UK、オーストラリア、アメリカ、それぞれの街から届いたのは、ジャンルの枠に収まらない、今聴くべき3枚の新作アルバム。ポストパンクを起点にサイケとユニゾンが交差する異色のロック、メロウでレトロなムードを再構築するZ世代ポップ、そして私生活をそのまま封じ込めたようなソフトでビターなシンセサウンド。いまこそ聴きたい、新世代の3つアルバムをご紹介。
各メディアが絶賛する異色のUKロック。
『オール・イン・ザ・ゲーム』モーリッシュ・アイドルズ
英国の港町ファルマスで結成された4人組は、ボーカル&ギターがふたりとドラムス、サックスという変則的な編成の奇妙なバンドだ。3年前のデビュー時はいわゆるポストパンク的なヒリヒリとした印象だったが、ここでは彼ら特有の空間的でサイケなアンサンブルとふたりの歌い手によるユニゾンのメロディとの融合により、時空がねじ曲がったようなシュールかつメロウな世界観を作り上げている。洗練されているようでいて時には牧歌的な響きも感じられ、その絶妙なバランスに引き込まれてしまう。
ジャンルを軽く超える、Z世代の若き才能。
『バックフリップス・イン・ア・レストラン』グレンペレス
4年前に「Cherry Wine」という曲が話題となり、数々の音楽賞も受賞しているオーストラリア人のシンガーソングライターによる初のフルアルバム。ソフトロックやボサノバ、ディスコなどのエッセンスを用いたメロディアスなナンバーをソフトな歌声で披露するのが特徴だ。なかにはヒップホップやドリームポップの要素を取り入れたサウンドも多く、単なるレトロ志向ではないのも魅力的。そのポップセンスを買われてベニー・シングスと共演していることもあり、今後のワールドワイドな活躍に期待したい。
私生活の揺れ動く感情を、イノセントに表現。
『スウィートネス』ガールパピー
インディシーンに颯爽と現れたアトランタを拠点とするベッカ・ハーヴェイによるプロジェクト。シンセポップやシューゲイザーからの影響を受けたビビッドなアレンジに乗せて、ソフトで透明感のある歌声を響かせる。自身の恋愛や生活をベースにして日記のように書かれた歌詞や、楽器に向かわずボイスメモにアカペラの鼻歌を録音しながら作曲したというスタイルから、彼女の等身大の音楽がそのまま形になったことが想像できる。ポップながらもほのかに哀しみや慈しみが感じられる美しい音楽だ。
*「フィガロジャポン」2025年5月号より抜粋