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「病気があるわけではないが働けない…」80歳老親の年金と貯金が命綱の無職43歳娘が見つけた"生きる希望"

  • 2025.4.13

持病があるわけではないが、働くことができない。43歳の娘は年金暮らしの81歳と78歳の両親に経済的に依存して生きるしかない。だが、両親の余命はわずか。「私は今後、どうすればいいのか」。家計相談を受けたFPのアドバイスにより一筋の希望を見出すことができた――。

※写真はイメージです
81歳と78歳の両親が他界した後、自分はどうすればいいのか

今回相談に来られたのは、働くことができずに自宅に引きこもっているという43歳の女性です。大学卒業後、いくつかの仕事をしたものの、どれも長続きせず、やがて就職が難しくなり、自宅に引きこもるようになってしまったというのです。

特に病気があるわけでもなく、障害年金の受給は望めません。今は81歳と78歳の両親と同居で生活に困るわけではありませんが、将来を心配して私に相談に来られました。


◆相談者の家族構成
相談者:田中 愛さん(仮名)43歳(無職)
家族:父親 健一さん(仮名)81歳(年金生活)
母親 陽子さん(仮名)78歳(同上)

◆資産
・貯蓄額:約2000万円
マイホームはなく賃貸住宅

◆収入(老齢年金)
・父親:年220万円
・母親:年130万円

◆支出
・生活費:年約200万円
・住居費:年約96万円

ひきこもりや障害などで働けない子供を持つ家族の家計相談を多く受けています。相談に来られるのは、多くは子供の将来を心配された両親です。ただ、数は多くはありませんが、今回のようにひきこもりなどで働けない本人が来ることもあります。

話を聞くと、大学卒業後は一般企業に事務職で入社したとのことです。しかし、仕事にやりがいを見いだせずに、しばらくすると退職してしまったそうです。その後は他の企業に転職しましたが、そこも長くは続かずに転職を繰り返すようになってしまいました。それでも若い頃は次の仕事を見つけることにそれほど苦労はしませんでしたが、年齢が上がるとともに次の就職先を見つけるのが難しくなり、空白期間が長くなっていきました。実家暮らしだったこともあり、生活に困ることはなく、親からも口うるさく言われることがなかったために、徐々に働かない期間が長くなってしまいました。5年ぐらい前に、なかなか就職先を見つけることができずに、自宅に引きこもってしまうようになりました。

相談者はため息をつきます。

「今は親と同居なので何とか暮らしていけますが、将来どうなるのか不安です」

本人も、何とかしなくてはという焦りはあるものの、就職活動がうまくいかずに、すっかり自信を失ってしまったようです。

約20年後、64歳で親の貯蓄はすべて底をつき暮らせなくなる

「では、今の状況が続いたとして、将来どのような状況になるかをシミュレーションで見てみましょう」

相談者には、事前に両親から収入や資産額を聞き取ってもらっていました。ファイナンシャル・プランナーに相談に行くということで、両親も大まかな金額を教えてくれたそうです。

ひきこもっている子供が将来を考え始めたと期待して協力してくれたのでしょう。その結果は、図表1のようになりました。

今後本人がまったく働かないものとして計算していました。両親が健在の間は、父親母親それぞれの年金収入(夫婦で計350万円)で生活費(家賃や生活費で年296万円)を賄うことができています。しかし今後、父親と母親が亡くなると、収入がまったくなくなります。

現在2000万円ある貯蓄は急速に減少していき、約20年後、本人が64歳になると貯蓄が底をついてしまいます。つまり生活していけなくなるわけです。65歳からは自分名義の年金収入が入りますが、老後の生活まで考えると、最終的に2000万円程度の資金が不足するという結果です。

いくつかの前提(※)を基に試算していますので、実際にはこのとおりにならない部分もあります。しかし、そのことを差し引いたとしても、かなり深刻な状況です。(※:父親は8年後の89歳、母親は13年後の91歳で他界し、一人暮らしになった際の支出は現在の3分の2程度、本人は90歳まで生きるという設定で試算)

