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『片思い世界』の人気脚本家・坂元裕二が語る作品づくりの原動力「誰かおもしろい人を見つけた時に、この人のお話を作りたいなと思うことが多い」

  • 2025.4.14

国民的人気俳優の広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を果たした『片思い世界』(公開中)の公開記念ティーチインイベントが4月13日にTOHOシネマズ 日比谷で開催され、本作の脚本を書き下ろした人気脚本家の坂元裕二が登壇。坂元が作品に込めた想いや、いままで触れられなかった主人公3人の設定などについて、ネタバレありきで語り、観客からの質問や疑問にも答えた。

【写真を見る】広瀬すず、杉咲花、清原果耶の生き生きとした表情に注目!

【写真を見る】広瀬すず、杉咲花、清原果耶の生き生きとした表情に注目! [c]2024『片思い世界』製作委員会

ドラマ「それでも、生きていく」、「anone」、「大豆田とわ子と三人の元夫」など、連続ドラマの人気作を数多く手掛ける一方で、『花束みたいな恋をした』(21)以降、ドラマだけでなく第76回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞作『怪物』(23)、『クレイジークルーズ』(Netflixで配信中)、『ファーストキス 1ST KISS』(公開中)など、映画でも精力的に活動する坂元。監督は第44回日本アカデミー賞にて計11部門で優秀賞を受賞した『罪の声』(20)や、異例のロングランを記録した『花束みたいな恋をした』の土井裕泰が務め、坂元と再タッグを組んだ。

映画の上映後、ステージに登壇した坂元は「最近使い始めた言葉なのに、本当は意味がよくわかっていない言葉の第1位が“ティーチイン”なんです」とあいさつし、ドッと沸いた会場内。広瀬、杉咲、清原が演じる3人の主人公が置かれた特別な状況は本作の大切な秘密ということで、これまでの宣伝活動においては“ネタバレ厳禁”というスタンスで行われてきたが、このイベントからは、それも解禁。ということでまずは、この物語の着想のきっかけからトークを始めることに。

※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。

坂元裕二が観客からの質問に答えていった [c]2024『片思い世界』製作委員会

「2年か3年前に親戚が亡くなりまして。その帰り道にふと思いつきました」と明かした坂元。「ただあとから思うと、これは自分が子どものころに考えていたお話なんじゃないかと思ったんです。僕は子どもの時に、ふとんのなかでよく泣いていたんです。人が亡くなったり、祖父が建てた家が台風で飛ばされてしまったりして。自分じゃなくても、家族やおじいちゃん、おばあちゃんが死んでしまうんだと思ったんですが、それが受け入れられなくて、毎日ふとんのなかで泣いてたんです」。

また、時期を同じくして、子ども図鑑などで見た天国や地獄の描写なども忘れられなかったという。

「そこには閻魔(えんま)さまがいて、舌を抜かれたり、血の池に入れられたり、釜ゆでにされたりする、とあってものすごく怖かった。でもそれが受け入れられなくて、ふとんのなかで話を考えていたんです。別の世界に行って、普通と同じように暮らしている。ご飯も食べるし、おならもするし、すべったり転んだりもする。これは4歳か5歳のころから考えていた話だったんです」と説明すると、「身の周りの誰かが亡くなることで、人が死ぬんだということを理解する。そうした時に人は成長すると思うんですが、それをどう受け止めていくか。それが傷になる人もいるし、成長につながる人もいると思う」と付け加えた。

本作パンフレットでのインタビューで坂元は、「自分の38年の脚本家人生は、これを書くためにあったと思っている。棺桶に入れるならこの作品だと思う」と語っている。その理由について「単純にとても気に入っているということ。もちろん自分はテレビ出身の人間だから、なにかを残したいというわけではなく、放送時間を過ぎたらみんな忘れればいいやと思ってやってきたんですが、本作は残ってもいいかなと思った」という。

『片思い世界』に込めた自身の原点と願いとは? [c]2024『片思い世界』製作委員会

ここからは、映画を鑑賞したばかりの観客から質問を受け付けることに。まずは「主人公の3人は生きている人と交わらない。この物語をファンタジーにしなかった理由は?」という質問が。それに対して、「自分は現実的な人間なので、交わったことがないんです。うちの母は“あそこに幽霊がいる”というような人間なんですが、自分自身は見たことがなくて。やはり書き手として、そこで嘘はつけなかった。だって実際に会ったことがないから。たとえば(飼っている)犬が死んで5年くらい経つのですが、いまだに床にお菓子とかを置けないんです。床に座ってても置けないから(台などの)上に置いちゃうんですけど、それは犬と一緒に生きているから…」と説明し、さらに劇中で登場するラジオの声の主(演じるのは松田龍平)などについての考察に触れるも、ふと我に返って「こんなに解説しちゃっていいのかな…?僕の言っていることが正解だと思って書いているわけじゃない。スタッフや監督の意見なども全員違うでしょうし」と念を押すひと幕も。

