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【研ナオコさんインタビュー】「歌も演技も、一度も満足したことはありません」

  • 2025.5.8

艶っぽい歌声でステージを支配する歌い手、笑いへの探求心を思わせる凄腕タレント、すっぴんからのメイク動画で大バズリしたYouTuber……。さまざまな顔で私たちを楽しませてくれる研ナオコさんが挑んだ映画『うぉっしゅ』が公開されます。演じるのは、ソープ嬢の孫と介護を通じて交流する認知症の女性。今年デビュー55周年を迎える研ナオコさんに聞きました。

体が動かなくなるまで、しゃべれなくなるまで仕事をしたい

ソープ嬢として働く加那(中尾有伽)は、1週間だけ入院する母に代わって祖母の紀江(研ナオコ)を介護することに。夜はソープ嬢として客の体を洗い、昼は介護で紀江のオムツを替える……。奇妙なWワークに奮闘する加那。やがて自分の名前も忘れてしまった紀江とのやりとりが、加那の心を揺り動かす――。映画『うぉっしゅ』で認知症の紀江役をオファーされた研さんは、「妥協するなら出ません!」という凛々しい言葉とともに出演を決めました。
 
「映画の内容がおもしろいし、まだ30代の岡﨑育之介監督にも可能性を感じて、これはお手伝いしたいなと。ただ、この仕事を長くやっている私に若い監督が遠慮して、芝居に納得できていないのに先へ進められてしまうのは嫌で。それで現場でも監督に、‟ここは遠慮しちゃいけない”と言ったりしました。自分が思ったことはちゃんと言う。これまでもそうして自分なりの道を歩いてきましたから。誰でも後悔するのは嫌ですしね 」
 
研さんが演じた認知症の紀江。俳優を専業とした人でも、一筋縄ではいかない役に思えます。
 
「私自身は介護されるのも初めての経験でしたが、演じる上でハードルを感じることはありませんでした。映画を観た方が良い演技だ思ってくださったとしても、それは監督の演出です(笑)。紀江さんは認知症でもあって、いろいろなことを忘れてしまう。監督には‟常にクリアでいてください”と言われ、それを意識していました。女優ではないので、どう見せよう? なんてことは考えなくて。すべて監督におまかせでした」
 
紀江はいつでもまっさら。子どものように純な笑顔を見せますが、時折「仕事は生きる糧!」などと、かつての人柄を彷彿させる言葉を口にします。
 
「生きがいにしてきた仕事を辞めた瞬間に、生きる道がなくなる。自分のなかの何かが死ぬのだろうと思います。そこから新たに何かを見つけられる人って少ないのかも。私自身にとって仕事は人生の真ん中にあります。体が動かなくなるまで、しゃべれなくなるまでやりたい。だって一度も満足したことがないし、歌も演技も、もっともっと上手くなるはず! そう思っていますから」
 
御年71歳、芸歴55年の研さんが言うと、その言葉の凄みは更に増します。最近ではYouTubeに公式チャンネルも開設。すっぴんから妖艶な姿へと変身する、衝撃のメイク動画は639万回再生(2025年4月現在)を記録しました。
 
「とにかく頑張っておかないと、次にまた声を掛けてはもらえません。テレビに出るなら、何か爪痕を残さなきゃいけない。出てきただけでインパクトがあるよ、と言われたけど! じゃあいいか! と思いますけど(笑)」

69歳でスキューバダイビングの免許取得

実は研さん自身、幼少期は祖母を介護した経験があるそう。
 
「おばあちゃんは寝たきりでした。小学校から山の上の家に帰り、ランドセルを置いて病院へ行き、お薬をもらってまた山の上に帰って。おばあちゃんの床ずれに薬を塗り、おしめを替えて、浴衣を着替えさせて……。認知症ではありませんでしたが、最期も私が看取りました。もんのすごく悲しかった」
 
紀江を演じながら、そんなことを思い出したという研さん。そうして、できあがったのは、介護をテーマにしながらカラフルでポップな人間ドラマでした。
 
「皆で映画作りに取り組み、ひとつの作品ができた。それを観たときに、『お~こういう風になったんだ!』と嬉しくなりました。それは歌では味わえないことで……。重いテーマだけどテンポがよくて楽しい、全体的に明るい印象だけれど、終わった後はずしん!と重いものが心に残る。そこがいいなと思いました」
 
