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海鮮でも朝市でもないのに函館に来た観光客が必ず訪れる…「マックをはるかに越えたハンバーガー店」のすごさ

  • 2025.5.9

中小企業が勝つためには何が必要か。ブランドマネージャーの西口一希さんは「函館にくる観光客が必ず立ち寄るというハンバーガー店『ラッキーピエロ』の創業ストーリーには、中小企業のブランディングに必要な要素が凝縮されている」という――。

※本稿は、西口一希『ブランディングの誤解』(日経BP)の一部を再編集したものです。

函館の「ハンバーガー店」

北海道の函館に訪れると、観光客が必ず立ち寄るといわれる「函館ラッキーピエロ」というハンバーガー店があります。筆者も、この本の執筆中の24年9月に函館観光に行った際に訪れました。それまでは同店について、全く知りませんでした。

検索サービスで「函館観光」「函館グルメ」といったキーワードで検索すると、検索結果に海鮮系の飲食店や朝市と並んで、このハンバーガー店と、そのメニューである「チャイニーズチキンバーガー」が必ず表示されました。

函館と無関係に思える「ハンバーガー」「チャイニーズチキン」に、疑問を抱くばかりでしたが、まさしくこの時点で、筆者の中では函館という言葉に連想した強いブランディングが形成されようとしていました。ちなみに、驚くことに、函館市内にラッキーピエロは17店舗ありますが、マクドナルドはわずか4店舗のみです。

北海道の函館で17店舗を展開するハンバーガー店「函館ラッキーピエロ」は、県外、地元と幅広い顧客に愛されている。
北海道の函館で17店舗を展開するハンバーガー店「函館ラッキーピエロ」は、県外、地元と幅広い顧客に愛されている。出典=『ブランディングの誤解』(日経BP)
強く記憶に残ったワケ

観光の前半こそ海鮮三昧でしたが、徐々に食傷気味になり、このハンバーガー店を訪れることになりました。

筆者が伺った店舗は、観光名所から少し離れた街中にある十字街銀座店という店舗でした。この店舗、派手な看板と装飾で100メートル先からでも分かります。

店内に入れば、なぜかサンタクロースとクリスマス関連のグッズや装飾品であふれかえっており、さながらクリスマスのイベント会場のようです。この予想外の装飾に、さらに心をつかまれました。店内には、たくさんの観光客が並んでおり、同時に多くの地元の方がテイクアウトの注文に並んでいました。

メニューを見ると、ハンバーガーだけではなくカレーや定食など多数のメニューがあることにも驚かされました。このときは折角なので、素直に看板メニューと紹介されていた、チャイニーズチキンバーガーを注文しました。

店内は、懐かしい食堂のキッチンのようです。注文後につくるため、時間がかかると事前に言われていましたが、実際に15分以上たってからハンバーガーが提供されました。15分も待ったハンバーガーは筆者の経験では日本で初めてです。

西口一希『ブランディングの誤解』(日経BP)
西口一希『ブランディングの誤解』(日経BP)

食べてみると、他では味わったことのない中華風のボリューミーなハンバーガーで確かにおいしい。個性が強いため、毎日食べたいとは思いませんが、観光という特別なイベントでの食事としては、楽しく、おいしく、そして強く記憶に残りました。

3日間の函館旅行の間に多くの観光名所、海鮮を楽しみましたが、結局、最も記憶に残ったのはラッキーピエロでの体験でした。函館に期待していた観光や海鮮は、ある意味想定通りで、ラッキーピエロだけが、予想外だったため、強く記憶に残ったのです。

あまりにも気になり、帰路、ラッキーピエロの歴史なども調べてみると、実は、まさに、本記事で伝えたい中小企業のブランディングの本質が徹底されていることが分かったのです。

特長が出しやすいハンバーガー

中小企業のブランディングとして伝えたい要素が、ラッキーピエロのWebサイトにある会長インタビューに凝縮されていたため、その一部を抜粋の上、重要だと思う部分に傍線を入れました。また、せんえつながら、その意味を解説させていただきます。


ラッキーピエログループインタビュー 王一郎会長 インタビュー抜粋(原文ママ)

――オープンまでの経緯を聞かせて下さい

最初はホットドックがいいんじゃないかって思っていたんです。そしたらホットドックは細長いから特長が出しづらかったんです。知り合いの人にハンバーガーはどうかと言われて。ハンバーガーは日本で言うラーメン屋みたいなものだから、私がアメリカに行ったらハンバーガーを食べるために本場では美味しくて並んでいる。それが引き金になりましたね。

日本人向けのハンバーガーショップを作ればいい、そしたら幾らでも特徴を出しやすい。それでハンバーガーに挑戦したんです。我々のハンバーガーはどうあるべきかと、世界中食べ歩きをしました。

――中華的なのが特徴的ですね。

以前千葉のほうで中華料理のお店をやっていたことがありました。私が中華料理の経験があるということで、中華の美味しさを取り入れたメニューを商品にしょうと思いました。私どもの一番の商品はチャイニーズチキンバーガー。中華の技法を取り入れた中華味なんです。

ここから学べるのは「便益と独自性の追求」と、継続性を重視した顧客の頻度が高い習慣に軸を置いた商品選びです。

ホットドッグ
※写真はイメージです
ライダーさん達のクチコミ


――話題になったのはいつ頃だったんですか?

