【黒柳徹子】田中宥久子さんの「造顔マッサージ」をもう20年ぐらい続けています

私が出会った美しい人

【第36回】美容家 田中宥久子さん

私が、もう20年ぐらい続けている美容法に、田中宥久子（ゆくこ）さんの「造顔マッサージ」があります。私は、そもそもエステみたいなところに行ったことはないのですが、田中さんと初めてお会いしたときに、田中さんの顎のラインがすごくキレイで驚いたの！ 横顔を見ると、顎から首筋にかけて全然弛みがなくて、口角がキリッと上がっていて。トレードマークの帽子と太いフレームのメガネがよく似合って、とにかく潑剌として見えたんです。「いくつになっても、こういう顎のラインでありたい！」と思った私が、「どうしてそんなにキレイなんですか？」と聞くと、「実は40歳のときに58歳に見られたことがショックで、“造顔マッサージ”というのを編み出したんです。試されますか？」なんておっしゃった。

聞けば、40歳までは仕事人間で、あまり自分の手入れをちゃんとしてこなかったそうです。でも、「人の全身は一枚皮なのだし、顔だけとか体だけではなく、全身でキレイにならなくては意味がない。大人の女性は、睡眠、食事なども含めて、きちんと自分自身を手入れすることが大事」と気付いてからは、それまでの経験を活かして、リンパをマッサージすることで、徹底的に老廃物を流す「造顔マッサージ」を考案したのでした。

最初に田中さんに顔の半分だけ施術してもらったときは、鏡を見て驚愕しました。だって、明らかに施術したほうとしないほうでは、顔立ちが違うんです。施術したほうは、目はぱっちり見開いて、見方によっては星なんか入っちゃう感じ（笑）。頰から顎にかけてのラインもすっきりして、「10年前の顔を取り戻す」という触れ込みは嘘じゃないと思いました。そこからは毎日朝晩2回、マッサージをしています。朝起きて顔を洗った後と、夜はお風呂から出て、鏡に向かったとき。どちらも3分です。でも、どうしても自己流になっちゃうから、最初の頃は最低でも週に1回はDVDを見直していました。田中さんがご存命のときは1ヵ月に1回ぐらい、ご本人に施術してもらって、変な癖がつかないように修正していただいていました。

「徹子の部屋」で久しぶりに出会った人に、「シワがないですね、どうして？」なんて聞かれることもあるんですが、だとしたらそれは全て、このマッサージのおかげだと思っています。2022年の秋に、私のYouTubeチャンネル「徹子の気まぐれTV」で、田中さんの造顔マッサージのやり方を若いADさんに指導したこともあります。ご興味がある方は、それを見てみてください。ちょっと気をつけなければならないのは、顔にのせた指をスムーズに動かすために、マッサージクリームをたっぷり使うこと。以前は、田中さんから直接クリームを買っていたのですが、田中さんがお亡くなりになってから、そのクリームも生産中止になってしまって、「どうしても作って欲しいんです！」と粘ったら、「樽で買ってくださるなら」ということで、12年ぐらい前に大きな入れ物に入ったクリームを80個まとめて購入しました。高いクリームじゃなくて、ソフトクリームをちょっと固くしたぐらいの、マッサージクリームを惜しみなく使ったほうがいいと思うので。ポイントは4つあって、1つ目が、老廃物を流すこと。2つ目が目の周りの脂肪をすっきりさせること。3つ目が頰のたるみを防止すること。4つ目がほうれい線を撃退すること……撃退っていう言葉もちょっと大袈裟ですけど、そのくらいの気持ちでやったほうがたぶん効きます（笑）。

私は美容が好きですが、あまり面倒なものはやりません。なぜ私が「造顔マッサージ」を20年も続けられたかというと、私がそもそも、「手の込んだものが好き」ってことがあると思うのです。あとは、少々のマッサージクリームと自分の指さえあれば、道具も電源もいらないって、手軽ですよね。なのに効果がある。

私は、ファッションでも美術品でも工芸品でもなんでも、人の手が作り出す美しいものが好き。田中さんは、ヘアメイクやマッサージを担当する人の体を、心を込めてお手入れしていましたし、田中さんのお顔は田中さんの作品でもあったはずです。「私は顔本来の美しさを取り戻したいのです。だって、醜い人なんていないんですから」という、その考え方にも共感しました。

美容家

田中宥久子さん

1946年福岡県生まれ。大正時代より美粧院を営んでいた祖母に美粧の基礎を仕込まれて育つ。ヘアメイクをはじめ、あらゆる美のクリエイターとして、映画やTV、CM等で活躍。2003年、化粧ブランド「SUQQU」を立ち上げ、独自理論による商品を開発。07年、「Y・METHOD」を立ち上げる。メディアや講演会にも多数出演。長年の経験と美容理論から考案した「造顔マッサージ」はその効果から絶大な反響を呼んだ。2013年逝去。享年67。

─ 今月の審美言 ─

田中さんのお顔は田中さんの作品でもあったはずです。

取材・文／菊地陽子 写真提供／Getty Images