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あらゆる体型のために。セッチュウがジンバブウエの職人たちと編む、“ノーサイズ”の服【2026年春夏 メンズコレクション】

  • 2025.6.22

セッチュウSETCHU)の桑田悟史にとって、釣りは単なる趣味ではない。取り憑かれていると言っていいほど、釣りに夢中だ。前世は魚、それもタイガーフィッシュだったのではないか。コレクションのプレビューでも、鋭い歯を持つこの捕食魚を大事そうに抱えている自身の写真を桑田は見せた。先日ジンバブウエを訪れた際に撮ってもらったというその1枚に写る彼は、満面の笑みを浮かべており、写真をいかにも誇らしげに披露する姿を見ると、つい前世はタイガーフィッシュ説を推したくなってしまう。このように、桑田は最高の釣り場を求めて世界中を旅している。そして今回のコレクションでコラボレーションを図ったトカ(バトカ)族の職人たちが住むのも、タイガーフィッシュが生息するあたりにほど近い、ジンバブウエのヴィクトリアフォールの周辺だ。

トカ族の女性たちは、水に浸して柔くしたヤシの葉をねじり、造形的なカゴを編む。その熟練した技に桑田は一瞬にして虜になった。ジンバブエのJAFUTA FOUNDATIONと連携して地元の職人とトカ族を支援するLVMH メティエ ダールを介し、桑田は彼女たちとともに複数のオブジェを今季制作。そのどれもが波状の自由な構造をしており、日本の乱れ編みを彷彿とさせる。不揃いの美しさを醸し出す有機的なピースは、桑田が新たに追求している“ノーサイズの服”として展開され、あらゆる体型に合うスカートやトップ、パンツなどに姿を変えていた。

編まれたピースはアクセサリーというよりもアートに近く、実用的とは言い難い。しかし、桑田の異なる文化と文化を掛け合わせることへのこだわりを雄弁に物語っている。何しろ、ブランド名が表すように“折衷”こそがセッチュウのコンセプトであり、桑田自身のデザインへのアプローチの根底にあるものだ。「僕はロマンチストですが、ディズニーのようなファンシーな世界観に惹かれるタイプのロマンチストではありません。旅、そして冒険心あふれるマルコ・ポーロこそがロマンスだと思います」と彼はプレビューで語った。昨今の人たちは、目的もなしに、とにかく手当たり次第にいろいろな場所へ旅することが多い。だが、桑田は違う。「いや、僕はその逆で、やりたいことがありすぎるんです。(旅先では)いつも釣りに行きますし、博物館にも足を運んで、何か美しいものが一緒に作れないか、と現地の人たちと触れ合います」

型を破り続けるセッチュウの美学

老舗テーラーで研鑽を積んだ桑田は、その確かな腕前で、服の形や構造の可能性を追求し続けている。そして彼の特徴的な、イギリスのテーラーリングと日本の革新性を融合させた“遊び心のある機能的なスタイル”は、シーズンを追うごとに進化している。「いくつものピースを揃えた、幅広いラインナップを作ることにはあまり興味がありません。自分がずっとやってきたことを、ただ突き詰めているだけです」。今回もサヴィル・ロウの精緻なテーラーリングを、折り紙のように折りたためる軽やかなデザインに再解釈したピースが土台となっている。だが、以前から打ち出しているものとは違い、今季はプロポーション全体が小さめだ。「ピッコロ・オリガミ(小さな折り紙)」と名づけられた折り目付きのジェンダーレスジャケットなどは、腰ばきのノーサイズパンツと合わせられ、対照的なサイズ感が見事にマッチしていた。

ほかにも今季は、暖色のカラーパレットが新たに披露された。ジンバブエの夜明けと夕焼け、ヴィクトリアフォールにかかる幻想的な虹にインスパイアされたというそれを、桑田はハンドペイントした繊細なシルクシフォンのドレスとして表現。旅行と釣りの際はファッション性と着心地の両方を重視するという彼らしい、ファスナーを開けば布がほどけ、スカーフに変身するシャツパーカのハイブリッドピース、襟にハンドルを仕込み、たためばトートバッグのように提げられるサファリジャケットといった機能的なアイテムも展開された。

そして桑田はユーモアを忘れず、今シーズンは魚をもデザインに落とし込んだ。あるルックはガーメントバッグからできており、首や裾の引きひもを締めることで形を自由に操れるチュニックとなっていた。その首もとやウエスト部分には小さな黒い鯉があしらわれ、それは単なる装飾ではなく、留め具の役割も果たしている。「タイガーフィッシュにインスパイアされました」と桑田は説明。「タイガーフィッシュは雑魚などを食べる捕食者です。そして小さい魚は攻撃されるとパニックに陥り、逃げようとします。水中で繰り広げられるその狩猟劇を表現したかったんです」。ベジタリアンの人にとってはやや刺激が強いコンセプトかもしれない。ルック自体は気に入っても、着るのをためらうのではないのか、と問われた桑田は、間髪入れずにこう答えた。「魚なしのタイプも買えます。でも、魚が付いているからこそ、より遊び心があるんです」

※セッチュウ 2026年春夏メンズコレクションをすべて見る。

Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.COM

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