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【60代エンタメ】同世代を生きた女性劇作家に注目!いまだからこそ手に取ってほしいおすすめ作品とは?【好奇心の扉・後編】

  • 2025.5.15

60代の素敵世代におすすめなのが、女性劇作家の作品。心に響く作品が多く、その中で道標となる物語に出合うと心が励まされるはず。「そのひとつとして戯曲があります」と語るのは演劇と文学を研究する米谷郁子先生。特に、素敵世代にぴったりなのが同時代を生きてきた日本の女性劇作家たちの作品。それは「女性が胸に抱くさまざまな思いを、作品が丁寧にすくい取ってくれていると感じられるから」。最新の上演情報もお届けします!  

それぞれの世代に生まれてくる、それぞれにふさわしい物語。

歴史や社会を女性の視点から問い直す

「1980年代から現在まで、幅広い題材で女性の演劇を創作してきた劇作家として、永井愛さんをあげたいと思います。たとえば2019年に上演された『私たちは何も知らない』は、平塚らいてうをはじめとする『青鞜』編集部員である若い女性たちの奮闘と躍動の日々を描いた作品。"元始、女性は太陽であった"という青鞜発刊の辞をラップにのせて幕が開き、登場人物は現代の服装をしていました。100年以上前のできごとが、現代と地続きの物語として舞台にあらわれたのです。樋口一葉の作家としての自立を描いた『書く女』もおすすめ。『パートタイマー・秋子』など現代社会への批判が込められた喜劇もあり、戯曲も数多く出版されています」(米谷郁子先生※以下()内同)

さらに若い世代では、てがみ座の長田育恵さんも歴史上の女性に焦点をあてた作品を描いているひとり。2016年に初演、2020年に再演された人気作『燦々』は鬼才の絵師・葛飾北斎の三女お栄の、絵師としての人生が熱い思いとともに鮮烈に描かれています。 「長田さんの『蜜柑とユウウツ―茨木のり子異聞―』は、詩人の茨木のり子さんの作品をめぐる戯曲。"蜜柑の樹"が人物として登場するなど、不思議な味わいの作品です」 最近、米谷先生が注目した作品は、2025年1月に上演された渡辺えりさんの『鯨よ!私の手に乗れ』。 「渡辺さん自身のご家族のこれまでや介護をめぐって生まれた作品だと聞いています。それぞれの時代を生きた世代それぞれに必要な物語が、かならず創作されるものです。年前、女性劇作家たちの視線の先には世紀があったはず。その延長線に、いま作り出されている作品があります。そして、それは次の世代に受け継がれていくでしょう。女性劇作家たちの作品に共通しているのは、物語のラストに描かれる"彼方への眼差し"であるとも言われます。これからも、ここではないどこかを追い求める作品が生まれ続けていくのではないでしょうか」

●本文中では戯曲を入手しやすい作品を中心に取り上げました。

渡辺えりさん/劇作・演出・俳優とマルチな活躍は注目の的

わたなべ・えり/1955年山形生まれ。舞台芸術学院卒業後、1978年劇団2〇〇を旗揚げ(後に劇団3〇〇と改名)主宰・劇作家・演出家・俳優の4役をつとめる。1983年『ゲゲゲのげ』にて岸田國士戯曲賞受賞ほか受賞多数。劇団解散後は、演劇だけにとらわれず、ライブ企画など次世代の演劇空間の創造を目指す。
 
2025年6月11日〜22日唐十郎追悼公演『少女仮面』下北沢スズナリ作:唐十郎演出:渡辺えり出演:渡辺えり、大鶴佐助ほか、2025年12月20日、21日『70祭渡辺えりコンサート』東京芸術劇場プレイハウスゲスト:頭脳警察ほか。

『鯨よ!私の手に乗れ』(2025年)

とある介護施設に集う老女たちは、かつて、同じ劇団の団員だった。介護士の発案から、ある戯曲の稽古を始めることになるが、思いもよらない真実が浮かび上がってくる。

『ゲゲゲのげ/瞼の女』

ハヤカワ演劇文庫¥1,100 
いじめられっ子のマキオが鬼太郎と、学園に巣食う妖怪退治に挑むが、その正体は……。作家自身の体験をもとに描かれた、劇団3○○の代表作。文庫版には、マキオのモデルとなった渡辺さんの弟真紀夫さんのあとがきが。

