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海外在住の食通も憧れる三ツ星レストラン「HAJIME」。大阪が世界へ誇る弩級の哲学とは

  • 2025.4.22

国内外の食通が飛行機に乗ってでも、三ツ星レストラン『HAJIME』を体験したいと切望する。食事が叶えば、涙を流す人が後を絶たないという。

そこまで人の琴線に触れる食体験を形づくるまでオーナーシェフの米田 肇氏が費やした時間は計り知れない。彼が辿り着いた哲学とは。

生命の息吹を感じる料理を大切な人とシェアする感動を
肥後橋『HAJIME』の「地球」
東京カレンダー


大都会のレストランにして、感じるのは自然の強烈な生命力。『HAJIME』の「地球」は、言語化すれば何冊にも及ぶ地球の循環をひと皿で表すような傑作だ。

きっかけは東日本大震災と米田氏は言う。

「もっとメッセージ性の大きなものを作らなければと思う出来事でした。私たち人間は地球を少しだけシェアさせてもらっているので、それを形にしたいと。

地球にはたくさんの生命が住んでいて、山で雨が降り、沢になって川に繋がり、海に流れ着く過程があります。その中で人間は勝手にいろんな物を作って住んでいるけれど、実は住みやすかった場所を住みにくくしているんじゃないか。

美しい地球を再度見つめ直すきっかけを作りたい、料理で地球の循環を表現したいと思って生まれたお皿です」

肥後橋『HAJIME』の「地球」の食材
東京カレンダー


大地や海を表す60cmの有田焼にのるのは、100種もの野菜。

2名分がきっちり同じ形をするが、食材はすべて0.1mm、0.1gにまでこだわって測量している。

「うちは1コースで400種類の食材を使っていて、もし0.1gでも変われば全体で40g違うことになります。そういう面でもコントロールしたいのと、あとは微調整をしやすくするためです。

グラム数を決めておけば、昨日と今日の差が分かりやすい。なぜ違うのかを分析してデータ化することもできます。食材によって個体差があったり私たちの感覚が変わったりする中でも、味のピントを合わせやすくなります。

人間の健康状態の把握に似ていますが、食材は声を出してはくれないので、こちらから声を聞くことが大切です」

他分野と食とのリンクが、社会をもっと豊かにしていく
肥後橋『HAJIME』の米田 肇シェフ
特注の有田焼に、100種の食材が2名分、繊細に盛り付けられる「地球」。野菜の上は昆布の泡で中央は貝の泡。自然への敬意や地球の循環が表されている。食材は、定規を用いて、0.1mm、0.1g単位で緻密にカットされる。生産地は関西が中心で、春夏秋冬によって内容は変わっていく。食材ごとに調理が施され、多大な手間がかけられているのだ


特注の有田焼に、100種の食材が2名分、繊細に盛り付けられる「地球」。

野菜の上は昆布の泡で中央は貝の泡。自然への敬意や地球の循環が表されている。食材は、定規を用いて、0.1mm、0.1g単位で緻密にカットされる。生産地は関西が中心で、春夏秋冬によって内容は変わっていく。食材ごとに調理が施され、多大な手間がかけられているのだ。

三ツ星レストラン『HAJIME』のシェフの仕事と並行して、米田氏は18もの仕事を進めている。

ソニーAI、JAXA、G1サミット等関わる団体は多岐にわたる。それらは米田氏が提唱してきた“6 ガストロノミネス”の具現化でもある。

6とは、食とひもづけて表すレストラン、ソーシャル、インスタレーション、メディカル、スペース、シンギュラリティ(AIの進化で起こる生活の変化)。

「他の分野も食とリンクさせたら可能性がより広がる」との確信は、ミラノデザインウィークでベスト・エンタテイニング賞を受賞した時に得た。

「これまであったインスタレーション・アートをインスタレーション・ガストロノミーとして、空間芸術の最後にひと口食事をする作品を作りました。

すると来場者が想像以上に多くて、ある日食材が不足してしまい、空間だけでも観てもらおうと開場したところ、たくさんの方が“それなら出直します”と言ってくださったんです。

その瞬間、実は他の多くの分野で食が欠けている部分があるんじゃないか、食をくっつけるともっと社会が豊かになるのでは、と思いました。

食はもともと思いやりをベースに作られるもの。昔、この社会ができたのも思いやりが原点のはず。

いまは、実は単なる道具だったはずの経済にのせられ、みんなお金のことばかり考えています。目的と手段を間違えているから分断や格差が起こっています。

ならば一回テーブルに座らせて、思いやりをもってシェアする行為に戻ることが必要」

米田氏は、他分野でも食がハブになると信じている。

心に残る美味しさを生み出すため、黄金比を追求し続ける


今年、『HAJIME』は開業17年を迎えた。昨年は過去最高収益を上げ、各国からの賞賛を集めた。好調な売上も調理の背景も含め、『HAJIME』を知るに数字は不可欠。

ただ、根底には数値化できないシェフのスピリットがある。

「料理って儚い行為ですよね。どんなに美味しく食べても、最後はなくなる。

でも、人って人生最後の日に走馬灯のように思い出が蘇るって言うじゃないですか。ということは思い出が何よりも大切で、料理を食べた後も思い出を残すことができるはず。

だから心に残るものが一番美味しいという気持ちで、ずっと料理を作っています」

肥後橋『HAJIME』の「磯」
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コースは「森」「磯」「近海」「地球」「海」「破壊と同化」「希望(生命と大地の芽吹き)」「春待つ」「愛」と9品が続く。

こちらは、アフリカで誕生し南下して魚介を食べたと言われる古代人に着想を得て作った「磯」。中央に牡蠣を置き、白子やウニ、キャビア等8種の魚介を使用。

肥後橋『HAJIME』の「春待つ」
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雪の中から蕗のとうが芽吹くイメージで作った「春待つ」。

肥後橋『HAJIME』の「破壊と同化」
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フォアグラと栗、トリュフを使った「破壊と同化」。

フォアグラは人間のエゴを知る存在として、そのときに春の自然のものと合わせて使う。コース¥95,450。



では、“心に残す”ため米田氏が大切にしていることは何なのか。

「本当のバランス、美しさのバランス。人が夕焼けを見て感動するのに近いかなと。

宇宙の絶対的なバランスはあって、原子でもちょっと崩れると爆発を起こしてしまう。この世の中がギリギリのバランスで作られているとしたら、黄金比に触れた瞬間に感動するのだと思います。

そこを再現したいですし、だからこそ食べてくれる人がいてはじめて、自分の料理が完成します」

■店舗概要
店名:HAJIME
住所:大阪市西区江戸堀1-9-11 アイプラス江戸堀 1F
TEL:06-6447-6688
営業時間:17:00~(L.O.22:30)※完全予約制
定休日:不定休
席数:テーブル14席

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