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地震予知はなぜ難しいの?日本地震学会に聞いてみました

  • 2025.6.5

地震大国ニッポン。大地震の発生を確実に予知できて事前の避難につなげられたらずいぶんと被害を減らすことができますよね。けれども、国は「日時と場所を特定して地震を予知することは、現在の科学的知見からは困難」としています。そもそもなぜ地震予知は難しいのでしょうか? 地震学の研究者などでつくる日本地震学会に取材を申し込んだところ、学会の広報委員を務めている小泉尚嗣・滋賀県立大学名誉教授がインタビューに応じて、素朴な疑問への答えをわかりやすく解説してくれました。

そもそも地震予知とは?

「まず、『地震予知とは何なのか』から話を始めましょう。地震の発生を予測するということは、「地震の発生時間」「地震の発生場所」「地震の大きさ(マグニチュード)」の一部またはすべてを地震発生前に推定することです。例えば、「南海トラフ地震が今後30年以内に発生する確率は80%程度」というのも地震予測のひとつです。
地震予知は、こうした地震予測のなかでも、特に確度が高くて警報につながるもの、危険が起きそうな時に一般の人に知らせて避難などに活用できるものを指します」

――大地震が起きると、前兆現象が話題になることがあります。地震の前兆現象としてわかっていることはありますか?
「大地震の前に小さな地震が頻発したり、地殻変動が起きたり、地殻変動によって地下水や温泉水が変化したりすることが知られています。地下の電位や地磁気の変化、大気の電離層の乱れが起きるという報告もあります」
「ただ、こうした現象は大地震の前に起きることもあれば起きないこともあります。また、同じような現象が起きたのに続いて大地震が起きないこともあります。地震予知につなげるのであれば、十分な観測データに基づいて特定の現象の後には大地震が起きることを示すか、地震が起きるメカニズムを理論的に解明して発生前に起きる現象を特定する必要があります。けれども、そもそも大地震というものが滅多に起きない現象であることもあり、確実に地震を予知する前兆現象はまだ見つかっていません」

――地震前に地震雲が現れるという話をよく聞きます。本当でしょうか?
「地震の前兆としての『雲』に関する研究は、過去に何度か発表されたことがあるのは事実で、雲と地震の関係が皆無であると断言はできません。けれども、前兆現象というには、先ほどお話したように、地震の前には起きるけれど通常はほとんど起きないなど、経験則としてある程度の法則性が見いだせるか、地震の発生と雲の発生に科学的な因果関係がなければいけません」
「けれども、よく地震雲ではないかという話が広まる雲は、地震とは無関係に気象学で説明できてしまう雲ばかりです。このため、一般の地震研究者や気象研究者の間では、雲と地震の関係はないと考えられています」

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研究が進むことで逆に明らかになる「予知の難しさ」

――明確な前兆現象は見つかっていないということですが、地震予知の研究はどこまで進んでいるのでしょうか?
「地震が起きる過程が詳しく解明されれば、おのずと地震の発生予測ができるかどうかわかってくると思いますので、地震の研究でわかってきたことをまず説明したいと思います」
「阪神・淡路大震災から30年経過しましたが、この間に観測網の整備が進み、これまで捉えられなかった小さな地震や地殻変動が捉えられるようになりました。それまで、地震の震源では断層が高速で破壊されながらすべると考えられてきましたが、数時間、数日、時には1年以上かけてすべる『スロー地震』も各地で起きていることがわかってきました」
「『スロー地震』はプレート境界の巨大地震発生域周辺で起こることが多いです。プレート境界には、スロー地震を時々起こすような場所や、日頃からずるずる滑っている場所、プレート同士がぴったりくっついてひずみをため込み、巨大地震を起こして一気にひずみを解放する可能性がある場所などがあることがわかってきました」
「活断層や津波堆積物の調査、古文書の分析も進み、過去にどんな地震があったのかも、より詳しくわかるようになりました。こうした研究から巨大地震が起こりうる場所や、そこで起きる地震の最大規模についてはある程度絞り込めるようになりました」

どこで止まるかわからない?

「もうひとつわかってきたことは、地震が始まった時点(地下で破壊が始まった時点)では、地下のどこまでが破壊されるのかがわからないのではないか、ということです。先ほどお話したように、さまざまな研究によって、活断層やプレート境界で起こる地震の最大の破壊領域は概ね把握できるようになり、地震の最大規模が推定できるようになりました。ただ、地震は破壊の連鎖反応のようなものなので、破壊可能な範囲すべてが実際に破壊されるのか、途中で止まってしまうのかが地震の開始時点ではわからないのではないかという考え方が出てきているのです。地震の大きさや津波の高さは、断層が動いた範囲で決まりますから、どこまで破壊されるかわからないということは、地震が起きる直前に地震の大きさ(規模)を予知することは本質的に困難である、ということになります」

――難しいですね。ストッキングの伝線がどこで止まるかわからない、というイメージでしょうか?
「実際の地下構造はもっと不均質で複雑なので全く同じとは言えませんが、連鎖的に起きるという意味では似ている部分があると言えます。地震波の解析が進み、震源での破壊の始まり方の詳細が明らかになるにつれ、この考え方は今の地震学の主流の考え方になってきています」

日本地震学会の立場

――研究が進んだことで、地震予知ができないということがわかってきたということでしょうか?
「そうとも言い切れません。地震予知が本質的に可能かどうかの判断をくだすためには、多くの事例を研究する必要があります。けれども、大地震は滅多におこらないため、十分な事例を集めることができていない、というのが現状です」
「日本地震学会としては、現時点で地震予知、つまり警報につながるほど確度の高い地震予測を行うのは非常に困難であると考えています。ただ、将来的に地震予知はできないとの意見を表明しているわけではありません。研究する価値がある分野として、引き続き、地震予知研究に関する議論や意見交換を行える場を提供していきたいと考えています」

――地震予知についての情報に接する時、一般の人が気を付けるべきことがあれば教えてください。
「日時と場所を特定して地震を予知することは、現在の科学的知見からは困難です。逆にいえば、『日時と場所を特定して地震を予知』するような情報が出ている場合、科学的根拠はないと考えてよいと思います」
「日本地震学会では一般の人向けに、地震予知・予測についてのFAQとして25の代表的な質問とその答えをホームページ(https://www.zisin.jp/faq/faq02.html)に掲載しています。こちらも参考にしてください」

有効な備えに活用できる情報は

「気象庁の震度データベース(https://www.data.jma.go.jp/eqdb/data/shindo/)を利用すると自分の住んでいる場所の地震活動を把握できます。防災科学技術研究所の地震ハザードカルテ(https://www.j-shis.bosai.go.jp/labs/karte/)を利用すると、自分の住んでいる場所の大地震リスクを把握できます」
「家屋の耐震強化や部屋の家具を固定するなどして、自分の住んでいる所を地震の揺れに対して強くし、緊急地震速報や津波警報に対して適切な対応をとることで地震災害はかなり防げます。緊急地震速報については、聞いてから数秒以内に対応することが重要です。シェイクアウト訓練(https://www.shakeout.jp/about/)などの簡易な防災訓練も有効です。住んでいる場所や勤務先でどのような地震災害が生じるのか、自治体で用意されているハザードマップで確認して、1年に1度程度でもよいので家族で防災に関する話し合いや訓練をするようにしてください」

<執筆者>

防災ニッポンデジタル編集部 館林牧子

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