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世界最高峰のラグジュアリーホテル、ウォルドーフ・アストリア大阪が始動。デザインを手がけた建築家が目指した「私的で親密な体験ができる空間」の全貌とは

  • 2025.6.9

壮麗なる歴史と、この“場”ならではの表現の融合

アメリカが経済と産業の両面において急成長を遂げ、いわゆる“黄金期”と呼ばれる時代を迎えた19世紀末。贅を尽くした豪奢な造りと革新的なサービスを強みとして誕生したウォルドーフ・アストリアは、またたく間にニューヨークの上流階級の人々や世界の王族、政治家や著名人などを惹きつけ、きらびやかな社交の舞台となった。

さらに、すべての部屋への電気システムやバスルームの設置、ホテルにおけるボールルーム(宴会場)の併設、ルームサービスの24時間提供……といった、現代ではごく一般的とされる仕様やサービスの“発祥の地”としての側面も。そのレジェンダリーな背景を讃えるべく、オリジナルのホテルのアールデコ様式を踏襲した室内装飾が、ヒルトン傘下のブランドとして今なお世界各国で愛されつづける「ウォルドーフ・アストリア」の特徴のひとつとなっている。

JR大阪駅至近の再開発エリア「うめきた」に登場したウォルドーフ・アストリア大阪もその例に漏れず、開放感のある高い天井と広々としたスペースを活かして展開されるデコラティブな内装が、訪れる人の心を浮き立たせる。ただ、そこにあるのは、かつてのアメリカの栄華を投影した華やかなだけのディスプレイではない。木や和紙の温もりや石材の静謐さなど“和”を感じさせる要素が見事に調和し、ゆったりとしたくつろぎのムードを漂わせているのだ。

それは例えば客室内で、華やかなクジャクの羽のパターンがプリントされたアールデコテイストのファブリックと、日本の寺院にあるようなダークカラーの金属製ランプがしっくりとマッチしている点などにも明白に表れている。卓上にコロンとしたフォルムの苔の鉢が置かれていたり、伝統文化にまつわる本が棚を飾っていたりするところからも、日本らしさを実感できるはず。

ウォルドーフ・アストリア大阪のデザインを手がけたアンドレ・フー。Photo_ ©Yutaro Yamaguchi
EC_in_Japan_Day5_B0016880-FirstEditウォルドーフ・アストリア大阪のデザインを手がけたアンドレ・フー。Photo: ©Yutaro Yamaguchi

それこそまさに、建築デザインを担ったアンドレ・フーが意図していたことなのだという。香港出身で14歳のときにイギリスへ移り住んだ後、ケンブリッジ大学で建築を学んだ彼は、グローバルな教育を通して得た教養と、幼少期から各国を訪れて培った確かな審美眼の持ち主だ。

幾度となく訪問した東京京都の街並みからも大きな影響を受けてきたといい、東西の文化が呼応するダイナミックかつ繊細なラグジュアリー空間の設計で高い評価を得ている。彼にとって「ウォルドーフ・アストリア」をデザインするのは、タイのバンコクに続きこれが2軒目。「大阪“にある”ホテルではなく、大阪“のための”ホテルをつくることを意識した」という彼に、その経緯や想いを詳しく聞いた。

──今回の建築デザインで心がけたのはどんなことですか?

アンドレ・フー(以下A):まず意識したのは、アイコニックな「ウォルドーフ・アストリア」の特徴を受け継ぎながら、大阪という土地の感覚を取り込んだデザインにする、ということでした。私はティーンエイジャーの頃に当時ニューヨークにあったオリジナルのウォルドーフ・アストリアホテルを訪れ、その荘厳なデコレーションに感銘を受けましたが、それをそっくりそのまま持ってきても意味がないと考えたんです。

私がウォルドーフ・アストリア・バンコクの内装をデザインしたのは約8年前のことでした。その際は、建物自体がカーブを描いた有機的な形をしていたこともあり、流線の持つイメージをメインに据えたんです。一方で大阪の建物はそれ自体がとてもすっきりとオーガナイズされた印象ですし、再開発地区の大きな公園のそばにある。そうした根本的なところから、プロジェクトの背景はまったく異なるものになりましたね。また、ハイエンドな滞在に対する時代のニーズを鑑み、より私的で親密な体験ができる空間になればということも念頭に置いていました。

──実際に大阪を訪れてみて、この街をどのように捉えましたか? 日本や大阪ならではの要素を、いかに空間へ落とし込んだのか教えてください。

象徴的なラウンジ&バー「ピーコック・アレー」。開放的な吹き抜けとアールデコ様式のインテリアが非日常へと誘う。
象徴的なラウンジ&バー「ピーコック・アレー」。開放的な吹き抜けとアールデコ様式のインテリアが非日常へと誘う。

