、見ている人に“不安が伝わる”ように演じるのは緻密な計算が必要でした。ホラーは瞬発力が大事な演技が多く、突然の驚き、思わず漏れる悲鳴、普段とは違った筋肉の動き……やり過ぎると途端に“演技感”が出てしまって興ざめしてしまう。今回は特に、監督の中にちゃんと計算された設計図があるのを感じていたので、自分のアイデアを持ち込むよりも、ノイズにならないことのほうが大事だなと感じていました。現場での私は、“BGMのひとつ”くらいでいい。観客の目に自然になじんで、気づいたら不安になっている、そんな存在であることを意識していました」
 
共演の赤楚衛二さんとは、ドラマで共演してから実に4年ぶり。がむしゃらに働いていた過去の自分を思い出す瞬間もあったそう。
「あれからずっと活躍されていて、近況を聞くととてつもなく忙しそうで、彼にとって『ああ、今が頑張りどきなんだな』と。私自身もかつて、寝る以外ずっと現場にいるような時期があって、そのころは『これをいつ乗り越えられるんだろう』って正直しんどかった。でも今、子育てをしながら振り返ると、演技だけに集中できる時間は本当に貴重で、あの時期にしか得られなかった大切なことがたくさんあったんだなとも思うんです。今の若い俳優さんたちは、SNSなどで発信について自分で考えないといけないし、余計な情報を勝手にキャッチしちゃうこともあるだろうし。共演させていただく若い俳優さんたちを見ると、勝手ながら心配になっちゃうくらい、大変な時代なんじゃないかなって思ったりします。“おば”ぐらいの気持ちで見守りたくなることは正直あります」

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

静かに忍び寄る恐怖が日本のホラーの美学

撮影中、日本のホラー特有の怖さについて考えてみたと菅野さん。西洋との比較に始まり、役作りは思いがけずユニークな方向へ。
「西洋のホラーはゾンビに追いかけられる恐怖があって、でも日本のホラーは何も言わず、遠くから恨めしそうにジッとこっちを見てる。近づいてこないけど確実にいる。そんな静かな恐怖こそ、日本のホラーの美学なんじゃないかと思うんです。なぜそこにいるのか、どうしてそうなったのか? 正体の分からなさにゾッとするんですよね。撮影期間中、ふと『髪の毛って、なんで怖いんだろう?』と思って、髪の毛と向き合ってみた時期がありました(笑)。髪の毛には気持ちが宿るというか、念が残る感じがして、生えているときはすごく大事にされて、美しさの象徴だったりするのに、抜けて落ちていると急に怖いものに変わる。この感覚も日本人ならではなのかなと、役作りとまではいかないですが、そういった怖さについて考えるのは楽しかったです。その流れで、マイケル・ジャクソンの『スリラー』のMVも久しぶりに見返しました。海外の方がゾンビを怖がるのは土葬文化だからかな?と、自分なりに紐解いてみたり」

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

また、菅野さんらしい視点で語られるホラー作品の意義も興味深いもの。
「面白いのは、作品の中で“怯えるのは誰か”という点。私、今回はほとんど怯えてないんですよ。感情をあらわにしているシーンはあるんですが、キャー! と叫んだり、取り乱したりはほとんどない。むしろ、怯えているのは赤楚さん。私としても、アラフィフの女がキャーキャー騒いでいる姿を一体誰が見たいんだろう? と思ったんです。ホラー作品は若い女性が恐怖に震えるのが定番の構図ですが、この作品はそうじゃない。私のキャラクターは肝が据わっていて、冷静でありながら、その内側ではさまざまな思惑を抱えている役どころ。一方で赤楚さんが演じる若い男性が取り乱してる姿は、コントラストが際立って、ものすごく新鮮でした。ああいった“美しい動揺”はホラーだからこそ出せる表情ですし、普通のドラマではなかなか見られない。そういう意味でも、ホラーは俳優の新しい表情を引き出せる、特別なジャンルなんだなと改めて思いました」

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

経験と年齢を積み重ねた先で、再会した新感覚のホラー。誰よりもその世界観に浸り、面白がっているのは間違いなく菅野さん。
「ミステリーなので詳細は言えないのがつらいところですが、ラストシーンも、まるでCMのようなさわやかな光景で締めくくられます。最後はCGが駆使された演出になっていて、私自身も映像で見て『え、こんなことになってるの!?』と驚きました。若い女優さんはできれば避けたいであろう演出かもしれませんが、私はかつて『エコエコアザラク』で顔が吹き飛んだ経験もあるので(笑)、むしろワクワク。子どもたちは今はまだ観られないけれど、大きくなったら最初のホラーとして観せたいですね。そういった意味でも子どもに残せる一本になった感じがしていて。同時に最近は本当に夏が暑いので、映画館で涼むにはホラーってやっぱり日本の夏には必要なんだなと改めて感じています。大人のみなさんには、少し眠れない涼しい夜を過ごしていただけたら本望です」

ネックレス〈アンビバレント〉[YG×あこや真珠]¥3,850,000(TASAKI)、シャツ¥268,400、ニット¥302,500、パンツ¥215,600、ベルト¥100,100 ※参考色(全てザ・ロウ/ザ・ロウ・ジャパン)

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

Profile_かんの・みほ/1977年生まれ、埼玉県出身。1992年に芸能界入り、翌1993年にドラマ『ツインズ教師』で俳優デビュー。近年の出演作に、映画『ディア・ファミリー』、ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』など。赤楚衛二さんとW主演を務める映画『近畿地方のある場所について』が8月8日(金)に全国公開される。

photograph:AKINORI ITO[aosora] styling:CHIKAKO AOKI hair & make-up:TAMAE OKANO model:MIHO KANNO

素材の略号:WG=ホワイトゴールド、YG=イエローゴールド、GG=グリーンゴールド、G=ゴールド、SIL=シルバー、DIA=ダイヤモンド

otona MUSE 2025年9月号より

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