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古民家を再生し、アートな居住空間へ──京丹後の「間人レジデンス」【リジェネラティブな暮らしのアート vol.3】

  • 2025.4.15
リビングでもある通称「土の部屋」。壁は同じ赤土を使っていても、光の入り方によって色彩が変わり、さまざまな表情を見せる。Photo: Kim Ilda

地元で採取した赤土で作った土壁による内装が特徴的な「間人レジデンス」は、日本海沿いの小さな集落・京丹後市間人に位置する、古民家を再生したアート居住空間だ。食・アート・工芸・建築を通して人が集う場や学びの場を生む集落構想プロジェクト「あしたの畑」の運営母体であるNPO法人のTOMORROWと、現代美術作家でありCOSMIC WONDER主宰の AAWAA が共同で制作している。

AAWAAが監修した、赤土の土壁で囲まれた通称「土の部屋」は、年に数回開催される特別展の会期中はアート作品の展示空間となるが、リビングとしての役割も持つ。作品が置かれた赤土で作られた什器は、時には人が集う食卓となる。

再生可能な建築

「土の部屋」に展示されたAAWAAの作品。赤土に埋めた丹後の絹布を和紙にして、藤糸を躯体に巻きつけ手織りした丹色の反物。Photo: Kim Ilda

2025年8月に開催される特別展では、新たに寝室となる「紙の部屋」が公開される。京丹後で自身が育てた楮などから昔ながらの製法で紙をつくる紙漉き工房「いとをかし」が制作した和紙が、壁や天井を覆い尽くす。展示期間外は、アーティストインレジデンスや会員制の宿泊施設として運用する予定だ。

特筆すべきは、スタッフやインターンらが自ら建物を解体し、改修工事を行っている点だ。「リジェネラティブ・アーキテクチャーという、再生可能な建築という概念があります。たとえばコンクリートは一度壊れると元には戻りませんが、土壁は表面を剥がして作り直すことができます。間人レジデンスはできる限り地元の土や紙や木を用いて、再生可能な建築として自分たちの手で作り上げています」と、あしたの畑のプロジェクトマネージャーを務める橋詰隼弥は語る。

その根幹には、人口の減少や過疎化が進むこの集落で、プロジェクトを通して人が集まるきっかけを作り、若い世代を育成したいという思いがある。インターンとともに建築物を作っていくことで、現場での学びや経験を共有する。

間人で採取した赤土で作った床。Photo: Kim Ilda

地元の素材を使い、しつらいや構造物を作る取り組みを通じて生まれたノウハウを地域に継承し、別の現場に生かすことで、新たな産業や雇用の創出を目指す。近畿圏の工芸作家とともに作品を作り、美術作品としての新たな付加価値を見出す。実験的ともいえるこうした取り組みが、集落が存続していくためのサステナブルな循環を生み出すことにつながっていく。集落に根付きながら、実際に自分たちの手を動かすことでものづくりをして、人が集う場をつくり、その知財を次世代に継承し、持続可能な社会を目指す営みこそが、あしたの畑の「集落構想」なのだ。

現在も一部は工事中で、2025年夏に全部屋の完成を目指す。まずはスタッフが住み、使い勝手を実際に確かめ、手直ししながら居住空間を作り上げていく。「建築は作って終わりではない。維持していくことが大切なんです」と橋詰は言う。リジェネラティブなものづくりの旅は、続いていく。

Text: Sayaka Sameshima Editors: Yaka Matsumoto, Sakura Karugane

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