A: この街を知れば知るほど強く感じられたのは、ここがとてもハイブリッドな場所だということでした。若々しく大胆で活気のあるエネルギーに満ちていながら、侘び寂びや禅の精神を感じさせる一面も有する都市だと思います。それで、ラグジュアリーかつ落ち着いた雰囲気の中に、多彩なカラーを差し色として盛り込み、賑やかなオーラを表現しました。これは自分の中でも今まであまり試みたことのない、新たなアプローチでしたね。

また、ここに滞在する人々の動きについても入念に考えました。足を踏み入れてすぐはエネルギッシュな装飾性に心躍らせながら、歩を進めていくと親密でプライベートな落ち着きを感じられるように、装飾で工夫を凝らしたんです。

エレベーターを降りてすぐに目に入る「ピーコック・アレー」は、すべての「ウォルドーフ・アストリア」に共通して存在する象徴的なラウンジ&バーで、開放的な吹き抜けとアールデコ様式のインテリアがとても華やか。そこから通路を抜けると、椿の木が植えられたガラス張りの中庭を経て、木と石のマテリアルがモダンなロビーエリア「ランタン」に差しかかり、まったく別の場所に来たような感覚に陥ります。ファッションの世界で例えるなら、クチュールショーの終盤に美しい刺繍のドレスを纏ったモデルがたったひとりで登場する、あの瞬間のようなものかもしれませんね。すべてが静まり返ったような気分で「これからは自分だけの隠れ家や聖域に入る時間だ」と感じてもらえるよう、デザインを考案しました。

──ホテル内で、最もお気に入りの場所はどこですか?

フーがウォルドーフ・アストリア大阪のなかでも、最も気に入っているエリアとして挙げたバーの「ケーンズ&テイルズ」。
フーがウォルドーフ・アストリア大阪のなかでも、最も気に入っているエリアとして挙げたバーの「ケーンズ&テイルズ」。

A: 私が特に個人的に好きなのは、「ピーコック・アレー」の脇にあるバーの「ケーンズ&テイルズ」です。1920年代のジャズ・エイジを思わせる、デコラティブで落ち着きのあるスペース。鮮やかな色や大胆なパターンを用いた、ちょっと現実から離れた非日常の世界が広がっているのですが、そこに突然、古い大阪の地図が描かれたタイルの壁が現れるんです。“古さ”と“新しさ”の対比があり、それが驚きにも繋がるのではないかと思います。

──“リラックス・ラグジュアリー”と称されるご自身の建築デザインをどう考えますか? 中でも特に大事にしている要素を、3つ教えてください。

A: そうですね。私が建築デザイナーとしてのキャリアをスタートさせた15〜20年前頃の“ラグジュアリー”の大半は、言うなれば形式的で、そこにいる人が主役になるものではありませんでした。だけど今はより静かで洗練された、つまりリラックスした贅沢へと、求められるものが変化しているのかなと。私にとっての“ラグジュアリー”は、空間が人を包み込んだとき、その人が“モノ”としてではなく“主体”としてその場を体験できることなんです。上質でいて、くつろげること。その感覚を追い求める気持ちが根幹にありますね。

デザインで大切にしているのは、照明と……あとは本質的な快適さ、そして物語性でしょうか。ムードをつくりだす鍵となる照明は、空間に“包まれる”ような感覚を演出するのに欠かせません。また微細なカーブの具合などによって家具がもたらす安堵感を筆頭に、真の意味で快適であることにも注意を払います。見た目だけでなく体感としての心地よさが、くつろぎには重要ですよね。そして、空間に深みと意味を生み、デザインの魂ともなるストーリー。これも、コンセプトを強要するのではなく実際にその場を“体感”してもらうために必要なことです。

ウォルドーフ・アストリア大阪にアールデコの要素をふんだんに取り入れたのも、大阪という街がこの様式と親和性が高いという歴史的背景を見出したからで、無理に押し付けたものではありません。実はここには、大阪府庁舎や大阪証券取引所、綿業会館など、アールデコ様式を取り入れた建物が数多く残っているんですよ。少し距離は離れますが、兵庫県芦屋市にあるヨドコウ迎賓館にも感銘を受けました。アメリカ人建築家であるフランク・ロイド・ライトが日本らしさを取り入れながらつくった美しい建築を見て、「これなら自信を持って大阪で『ウォルドーフ・アストリア』をデザインできる」と確信しましたね。

──すでに日本で多くの場所を訪れているアンドレさんですが、次に行ってみたい場所を挙げるなら?

建築家の坂茂さんが設計した、広島県の下瀬美術館を訪れてみたいですね。可動式の展示室がそれぞれ青や緑、ピンクなどのカラーガラスに覆われていて、遠くから見るとまるで色とりどりのキューブが海に浮いているように見えるんだそうです。今年の春に直島のラインナップに加わった、安藤忠雄さんによる直島新美術館にも行きたい。建築やアートに関連する場所で行ってみたいところが、まだまだたくさんありますよ。

Photos: Courtesy of Waldorf Astoria Osaka Realization & Text: Misaki Yamashita Editor: Yaka Matsumoto

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