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読むと思わず温泉地に行きたくなる! 温泉×ひとり旅小説

  • 2025.7.2

東日本大震災のあと、東北地方の復興を応援したいと思ったという、朝比奈あすかさん。それまで温泉目当てで旅行したことはなかったが、「旅館などの客足が戻らないと聞き、夫と行ってみようかとめぐった東北各地の温泉がどこもあまりにすばらしくて、一気にその魅力に目覚めてしまったんです」

温泉×ひとり旅。各編の主人公が忘れがたい思いや人生を見つめ直す。

好きが高じて“温泉ソムリエマスター”の資格まで取ってしまったという本格派。本書には、ご自身が旅した温泉の様子を織り込んだそう。

「各編に登場するのはどれも架空の温泉という設定ですが、私が行った中で印象的な場所を思い出しながら、あの温泉とこの温泉を組み合わせて…と、温泉の描写についてはリアリティを意識しました」

〈女が苦手な女〉だと自認する女性が温泉日帰りバスツアーに参加して得た気づきを描いた「女友達の作り方」、母親依存気味の44歳の女性が亡父の墓参りも兼ねて出かけた初めてのひとり温泉旅の話「おやつはいつだって」など、どの短編も、温泉と旅とが有機的につながっている。

「たとえば、都内で派遣で働く女性なら静岡や神奈川など近場の温泉を選ぶかなとか、秘湯や温泉のうんちくを語らせるにはいろいろな温泉に行っている経験豊かなおじいちゃんとかがよさそうなど、どんな温泉を舞台にするかは、『この主人公ならどこに行くかなぁ』とフィーリングで決めました。裏テーマはひとり旅です。これも子どもたちに手がかからなくなって、遅まきながら私が好きになったこと。友達や家族と行くと、その中から世界を見ていく感じになるんですが、ひとり旅なら、心のありようや景色の見え方も変わってくる気がするんですね。作中でも書いたように、ほんの一瞬交わした言葉で人生が違う方向に行ったり、一期一会のドラマがあるかもしれない、なんて思います」

一口に温泉と言っても、効能はいろいろ、求めるものも人それぞれだ。

「成分や熱さぬるさの好み、掛け流しにこだわるとか景色重視など、魅力は多彩。ものすごく大雑把に言うと、アルカリ性の湯は美肌効果やリラックス効果、酸性は怪我を治したり療養にいいので元気になれます。出てきた温泉は一応モデルになる場所があるので見当がつくかもしれません。温泉旅の参考にしてもらえたらうれしいですね」

朝比奈あすかさん

あさひな・あすか 1976年、東京都生まれ。作家。2000年にノンフィクション『光さす故郷へ』を発表。’06年に「憂鬱なハスビーン」で群像新人文学賞を受賞し小説家デビュー。著書多数。

朝比奈あすか『温泉小説』

Information

作中に登場するのは、山奥の秘湯〈福乃地温泉〉や、長逗留の湯治もできる〈銀猿温泉〉など。読むと思わず温泉地に行きたくなる6編を収録。光文社 1870円

写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

anan2452号(2025年6月25日発売)より

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