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衝撃に次ぐ衝撃。「鮨 門わき」が導く 驚くべき鮨の新世界 @銀座

  • 2025.4.16

グルメ最前線 トップレストランを探訪する

親方の門脇賢寿氏が作り出す雰囲気が素晴らしい。

「鮨 門わき」は、銀座のクラブ街の真っ只中のビル6階にありながら、店の引き戸を開ければ、水がせせらぐ小庭が出迎えてくれる。

続けて二番目の引き戸を開ければ、威勢の良い挨拶とともに、まばゆい白木のカウンターと、部屋の中央に居座る堂々たる木製の氷室に目を奪われることだろう。

親方が発する「いい気」に満ちている

 

 

鮨屋として、どの方向を向いた店なのだろうか――。

 

と言うのは、鮨屋ほど、親方個人の考え方と性格が、すべてを決定づける飲食形態は他にはないからだ。読者の代理体験者として、筆者が真っ先に指摘しなければならないのは、この店には親方が放出する、とても「いい気」が満ちているということである。

銀座に出現した数寄屋造りの室内。

親方の門脇賢寿氏は、素材への向き合い方が尋常ではなく、仕込みにかかる途方もない労力を何とも思わないタイプであることが、すぐにわかる。

のっけの3種のおつまみからして、全力投入だ。親方が心を砕くのは、素材本来が持つ味わいをいかにして引き出すかである。「筍」の炊き物にしても、出汁などは一滴も使わない。器の中は季節初めの若々しい筍の清冽な旨味でむせ返るほどだ。

おつまみの「黒鮑」と「毛蟹」に圧倒される

 

 

「黒鮑」は2時間の酒蒸しを経ている。肝は酒で煮込んで裏漉しして、苦味を和らげるためにほんの少しだけバターを落とした。最後に八丈島の無農薬・ノーコーティングのレモンの果汁で締める。バターと柑橘の酸味でのごく微量の調整が、見事なバランスのソースを生み出すのだ。

 

歯に吸い付くような鮑を食べつくすと、「肝ソースに混ぜてください」と、シャリを一握り。客思いだねえ。だって、肝ソースは一滴も残したくないから。こういう提案は嬉しすぎる。この濃密な肝ソースご飯が五感を揺さぶる具合といったら、まさに背徳的なほどだ。

黒鮑の肝ソースにシャリを混ぜたら天国だ。

北海道の「毛蟹」は、炭火であぶって甘みを引き出した紫雲丹と和えた上で、カラスミを振りかけた。余計な調味料は何も加えていないのに、うおぉー、たまげるぞ。何という豊饒で複合的な旨味の三重奏か。

 

これはまさしく、「天然の蟹クリーム」(by親方)だ。爆発が脳天に突き抜ける。親方も罪作りなことをしてくれる。こんなものを食べた日には、普通の蟹では何も感じなくなってしまうじゃないか。

毛蟹、紫雲丹、カラスミの三重奏!

この短時間でわかったことがある。それは親方が持つ、美味しいものを目指して貪欲なまでにまっしぐらな姿勢である。さらには、陽性で話し好きで、お客が最高に気持ちよくなるように、自身はもとより、スタッフの全員が徹底していることだ。

 

そして親方は何よりも、手間暇かけた料理の数々を、お客に食べさせたくてたまらない。ウズウズしているような人物なのだ。私は彼のそういう心意気にいちばん感じ入った。

 

米は「笑みの絆」で酢は3種のブレンド

 

 

おつまみが終わり、寿司に突入すると、もっと凄い世界が待っていた。

 

仕入れは最上のものが日本各地から届くが、中でも白身魚に関しては鹿児島の目利きの魚屋〝ジョ兄″に寄せる信頼は篤い。

 

そもそも、大枚を払いさえすれば、いい魚が手に入るわけではない。仲卸しや魚屋が見込んだ料理人でなければ(=腕がなければ)、良い素材は卸してもらえない。そりゃそうだろう、この魚はあの料理人の手に委ねたいと思うのが心情というものだから。

注釈が長くなるが、コトが鮨なので、もう少しお付き合いしてもらいたい。

まず、肝心のシャリだが、米は山形県南陽市の農家と直取り引きのものしか使わない。銘柄は「笑みの絆」だそうだ。鮨には水分の関係で古米を使うことが多いが、これは粒が大きく、新米でも粘りが少なくベタッとしない。酢の入りも良く、鮨米にとても合う米だ。それを羽釜で炊いた。

 

酢は3種のブレンド。赤酢が2種で、「山吹」からは味と香りを、「優選」からは旨味を引き出しているのだろう。米酢の「白菊」はこれ単体でも行けるものだが、さっぱりさが加わる(のではないかな?)。

「シャリの種類を替えながらとかいうのではなくて、1種類で全部の鮨ダネに合うようにしました」(親方)

結果、精妙な配合なのだが、そこまで辿り着くのは大変だったに違いない。

先頭、3種の鮨に衝撃を受ける!