長田育恵さん/人の心の機微を見つめ、命が輝く瞬間を描く

おさだ・いくえ/劇作家・脚本家・てがみ座主宰。2007年に日本劇作家協会戯曲セミナーに参加し、翌年より井上ひさし氏に師事。2016年『蜜柑とユウウツ-茨木のり子異聞-』にて第19回鶴屋南北戯曲賞、2024年NHK朝ドラ『らんまん』脚本にて芸術選奨文部科学大臣新人賞(放送部門)受賞ほか受賞多数。
 
2025年11月に数学者たちの葛藤を描く『存在証明(仮)』(シアタートラム、演出・眞鍋卓嗣)、同11〜12月にノーベル文学賞受賞作家ヘルマン・ヘッセの『シッダールタ』の舞台化(世田谷パブリックシアター、演出・白井晃)が控える。

『燦々』(2020年)

鬼才の絵師・葛飾北斎を父に持ち『夜桜美人図』『吉原格子先之図』を描き出した、お栄(画号は応為)の青春譚。ある日、北斎工房はシーボルトから100枚の肉筆画を西洋の画法で描くように注文を受ける。お栄は、自分の絵を摑むため、自らの光と闇を見出そうと挑んでいく……。

DVD『海越えの花たち』

てがみ座¥3,500
米谷先生おすすめのもうひとつの作品。敗戦時、朝鮮半島には百万を超える日本人が在住。日本に引揚げたときには、すでに日本に戸籍がなく、身元引受人もいない女たちに帰る場所はなかった。在韓日本人妻たちの収容施設をモチーフに、過酷な戦中戦後を生き抜こうとした女性たちの軌跡を描く物語。
 
*『燦々』『海越えの花たち』のDVDを、てがみ座公式サイトのオンラインショップにて発売中。
  

永井愛さん/身近な問題をすくい上げる社会派コメディの第一人者

ながい・あい/劇作家・演出家。二兎社主宰。桐 朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒。2000年『兄 帰る』にて第44回岸田國士戯曲賞。2025年『パート タイマー・秋子』『こんばんは、父さん』にて読売演 劇大賞優秀演出家賞受賞ほか受賞多数。身辺や 意識下に潜む問題をすくい上げ、 現実の生活に直結 したライブ感覚溢れる劇作を続けている。
2025年 11 月、チェーホフの知られざる小説をベースにした 新作『狩場の悲劇』を、紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて上演予定。作・演出:永井 愛 出演:溝端淳平、門脇麦、玉置玲央 ほか。

『私たちは何も知らない』(2019年)

女性の覚醒を目指した『青鞜』は創刊当初は世の中から歓迎される。が、彼女たちが家父長制的な家制度に反抗、男性 と対等の権利を主張するようになるとバッシングが激しくなる。

『書く女』

而立書房¥1,650
樋口一葉は⼩説の師匠である半井桃水に恋心を募らせるが、父亡きあと、戸主となったため断念。増すばかりの桃水への思いと欠落感を創作へのエネルギーへと昇華させていく……。一葉の日記をもとにその人生を描いた作品。

『パートタイマー・秋子』

而立書房¥1,870
一流企業に勤務していた夫が失職し、⼩さなスーパーでパートを始めたセレブ妻の秋子。そこで行われているさまざまな不正に驚き、ほかの従業員から疎まれるが、大手企業をリストラされた貫井との交流を深めていく。

取材協力/出雲まろう イラスト/大山奈歩 構成・文/杉村道子

※素敵なあの人2025年6月号「フェミニズムの視点が物語を豊かにする!素敵世代にとって女性劇作家が面白い理由」より
※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

お話を聞いたのは 米谷郁子先生

専門は英文学、およびその後世における校訂・受容・翻案研究。著書に、『愛の技法』『読むことのクィア』(以上、中央大学出版部、共著)、『今を生きるシェイクスピア―アダプテーションと文化理解からの入門』(研究社、編著)など。 「『女性劇作家』といった女性であることのみにアイデンティティを集約してしまう表現には抵抗感もあります。けれども同時に、ここ数十年の日本社会において、女性の劇作家たちが拓いてきた道がたしかにあるということも忘れてはいけません」

この記事を書いた人 素敵なあの人編集部

「年を重ねて似合うもの 60代からの大人の装い」をテーマに、ファッション情報のほか、美容、健康、旅行、グルメなど60代女性に役立つ情報をお届けします!

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