世界に衝撃を与えた、トランプ米大統領による全世界に向けた追加関税のニュース。“あの日”以降、株価は乱高下を繰り返し、市場は大混乱。そして、世界中がトランプ大統領から発せられる言葉に、ビクビクするような毎日…。日本への影響、ある?なし?私たちの生活はどうなってしまうのでしょうか。
「トランプ関税」とも呼ばれている、今回アメリカから発せられた追加関税は、アメリカの現地時間4月2日(日本時間4月3日)に発表されました。
その内容は、世界中のどの国対しても、その国からの輸入品に10%の追加関税をかけるというもの。ほかにも、国別に追加の関税かけること(4月9日発動)、自動車・自動車部品、鉄鋼・アルミに対しては、追加関税とは別の枠組みとして25%を現状の税率に上乗せする形で関税をかけることも発表しました。
アメリカが関税率を上げた理由は?
まず一般的に、関税をかける理由は、2つあります。ひとつは自国の産業を守るため、もうひとつは、税収として国の収入を増やすためです。
その点から言うと、本来ならアメリカ国内にとっては歓迎されることであるはずが、そうなっていない理由は次の2つにあります。
ひとつ目に、税金を負担することになるアメリカの企業の経営が厳しくなることが予想されるからです。ものを輸入するアメリカの企業の税負担が増えることになるので、今までと同じように利益を出そうと思えば、その分、アメリカ国内で売る商品に価格転換することが予想されます。アメリカ国内の消費者も、これまでより高額になり、そうでなくても物価高に悩まされているアメリカ国内の人たちには、今より生活が苦しくなることに猛反発しているのです。
ふたつ目は、1つ目の理由の構造として、今や何かものを作るにも、自国内で完結できることの方が少なく、アメリカ国内でモノを製造しようと思っても、世界中からさまざまな部品を輸入しており、そのコストが上がることで、商品の値段を上げざるを得ないということにつながるからです。
そもそも関税はどうあるべき?
本来関税は、自国の産業を守るために、他国から安くて良い商品が「こないよう」するためのものです。ただ、自国の国民にとっては、良いものが安く手に入れることは悪いことではありません。お互いに、経済的に支障がない範囲で関税率を設定し、国際的なルールのもと、モノや経済が循環し、自由な経済活動が可能となる「自由貿易体制」は、それぞれの国の豊かさにつながるものと考えられてきました。
特に、アメリカのような大国は、発展途上にある国々には低い税率を設定し、その国の経済発展を後押ししてきたという経緯もあります。日本も、第二次世界大戦の敗戦後、軍事力はアメリカの傘の中に収まることも含め、低い関税により経済的に豊かになることができたという事実もあります。
今回、トランプ大統領がこのような判断をした理由は、他国からの安くて良い商品が低い税率によってアメリカ国内に流通することで、自国の産業が衰退することに怒り、「不公平だ」と考えているからのようです。自分の国のことだけを考える「保護主義」という発想からきたものだとわかりますね。
関税発動からわずかで90日間停止…なぜ?
しかしながら、アメリカを代表するような商品であっても、自国内ですべて製造できるわけではなく、さまざまな国から部品を輸入しています。自動車やスマホはわかりやすい例ですが、この先の生活への不安、国への信頼の低下などが、株価や為替に表れているということです。
結局、発動からわずか半日で、報復関税を課した国(中国など)を除き、追加分の発動は90日間停止、スマホ関連の半導体などの重要部品についても、追加分を適用せず、新たな枠組みを検討すると発言するなど混迷を極めています。アメリカは半導体の多くを中国から輸入しており、現在アメリカは中国に145%、応酬した中国はアメリカに125%の税率を課して、その結果、アメリカ国内での価格上昇が見込まれ、テック関連の企業が反発したことが理由とされています。
日本の企業にとっても、高い税率により、アメリカの企業から値下げ要求がきたり、購入そのものが減ったり、業績に影響が出る恐れがあります。関連する企業で働く人にとっては、大問題。そしてアメリカに輸出できなくなった分、日本でモノが余っていく可能性も。そうなると売れるために価格を下げるようなことになれば、さらに企業の利益は小さくなる恐れもあります。
日本国内が物価高で苦しいことも事実ですが、モノの値段が上がることで企業の利益が大きくなり、そこで働く人の給与も上げられることを見込んでいるとすれば、それに逆行することにもなりかねないということでもあります。
これから、日本も、追加関税の撤廃を目標にアメリカと交渉をすることになります。日々、新たな方針を出すトランプ大統領の発言には目が離せませんが、日本政府の毅然とした交渉を期待したいですね。
※この記事は2025年4月14日現在の情報をもとに記載しています。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生
聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
(細川珠生)