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アートな一皿で自然との共生を問う──ミシュラン三つ星「レフェルヴェソンス」の生江史伸シェフ【リジェネラティブな暮らしのアート vol.4】

  • 2025.4.16
大地、種、食材、生産者、料理人、そして食べる人を結びつけるシンボリックなひと皿。Photo: Nathalie Cantacuzino

ミシュラン三つ星に輝く名店は、ただ美味しいだけではない。食材がもつ生命力や自然との共生、そして人の感性を呼び覚ます仕掛けが施されている。「食、とりわけ外食には、メッセージを読み解く力が必要な場面もありますが、同時に日常から解放され、自由な心で楽しめるという点は、ほかのアートと通じる部分かもしれません」と、生江は語る。

食と自然、そして私たちの生き方への問い

同店の料理を支える横須賀の農場「SHO farm」にて。「千年続く農業」を哲学として不耕起再生型農業を実践する。 Photo: Yikin HYO

「食べるという行為は、単なる味覚の刺激ではなく、あらゆる感覚や経験を総動員する“参加型”の体験です」。料理音楽や絵画と同じように喜怒哀楽を表現し、私たちに問いかけるものなのだという。「『いただきます』という言葉が命への哀悼と敬意を示すように、食には本来、深い意味があるはずです。しかし、現代は表層的な快楽として消費される傾向が強まっています。一食ごとに深く考える必要はありませんが、食を通じてあらゆる縁がつながる世界が訪れることを願っています。そのためにも、見えないものへの想像力を養うことが大切だと感じています」。食材の生産背景や料理に込められた思いといった、ひと皿ひと皿に宿るストーリーを“読み解く”ことこそ、新たな気づきや感動をもたらすのだ。

ミシュランのグリーンスターやAsia’s 50 Best Restaurantsのサステナブル・レストラン・アワードに輝いた同店は、レストランとしてはまだ珍しいインパクトレポートを2022年から発表している。「人や社会に対して誠実であるためには、透明性が不可欠です。レストランの内情は決して完璧ではなく、課題も多い。だからこそ、成功だけでなく改善すべき点も含めて開示し、お客様や生産者とともに次の目標を目指していきたいと思っています」。サステナビリティが求められる一方で、業界ではその取り組みがイメージにとどまりがちな現状もある。だからこそ、生江は「見せる」よりも「問い続ける」ことを選ぶのだ。

生江史伸(なまえ・しのぶ)「レフェルヴェソンス」のエグゼクティブシェフ。Photo: Nathalie Cantacuzino

さらに、生江はフリーダイバーや海藻研究者、漁師とともに、子どもたちが海の豊かさと循環を学び、食と自然の深い関係を体感できる場づくりにも積極的に取り組む。「社会的な課題に立ち向かうとき、喜びや生理的・感情的な報酬は大きな原動力になります。食の美しさや楽しさ、そして自然とのつながりや尊さを体験することで、未来をともに創るための共鳴が生まれるのではないでしょうか」。この積み重ねこそが、未来へとつながるリジェネラティブな変化を生み出すに違いない。

Text: Mina Oba Editors: Yaka Matsumoto, Sakura Karugane

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