一番最初に火が付いたのは、ライダーさん達の間でクチコミで広がって集まるようになってくれたんです。彼らはノートなんかに書くんですね。私たちにはわかりませんでしたから、どうしてこんなにライダーさん達がたくさんいるの? って(笑)。

夏になったら何台も停めて道路をふさいでしまう位でしたから。それからマスコミさんに取り上げていただいて、観光客や地元の人にも来ていただけるようになりました。函館っ子や卒業した学生さん達が、札幌や東京に行くと故郷の味ということで自慢してくれるのが嬉しいですね。

このライダーが最初に価値を見いだした顧客(WHO)です。その価値を起点として、マスコミでの紹介やライダー間での口コミといった、潜在顧客へと広がる手段(HOW)を自然と獲得できています。

地方でオンリーワン


――ラッキーピエロという名前の由来は?

私が小さい頃、テントのサーカス団が来ていたんです。毎日テントの隙間を見つけてはそこから人って観に行った記憶があります。サーカスが大好きだったので、ワクワクドキドキするサーカスのようなお店を作りたいと考えていました。

それでサーカスの中で主役ではないけれど大事なキャラクターであるピエロとつけたんですけど、ピエロってなんだか物悲しいイメージもあるので、ラッキーって付け足したんです。幸運ピエロならいいんじゃないかなって。

――函館で始められたのには理由があったのですか?

もう住み着いて38年位になりますから、函館っ子と同じだと思うんです。例えば、東京で何番目というより、地方でオンリーワンになることが面白いと思うんですね。そういう意味でも地方で根差していきたいですね。

自身の経験に基づく、印象的な店舗のネーミング、そのネーミングを体現した店舗設計、そして函館という地を付加したといったブランディングと独自性が自然と生まれています。

五稜郭公園
※写真はイメージです
地元に対するこだわり


――地元に対するこだわりはありますか?

観光客に人気があるだけのお店は成立しません。我々が観光で行くのは地元で本当に美味しくて楽しいから。だから地元の人に拍手喝采してもらえないと、観光客はいらっしゃらないと思うんです。

例えば、イカ踊りバーガーは、函館はイカの街ですから観光客の方がイカを食べたいということで作ったメニューです。せっかく食べに来てくださるんだから、冷凍ではなくて朝取れたイカを使っていたりとこだわっています。利益は無いですけど、でもお客様が食べたいんですから。

――店舗ごとに全て差別化されていますが、フランチャイズとしては捉えていない?

そうですね。一店舗一店舗のお店が個性的で、地域のお客様にとても愛されています。例えば、ソフトドリンクの値段にしても学生の多い本町店や松陰店の120円、観光コースのお店はM150円、地域によってこれぐらい変えています。

学生街は学生さんにサービスしてあげよう、観光コースは全国から来ていただいて感謝感激150円でいいよねって。そのお店が地域にいかに密着しているか、自分のターゲットのお客様にマッチしているかどうかなんです。お客様の目的に合わせてそれぞれの個性の店を使ってくださればいいですね。

一過性の売り上げ(観光客)と継続的な売り上げ(地元の客)を連動させることで、顧客の分母を増やしながら、継続利用による利益の創出ができています。

また、複数の顧客層(WHO)への異なる便益と独自性(WHAT)をそれぞれの顧客を起点につくることで、顧客の幅の拡大に成功しています。

西口 一希(にしぐち・かずき)
Strategy Partners代表取締役
1990年大阪大学経済学部卒業後、P&Gに入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターとして「パンパース」「パンテーン」「プリングルズ」「ヴィダルサスーン」などのブランド担当。2006年ロート製薬に入社。執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「デ・オウ」「ロート目薬」などの60以上のブランドを担当。2015年ロクシタンジャポン代表取締役。2016年にロクシタングループ過去最高利益達成に貢献し、アジア人初のグローバルエグゼクティブコミッティメンバーに選出、その後ロクシタン社外取締役戦略顧問。2017年にスマートニュースへ日本および米国のマーケティング担当執行役員として参画。2019年株式会社Strategy Partnersの代表取締役として事業戦略・マーケティング戦略のコンサルタント業務および投資活動に従事。戦略調査を軸とするM-Force株式会社を共同創業。著書に『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)、『マンガでわかる 新しいマーケティング』(池田書店)、『企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営』(日経BP)などがある。

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