 

 

いよいよ鮨の出番である。先頭の3番までが、いずれもホームラン性のクリーンヒットをかましてくれる。

 

(ドジャースに喩えて、すみませんが)1番のオオタニに相当するのは、5日ほど寝かした「目鯛」である。身質はしっとり、噛めば旨味が口中にあふれかえってくる。普通の新鮮な切り身を予想していたら、まるで及びもつかない豊饒さに驚くだろう。ある種、衝撃的だ。煮切りではなく、塩を一摘みだけ載せた。この塩が旨味をより一層引き出してくれる。シャリとの相性も抜群にいい。

 

 

 

「真蛸」は前半のメインの一つだ。2番手、ムーキー・ベッツの存在はさすがだ。三浦半島の佐島の蛸である。エビ、カニ、伊勢エビ、サザエなどを食べて育った蛸で、「兵庫県の明石と生育環境が似ている」(親方)そうだ。

 

半生の火入れが完璧なせいもあるのだろう、感動的なほど味が濃い。これは2番目に訪れる衝撃だ。私もそうだが、多分、食べた人は鮨における蛸というものを、初めて特別なタネなんだと認識することになる。シャリとの間に海苔を噛ましてあるところに技がある。甲殻類のエサである海苔が間になって、蛸とシャリをつないでくれる。

前半のメイン的存在が「真蛸」。

3番のフリーマンは「小肌」であるが、血抜きをしてから5日も寝かせたものだ。そこで旨味はピークを迎えると言う。酢で締めた甘みとあいまって、これほどしっとりした、味の深い小肌はかつて経験がないかもしれない。つくづく美味しい。

「冷やし込み」で旨みはピークへ

 

 

親方の鮨は言ってみれば、〝進化系″と形容できるだろうか。

 

しかし、進化系と言っても、ウニの上にキャビアを載せるとか無粋なこととは無縁だ。彼の鮨ダネの探求は、むしろ引き算へと向かう。神経締めや血抜きをしっかりと施した魚を取り寄せ、あるいは神経締めだけしてもらった魚を自分のところで血抜きをし、塩を打ってパッケージしたら氷温で寝かせるのである。いわゆる「冷やし込み」だ。

親方は熟成という言葉は好まないが、〝氷温熟成″と呼んでもいいかもしれない。

 

なぜなら、いわゆる流行りの熟成(=ドライ・エイジング)とはまるで違う。それだと水分が失われていくが、親方の手法ならば瑞々しいままに、たんぱく質の旨味成分だけが増していく。赤身ならイノシン酸、白身ならば乳酸だ。だから、白身の場合、見事に脂身が乳化して白くなっていくのである。これは見たことがない!

これが「冷やし込み」だ。

鰯、とり貝がこれほどまでに美味しいとは!

 

 

全種に言及したいところだが、全部で15貫ほどもあるから絞って紹介する。

 

まず氷見の「鰯」だが、血抜きして酢で締めて、氷で冷やして5日ほど寝かす。このミルキーさは、もはや、本当にバターだ。完全に乳化している。艶(なま)めかしいとでも言おうか。これほど旨味が限界値を突破した鰯は、いまだかつて食べたことがない。傑作だ。

氷室は保湿した上で7度に保たれているが、そこから取り出した鮨ダネは、しばらく付け場で室温になるまで放置される。一貫一貫がそうした繊細な工程を踏むのだ。鮨における温度管理は要なのである。

鰯は室温に戻る前に、細かく包丁を入れた。

肉厚の「とり貝」は握る直前に熱した石にジュジューッと当てた。炙るよりも香ばしさが程よい感じになる。歯が貝の肉にめりこむ時の快楽は喩えようもない。ただの新鮮なとり貝とは比較にならないぐらいの豊かさだ。一つ一つの工夫が見事なのである。

三崎港に揚がった「春鮪」の赤身は漬けにしたものだ。ねっとりしてはいるのだが、軽やかで清潔な味わいである。いや、素晴らしい。もう一貫食べたいよぉ。北海道の「ばふん雲丹」も至福であった。これはなんと、ミョウバン未使用なので、苦味ゼロで甘みと旨味しかない。しかも、シャリと混ぜてしまった! 昇天ものだ。かすかだが、雲丹がエサにしていた海藻の味もする。

肉厚の「とり貝」はエキスがたっぷりだ。
一貫ではとても足りない「春鮪」の漬け。
「ばふん雲丹」は予めシャリと和えた。

至高の海苔に巻かれた干瓢

 

 

「干瓢巻き」にも触れたいが、その前に、有明海産の海苔について語らねばならない。

 

一番摘みの中でも、「旬黒優」という最高のグレードのものだ。しかも、親方のワガママが凄いのは、産地で焼き海苔にする前の生の乾海苔をムリに頼んで譲り受けた。握る寸前に最後の焼きを入れるのである。黒い海苔が緑色に変化する。パリパリなことはもちろんだが、香りと旨味が凄まじい。こんな海苔はどこにもない、と思う。

筆者は干瓢巻きを特に好むが、このように干瓢を細切りにして海苔に巻いたものは珍しい。海苔の感動が最初に来て、続いて、細いがゆえに干瓢が海苔と混然一体となる。どうすればいちばん美味しく感じられるか、親方が行きついた答えが細切りなのだ。鮨の大団円を飾るのに相応しいものだった。

細切り干瓢と至高の海苔が出会う幸せ!

とは言え、じつは最後の最後がまだあって、「しじみの味噌汁」が、思わずエエーッと声をあげてしまうほどの味なのだが、それは試してみてのお楽しみ。隣にいたお客が、「死ぬ間際にこれを飲みたい」と言っていた(笑)。理解できる。

また、食中のアルコールであるが、お薦めは滅多にお目にかかれないような稀少な日本酒の数々である。是非ともペアリングで楽しんでいただきたい。

 

鮨 門わき

 

住所:東京都中央区銀座7-4-6 ACN銀座7ビルディング6F
TEL:050-5385-4750
営業時間*17:00~22:00
定休日:日曜・祝日

おまかせ 35000円~(税込み・サ別)

文:石橋俊澄

Toshizumi Ishibashi

「クレア」「クレア・トラベラー」元編集長

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