坂元作品といえば、テンポのいい台詞のやり取りや、共感性の高い台詞などが特色であるが、「どういう時にアイデアを思いついて、どういうふうに肉付けしているのですか?」という質問も。それには「みんな誰しも、何十年も生きていれば『こんなおもしろいことがあった』というようなエピソードトークがあると思います。だからまず、その人が持っているエピソードトークを書くんです。この人はこういう性格だとか、こういう趣味があるとか。たとえば、その人がトイレに閉じ込められた時に、3時間気絶したとか…これは(ドラマ)『大豆田とわ子と三人の元夫』の松田龍平さんが演じた役の話なんですけど。その時、トイレにボールペンがあったので、トイレの壁一面にずっと自分の履歴書を書いた、と。それは結局使わなかったんですけど、そういうことを考えるようにしていますし、大事にしています」と創作の裏側について明かした。

ちなみに本作のキャラクターの履歴書については、「本作では3人とも同じ人だと思っていて。別々の人なんですけど、3人で1人みたいな感じで書こうと思ったので、特に性格付けをするのはやめようと。テレビはキャラクターものなので作るんですが、今回はしなかった」とのことだ。

続いて「これまでは残された側の人たちを描くことが多かったと思うが、今回、残した側の視点で描こうと思ったのは?」という質問を受けると、「結局、(映画を)観る側は、死に出会ったわけではないので、残された側だと思う。そうすると鏡のように残された側も描かれることになる。もちろん(杉咲花演じる)優花の母親などは出てきますし、残された側も描いたつもりなんですけど、自分の気持ちとしては、先に逝ってしまった人たちに気持ちを残して描こう、というのが今回のアプローチでした」と返した。

『片思い世界』は公開中 [c]2024『片思い世界』製作委員会

そして最後の1問は「中学生とか高校生くらいの若い人がもしいらっしゃったら」という坂元のリクエストにより、若い観客からの質問に答えることに。その観客はこれまで映画『怪物』『ファーストキス 1ST KISS』、そして今回の『片思い世界』と3本の坂元作品を鑑賞してきたとのことで、それぞれ作風が違うのにもかかわらず、どれも“坂元作品”であると感じられた、ということを踏まえて「作品をつくるうえで持っている芯の部分は?」と質問。

すると「あまりないです」と返した坂元。「それは自分ではいい意味で解釈しているのですが、僕は人が好きなのであって、あまり自分自身には興味がない。だから自分のことを書きたいと思ったことはほとんどないし、誰かおもしろい人を見つけた時に、この人のお話を作りたいなと思うことが多いです。この人のおもしろさは自分しか気づいてないんだろうなとか。『花束みたいな恋をした』なんかもそうなんですけど、自分の知り合いの男女がいて、その2人が飲みながら、ずっとカルチャーの話をしているんですよね。この姿を誰も映画にしようとは思わないだろうけど、僕は、これはおもしろくなるんじゃないかと思った。そういう関心から来ているんですけど……でも『花束』は観てないんですよね」と笑いつつも、「おもしろい人を見ると、その人について描写したくなる。それが自分の癖なんです。だから書いているものはバラバラだったりしますが、それは人間が好きだから、という長所だと思っています」と説明。

坂元の回答を受けた観客が「それは絶対に長所だと思います。私は(坂元が)面白い人だと思っているので、ぜひ自分の映画も…作りかったら、ですけど」と返して会場は大笑い。それには坂元も「今後、これが私の話です、というのをちょっと考えてみます」と笑いながら答えた。

大勢の観客が質問すべく挙手をしていたが、残念ながらここで時間切れ。最後に坂元が「こういうお話ですが、新しい社会や新しい学校など、いろんなところで新しい関係を作る時に、この人に自分の言葉が届かないんじゃないかとか、上手く付き合っていけないんじゃないかとか、社会との関わりにおいて、人は“片思い”を持っていたりすると思うので。そういう方々のあと押しになれたらいいなと思って作った面もたくさんあります。皆さんの勇気が出るような映画になれたら幸いです」とメッセージを送り、イベントを締めくくった。

文/山崎伸子

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