「私はもう、生きていけないのでしょうか?」

予想外に悪い結果だったのでしょう。相談者は、がっかりと肩を落とし、今にも泣かんばかりの表情です。

「そんなことはありません。もし生活費にも事欠くようになったら、生活保護を申請することもできます。けっして悲観はしないでください」

私はひきこもりを立ち直らせるカウンセラーではありませんが、このようなときに「頑張って働きましょう」と励ますのが得策ではないと判断しました。仕事をすることが最善の手段であることは本人が一番よくわかっているはずです。本人も自覚しているのでしょうか、こう言葉を返してきました。

「でも、生活保護を申請したら、『働きなさい』と言われてしまうだけですよね」

これに対して、こう話しました。

「(40代の)今はまだ生活保護を考える段階ではありません。ご両親と同居されていますし、たとえ一人暮らしになっても、働ける間は就業を勧められることでしょう。しかし、老後になって生活費が不足した場合は状況が違ってきます」

「どういうことですか?」

65歳を超えると「生活保護受給しやすくなる理由」

私は説明しました。

「生活保護は、資産、能力などのすべてを活用しても、なお生活に困窮する人に対する最低限の生活の保障と自立を助長するための制度です。収入がなくても資産がある間は、生活保護は受けられません。また、働くことができるのであれば、就業することを促されます。しかし、資産が底をつき、働いて収入を得ることができなければ、支援の対象になります」

「支援の対象者は具体的にはどのような人ですか?」

「例えば、高齢になれば働けないものやむを得ないでしょう。生活保護の基準が緩和されるわけではありませんが、65歳を超えてくると『高齢で働けない』という理由で受給はしやすくなります。実際、生活保護を受給している人には高齢者の割合が多くなっています。逆に言えば、60代半ばまで貯蓄を維持できれば、その後は生活保護の支援を頼ることも選択肢になります」

「確かにそうですね。でも、65歳になると年金が出るようになるでしょう。年金をもらっていると生活保護は受けられないのではないでしょうか?」

「生活保護の給付は、最低生活を保障する水準が基準額として設定されています。老齢年金の金額がその基準額よりも少なければ、その差額が給付されることになります(年金受給額がおおむね月10万〜13万円程度であれば生活保護を受給できる可能性があると言われている)」

※写真はイメージです

「そうなんですか。あと、私は一人っ子で子供もいないのですが、老後に介護が必要になったらどうすればよいのでしょうか?」

「生活保護の中には、生活費に当たる生活扶助や住宅費の住宅扶助などがありますが、介護のための介護扶助もあります。生活保護を受けながら、特別養護老人ホームやグループホームに入居して介護を受けている人も大勢います(※)。施設によって対応に差はありますが、生活保護を受けているからといって老人ホームに入居できないことはありません」(※介護扶助を受けると、介護費用の1~3割の自己負担額が必要ない。また特別養護老人ホームの場合は、介護保険の特定入所者介護サービス費によって1日の居住費が320~820円、食費が300円に抑えられる)

「そうですか。将来のことが心配だったのですが、それを聞いて少し安心しました」

相談者は、ホッとした表情を浮かべました。

「ただ、あなたのシミュレーションでは60代前半に貯蓄が枯渇する可能性がありますので、まだ安心はできません。ご両親と協力してもう少し支出を切り詰めてみるとか、少しでもよいから働くことを考えてみましょう」

「わかりました。もう少し改善すればよいのなら、何とか前向きに考えられそうです。先ほどは2000万円が不足すると聞いて、絶望的になってしまったんです」

「シミュレーションで驚かせてしまったようですね。確かに90歳までを考えるとかなりの資金が必要になりますが、まずは65歳まで貯蓄を維持することを考えましょう。その時点で生活に行き詰ったら、その時は支援を受けることも検討しましょう」

老後に生活保護を受ける前提で生活設計をするのは、適切なことではないかもしれません。

また今回のケースでは両親は貯蓄2000万円あるものの、子供の将来を考えれば、旅行などコストのかかる行動を控えざるをえません。両親が老後生活を謳歌することは事実上できなくなります。

ただ、働くことができないという相談者の本人の立場になれば、「もう私は生きていけない」と絶望するよりは、生活保護の支援の可能性を知ることで人生を前向きに考えられるようになって、それが少しでも働く意欲につながれば、状況は改善されるはずです。

村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。 大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。 特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。

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