「こんなふうになってみたい」から世界一へ続く道
2025年、早くも4月! いつまでも寒いから季節が巡った気がしないなか、今年も4分の1が経ちました(そーゆー言い方やめてってよく言われます、笑)。でも実際毎日刻々と時間は過ぎて、きっとあっという間にまた寒くなるのは事実。何にもなかった1年になんてしないためにも、目標を立てるのに節目となる4月は絶好のタイミング。
目標はすぐには見つからないという方は、ぽわんと「こんなふうになってみたい」という願望を描いてみては如何でしょうか? そして何より大事なのはその願望実現に向かって、まずはアクションを起こしてみること。そのアクションがきっかけとなり壮大な夢を持つことになったり、思いもしなかった未来が開け、その先にまた実現を望むおっきなことを見つけられたりするもの!のようです。
今回はアクションを起こしたことで世界レベルの高みまで登ってしまった、実在の人物のお話をしたいと思います。
高野正さんはパラスポーツの1種目であるパラクライミングの2024年度M-RP3クラス日本代表選手。現在ワールドカップにて世界1位を何度も獲得しているパラクライミングの第一人者です。高野さんは小児がんのサバイバー、13歳のときに悪性腫瘍が見つかり摘出手術によって左下肢機能障害となりました。神経麻痺のため足の指や足首に力が入れられず、左膝から下をほとんど使うことが出来ない状態です。パラスポーツで活躍する高野さん、日常においては高野さんはなんと公立の小学校の先生なのです! 小学校の先生といえば長時間労働の大変なお仕事。それをきちんと勤めつつ世界の頂点に立つという偉業を成し遂げているのです。
まずは高野さんが小学校教員を目指したエピソードから。大学生4年の時にフィリピンのスラム街で家を建てるボランティアに参加、その際に接したスラム街の子ども達の前向きで明るい姿を目にします。「子ども達が夢や希望を叶えるためにできることはあるのか?」と考え、教育の大切さや自身の経験を活かせる教師という道を考えたのだそう。最初はきっとぽわんとした願望だったのではないかと思います。でも高野さんはちゃんとアクションを起こしたのです! それは教職免許を取得すること(大学卒業後、民間企業に就職して働きながら通信教育で教職免許を取得し28歳で小学校教員に)。ここですでに高野さんのアクション力に感銘。でもこの先がまたすごいのです!
「努力すること、前向きに生きることの素晴らしさを伝えたい」という思いを心に子ども達に接しているなか、子供たちの日々頑張る姿に刺激を受け、自身の頑張っている姿を見せられたら言葉にもっと説得力が出るのではないか?と考え始めたのだそう。これもきっとぽわんと浮かんだ願望。そこでまた高野さんはアクションを起こします。自分自身も頑張れる何かを探していたとき、近くにあった(この偶然性もすごい)クライミング教室に目が行き、足を踏み入れたのです。これが2018年。ここで1年ほどクライミングをしていたところ、ジムの常連さんからパラクライミングの存在を教えてもらい、トライすることを決意。競技人生へ歩を進めました。
小学校の先生は副業も禁止、競技参加費や渡航費、練習代などを自費でまかわなければなりません。しかも仕事は激務。相当の覚悟がないと実現は不可能な両立です。が、自身が世界の一流アスリートとの出会いを通じて得た刺激や見聞を広く伝えることは大きな意味と意義を持つことだと確信。たとえば世界で活躍しているアスリートも小学生だった時期があり、たくさんの失敗や努力を経て輝くことが出来たという話を、身近に起きていることとして子供たちに伝えられたら。——きっと、夢を持つことの素晴らしさや、なりたい未来の実現は努力することで得られるんだということを実感してもらえるのではないのか?という思いに高野さん至りました。だから今後も競技を続けていきたい!と強く思ったのだそうです。知らない人の成功話ではなく、知っている人の成功話、それは全く違った肌感覚で入ってきますよね。先生の努力している姿が身近にあるって恵まれていますよね(先生が尊敬できるお手本である、どこの現場もそうあって欲しいです)!
いまはクラウドファンディングで資金を募り世界を転戦している高野さん(もちろん現役の公立小学校の教員です)。障がいを持っていても出来ることを諦めない、がんと戦っていても心を強く持つ、また無限の可能性を持っている子ども達に前向きに生きることの素晴らしさと大きな希望を与え続けています。大学4年のときに思った「子供たちに夢や希望を叶える手助け」は、教師になる→子供たちに努力している姿を見せるためクライミングを始める→パラクライミングで世界一になる、どんどん形を変えスケールアップしていっています。何かで世界一になるなんて、高野さん自身きっと考えていなかった未来だと思います。
スポーツでの結果は努力と鍛錬の賜物。スポーツに真摯に取り組んでいる大人が身近にいることは子ども達にとって良い影響を及ぼします(信頼できるちゃんとした先生が世の中に増えて欲しいと私も思います)。そこで教師がアスリートとして活動しやすくなる枠組作りを実現したい!という新しい願望も生まれてきたのだとか。そのためにも高野さんはアスリートとしての活動を続け、結果を出し、評価を得て、多くの人たちに良いエフェクトを与え、ひとりまたひとりと夢を持ち前向きなひとが増えて、良い未来が広がっていくことを望んでいるのだそう。
世界で活躍している高野さんの今は「子ども達の夢や希望を叶えたい」という思いから派生し、良い連鎖で導かれていると思います。「こんなふうにしたい」という願望を実現する要は“アクションを起こす”!この一言に尽きます。そしてそれが思いもがけない新しい道につながっていく。高野さんという体現者がいる事実。勇気をもらいますよね!
TEXT=青木貴子