映画のなかでは、子どもに返ったような紀江を演じた研さん。でも、実際の研さんは、介護の世界からはほど遠く、イキイキと今を生きているよう。なんと、スキューバダイビングの免許を取ったのは69歳のときだったそう。
 
「ずっと素潜りをしていて、ボンベを背負うなんてとんでもない!と思っていたんです。でも、素潜りではやっぱり限界があるんですよね。それで免許を取ることにして。今はさらにもう一段階上の、より深い所まで潜れる免許取得を目指しているんですけれど、なかなか海に行けなくて。海の中って楽しいですよ~。サンゴがあって、お魚がいっぱい泳いでいて……。いやーキレイ! 免許が取れたら? そうね……。海の中って、結構ゴミがあるんですよね。せっかく潜るのだから、それをキレイにしたい。そうしたらお魚がもっと増えるし、サンゴも元気になって酸素をいっぱい出してくれるだろうしね」
 
なんてパワフル! どうしたら研さんのようになれるのでしょう……?と聞こうとすると、「私、過去を振り返らないんですよね」ときっぱり。

道は間単に見つからないからいい

強い吸引力を持つ歌声、一瞬で世界観を構築する歌唱力。歌い手としての研さんについても伺いました。
 
「歌と演技にはどこか共通点があります。俳優の場合、脚本を読んだときにセリフが体に入ってこなかったらその役は演じられません。歌も同様に、歌詞が入ってこなかったら歌えない。他の人には合っても、私には合わないということもあると思うんです。音程を外さない人はたくさんいると思います。良い声が出るとか、高い声や低い声が出る人も。でもそれが『歌が上手い』ことかというと、そうではない気がするのです。聴いてくださる人の心になかなか留まってくれない。歌詞がテロップとして流れないと歌詞を理解していただけないのでは、それはただの音楽で、歌とは言えないと思うんです。歌い手さん、シンガーっていうのは音楽に載せて言葉を届けるのが仕事なんです」
 
研さんはどのようにしてシンガーとしての腕を磨いてきたのでしょうか。
 
「たくさん歌えば上手くなる、ということでもないと思うんです。どうすれば良くなるのか? それがわかればね……。でもそれも良し悪し。近道が見つかれば手っ取り早くそこにたどり着けるかもしれないけど、簡単に見つからないから良いんじゃないですか。近道がいいという人もいるでしょうけど、私はコツコツやっていくのが好きですね」
 
歌詞を消化し、表現してそれを聴き直し、また録り直す……。その繰り返しだと研さん。歌い手としての道をコツコツと、ひたすらに歩んでいます。
 
「歌い手としてのピークがいつくるか、何回来るかなんて誰にもわからない。死ぬまでそんな風にやり続けるのだと思います。そして死ぬ瞬間にこうやって(下あごを出して)、志村(けん)さんのようにしゃくれて死のうかなと思って。人生の最期に笑いを取る? そう、え~ん! と悲しまれるより、喜んでもらえたらいい。そんなことを思っています」

PROFILE
研ナオコ(けん・なおこ)
1953年生まれ、静岡県伊豆市出身。1971年、歌手デビュー。日本レコード大賞金賞を受賞した「かもめはかもめ」をはじめ多くのヒット曲を世に送り出す。1975年から10年間、『カックラキン大放送‼』にレギュラー出演する等、テレビタレントとしても活躍。2020年にYouTubeチャンネル「研ナオコNaoko Ken」を開設した。俳優として『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(NHK総合)等に出演。2025年はデビュー55周年。記念アルバム『今からあなたと…Starting today, with you』を発売。2025年9月まで、梅沢富美男劇団特別公演『梅沢富美男&研ナオコ アッ!とおどろく夢芝居』 に出演中。

映画『うぉっしゅ』

●監督・脚本:岡﨑育之介
●出演:中尾有伽、研ナオコ ほか
●配給:NAKACHIKA PICTURES)
●公開日:5月2日(金)新宿ピカデリー/シネスイッチ銀座 他全国公開

©役式

撮影/本多晃子 ヘアメイク/堀ちほ 取材・文/浅見祥子

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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