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「私の居場所はここなんだ」——“家族になりたかった女”と“縛りたかった女”、「子宮恋愛」に見る愛のかたちの呪縛

  • 2025.5.14

子どもに託す“家族”という幻想

「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)
「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)

ドラマ「子宮恋愛」は、タイトルこそ刺激的だが、その内実はひどく静かで切実だ。登場人物の誰もが、自分の“正しさ”と“望み”に縛られていて、それを誰にも打ち明けられずにいる。主人公・苫田まき(松井愛莉)の「私の居場所はここなんだ」というモノローグが響いた。まるで自分に言い聞かせるようなその一言に、彼女の心の奥底にある不安と焦燥がにじんでいた。

まきは夫の恭一(沢村玲)と穏やかな暮らしを送っているように見える。彼女は、夫を愛していないわけではない。だが、まきの中には「子どもがいなければ本当の家族にはなれない」という強い思いがあるように見える。

彼女にとって“家族”とは、互いの間に確かな絆や物語が必要なもの。そしてそれをもっともシンプルに、確実に形にするのが“子ども”だった。それは社会的な焦りや年齢的なリミットというだけではなく、「このままでは、ずっと仮の存在で終わってしまうのではないか」という、根源的な不安と深く結びついているのではないか。

けれど「私の居場所はここなんだ」と口にした時点で、まきが現在すがっている場所は、“自分の居場所”ではないことを示してしまっている。まきがどこか自罰的で、過剰なまでに“不倫”を嫌う理由。そこには、彼女の家庭環境ーーとくに、母の存在が色濃く影を落としている。

まきの父は、20年以上も前に“別の女をつくって出ていった”という。それを現在も許さず、「絶対に離婚してやらない」と言い続ける母。まるで復讐のように、“離婚しないこと”を父を苦しめる手段として選び取ったその姿勢は、自分自身もまた、その怒りに縛りつける結果になっている。

そんな母の姿を見て育ったまきは、どこかで「自分が耐えればすべてうまくいく」と思っている節がある。まきが、休みの日にも実家に通い母の世話をし、家では夫のために手を尽くすのは、“愛されるためには我慢が必要”という無意識の刷り込みによるものかもしれない。

そして「不倫は絶対に許されない」という考え方は、“自分がされたら壊れてしまう”という脆さの裏返しにも見える。

三角関係に見る揺れる倫理

「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)
「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)

まきの夫・恭一は、まきの友人である寄島みゆみ(吉本実憂)と不倫関係にある。まきの誕生日でさえ、みゆみとの時間を優先し、まきが手間ひまかけて用意したサンドウィッチを一口齧っただけでゴミ箱へ。恭一の心は、もはやまきから離れていることは明らかだ。

一方のみゆみは、感情をほとんど表に出さない。彼女の本心がどこにあるのかはまだわからないが、「欲しいものは手に入れる。他人を傷つけることになっても仕方ない」という態度には、一種の潔さと、同時に危うさがある。

いまのみゆみにとって、恭一との関係は“楽しい時間”にすぎない。その先をどうするか、なんて考えていないのかもしれない。だからこそ、まきにとってはなおさら痛ましい。だが一方で、「自分をないがしろにする相手に、なぜそこまで固執するのか」という問いも浮かぶ。

それは、まきが“誰かを縛ること=愛”だと信じているからではないか。母が父を“離婚せずに縛る”ことで満足を得たように、まきもまた、自らを犠牲にして“家族”を成そうとしているとしたら。

もし複数愛という選択肢があったなら

「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)
「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)

本作は、不倫という構造そのものに苦しむ人々を描いている。だが、同クールで放送中の「彼女がそれも愛と呼ぶなら」や「三人夫婦」では、複数の関係性を受け入れることで、むしろ登場人物たちが解放されていく様子が描かれている。

もし、まきが“ひとりの相手に全てを託すこと”から自由になれたなら。

もし、関係性に“枠”をはめずに、正直な感情で人と向き合えたなら。

彼女はもう少し、呼吸がしやすい場所にたどり着けていたのではないか。「子宮恋愛」というタイトルは、あまりに直接的で衝撃的だ。だがその実、中身はきわめて繊細で、愛の不器用さと重さに満ちている。

子どもを望むこと、誰かに愛されたいと願うこと、自分を犠牲にしてでも相手を“つなぎ止める”こと。それらはすべて、愛のかたちではあるけれど、ときに、誰かの人生を奪ってしまうこともある。まきが自分の人生を“生き直す”ためには、母から受け取った「苦しみの愛」を、自分の手で手放さなければならない。それは簡単なことではない。けれど、呪いを解けるのは、まき自身だけなのだ。

今後の展開で、まきがどんな選択をし、どんな愛を選び取っていくのか。それを見届けたいと思わせる、苦くも優しいドラマである。

読売テレビ・日本テレビ系「子宮恋愛」毎週木曜深夜0:59放送

(北村有)

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