大河ドラマ『べらぼう 蔦重栄華乃夢噺』が話題である。主人公は、自力で出版社をたちあげて、江戸に文化を花開かせる担い手となったプロデューサー、蔦屋重三郎。スポットライトをあてられて、はじめてその人生が波瀾万丈で物語になりうるおもしろさだと知った人も多いだろう。
歴史のなかにはそうした「教科書で名前を見たことはあるけど、よく知らない」人々の偉業や、彼らが生みだした「読みにくいし、古臭いし、興味がもてない古典文学」の傑作がたくさん、潜んでいる。その魅力を存分に引き出してくれるのが『「古典の授業? 寝てたよ!」というあなたに読んでほしい 実はおもしろい古典の話』(谷頭和希×三宅香帆/笠間書院)だ。
都市ジャーナリストでチェーンストア研究家の谷頭和希さんは、元古典の教師。『妄想とツッコミでよむ万葉集』や『〈萌えすぎて〉絶対忘れない! 妄想古文』など、さまざまな角度から古典のおもしろさを布教してきた書評家の三宅香帆さんとともに、本作では、対談形式で古典文学の名作を解釈しなおすというものだ。これがまあ、着眼点のおもしろいこと。個人的に、もっとも惹かれたのは第1章の「江戸文芸のはなし」。
粋であることを重んじる江戸文化ゆえに、文芸からもダサさが排除される傾向にあった、江戸という世界の物理的な狭さや社会制度の閉鎖性が、風刺をやりやすくしていた、などと2人がそれぞれの視点でジャンルを分析するのも興味深いのだけど、遊女の本音をおもしろおかしく書いた山東京伝の『青楼昼之世界錦之裏』はおじさんLINEの集合体みたい、というふうに、私たちにもわかりやすく古典の魅力を伝えてくれるから「ちょっと読んでみようかな」という気にさせられる。
とくに気になったのが、平賀源内が書いた『根南志具佐(ねなしぐさ)』。エレキテルを発明するなど、型破りの発想力を持った人なのは知っていたけれど、閻魔大王を主人公に、まさかあんなにもハチャメチャな小説を書いていたとは……。プライベートとあいまって、おもしろすぎるのでぜひ、まずは彼の章だけでも読んでほしい。
恋愛モノにおいて片想いの物語が人気を集めやすい日本において、『竹取物語』は時の権力者である帝をかぐや姫がすっぱり振るところがハイライトなのではないか、紫式部もその点を高く評価したのではないかという分析も、なるほどと思った。『源氏物語』や『枕草子』など、ほかの作品に比べればおおよその内容を把握しているものも、歴史をふまえた豆知識や、やはり2人それぞれの視点での分析によって、印象が変わるのもまた本作の魅力である。とにかく長大な『平家物語』は、高齢者が昔語りをするときに脱線したりそのつど話を盛ったりするうち冗長になっていく現象と似ている、という分析には笑ってしまった。平家の栄枯盛衰を長々と語る同作は、確かに、幾人ものじいさんたちによる壮大な武勇伝語りともいえるのかも。
2人のかけあいをおもしろおかしく読むうち、古典を読むのに必要な前提知識も身につき、好奇心をかきたてられる。タイトルに、偽りなし。古典と聞くとあくびが出るような人にこそ、読んでみてほしい一冊である。
文=立花もも