ガイ・リッチー監督のアクション大作『アンジェントルメン』が公開中だ。第二次世界大戦中に実在したイギリスのスパイチームの活躍を描く痛快作で、ナチス・ドイツのUボートの航行を阻止しようとする極秘作戦が展開される。この作戦にはのちに作家となるイアン・フレミングが関わり、実行部隊のリーダーが「007」シリーズのジェームズ・ボンドのモデルになったといわれている。そんな本作にちなんで、第二次世界大戦下で実際に行われた作戦を映画化したアクション、サスペンスを紹介しよう。
【写真を見る】ジェームズ・ボンドのモデルになったといわれるスパイチームのリーダー、ガス少佐(『アンジェントルメン』)
奪われた美術品を取り戻すため美術分野の専門家が集められる『ミケランジェロ・プロジェクト』
ナチス・ドイツが占領地から略奪した美術品を取り戻すため、美術分野の専門家チームがヨーロッパ各地で奔走するジョージ・クルーニーの監督&主演作『ミケランジェロ・プロジェクト』(13)。ドイツ軍による美術品の押収に危機感を抱いたハーバード大学付属美術館のフランク・ストークス館長(クルーニー)は、美術品を取り戻すことを目的とする6人の仲間と「モニュメンツ・メン」を結成する。しかし彼らは、キュレーターや建築家、彫刻家といった戦いとは無縁の者たちだった。
クルーニーをはじめ、マット・デイモン、ビル・マーレイ、ジョン・グッドマンらが部隊のメンバーを演じるほか、彼らに協力する美術館員役でケイト・ブランシェットも出演。このオールスター集結の様相に、さながら気分は”戦争版オーシャン”。前線で邪魔者扱いされながら、かけがえのない文化を守るため奮闘する姿がユーモアを交えて描かれる。偶然、金の山を発見したり、ナチスのスパイを暴いたり、ロマンスを匂わせるサイドストーリーも見どころ。ちなみに“ミケランジェロ・プロジェクト”は、イメージから命名した日本題で、作戦名ではない(原題は部隊名から取った『The Monuments Men』)。
偽の作戦情報を死体に持たせてドイツ軍に掴ませる『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』
『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』(22)はイタリアのシチリア島上陸作戦を計画していたイギリスが、ナチス・ドイツの目を逸らすために実行した「ミンスミート(ひき肉)作戦」を題材にしたサスペンス。本命のシチリア攻略計画を隠すため、イギリス諜報部のイアン・フレミング(ジョニー・フリン)は架空のギリシャ上陸計画の情報を流して敵を欺く作戦を立案。モンタギュー少佐(コリン・ファース)とチャムリー空軍大尉(マシュー・マクファディン)はさっそく準備に着手することに。
ミンスミート作戦とは、偽の作戦計画書を持ったマーティン少佐なる軍人の死体をドイツに掴ませること。架空の将校にリアリティを持たせるため、チームが奮闘した舞台裏が描かれる。監督はこちらも第二次世界大戦の実話を映画化した『コレリ大尉のマンドリン』(01)のジョン・マッデン。二転三転するスパイ戦のおもしろさに加え、三角関係などの人間ドラマや当時を再現した緻密な映像も見応えがある。
包囲された大都市レニングラードからの脱出作戦を描く『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』
1941年から44年の約900日にわたり、ナチス・ドイツがソ連(ロシア)の大都市レニングラードを囲み、孤立させたレニングラード包囲戦を描く『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』(19)。多くの餓死者を出したこの戦いで実行された脱出作戦の一つを、若い兵士とその恋人の視点で描いた戦争アクションとなっている。
ソ連軍は1500人の兵士や市民を荷船に乗せてラドガ湖から脱出する水上作戦を敢行。そのなかには士官候補生のコースチャ(アンドレイ・ミロノフ・ウダロフ)と恋人ナースチャ(マリア・メルニコワ)も乗り込んでいた。重量オーバーによる沈没の危機、市民の階級間による軋轢、スパイ容疑で逮捕された父を持つナースチャと捜査官の確執を中心とする、『ダンケルク』×『タイタニック』テイストの物語が展開される。船をねらうドイツ軍戦闘機メッサーシュミットが飛来する航空アクション、湖畔での『プライベート・ライアン』風の激しい銃撃戦にも圧倒される。
ドイツ将校らがヒトラー暗殺計画を実行する『ワルキューレ』
ドイツ将校による最後のヒトラー暗殺計画を描いたサスペンス大作『ワルキューレ』(08)。ドイツの敗戦が色濃くなった1944年、ヒトラーのやり方に反感を抱く政治同盟の一員で貴族のシュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)は、連合国との休戦交渉を実現させるため、総統を暗殺する「ワルキューレ作戦」の修正案を実行しようとする。しかしそれは、過去40回以上も失敗してきた困難を極めるミッションだった…。
ドイツ人としての誇りを胸にクーデターに打って出る将校たちを力強く描いた本作には、製作総指揮も務めたトム・クルーズをはじめ、ケネス・ブラナー、ビル・ナイ、テレンス・スタンプほか錚々たる演技派が結集。爆弾によるスリル満点の暗殺計画のほか、それぞれの思惑で揺れる反ヒトラー陣営の人間模様、シュタウフェンベルクと家族の絆の物語、多くはないが重量級のアクション描写も見応えがある。監督は「X-MEN」シリーズのブライアン・シンガーが務めた。
Uボートの無力化作戦にはみ出し者たちが挑む『アンジェントルメン』
「シャーロック・ホームズ」シリーズや『コードネーム U.N.C.L.E.』(15)のガイ・リッチーと「トップガン」や「バッドボーイズ」など数々の人気シリーズを製作してきたジェリー・ブラッカイマーが手を組んだスパイアクション『アンジェントルメン』。規律違反で収監中の軍人ガス少佐(ヘンリー・カヴィル)は、特殊作戦執行部のイアン・フレミング中佐(フレディ・フォックス)から、ナチス・ドイツ軍の潜水艦、Uボートを無力化するため補給船を攻撃する極秘作戦を任される。
本作で描かれるのは、補給路を断つことでUボートを押さえ込もうというポストマスター作戦。ガスは優秀な船乗りから弓の名手でもある怪力男、潜入捜査担当の女優、知略に長けたチェスのグランドマスターまで、“はみ出し者”によるチームを結成し、無謀な作戦に打って出る。堂々と敵のまっただ中へと殴り込む、大胆不敵な暴れっぷりは痛快の一言。メンバー全員がそれぞれナチス・ドイツに強い怒りを持つだけに、容赦ない“アンジェントルマン”ぶりも半端じゃない。ダイナミックなアクション、相手の裏をかくだまし合い、そしてチームプレイのおもしろさと全部盛りのエンタメ大作になった。
第二次世界大戦期の軍事作戦を描いた作品はフィクションを含め数多くある。『アンジェントルメン』ほか、「事実は小説より奇なり」を地で行く異色のオペレーションを味わってほしい。
文/神武団四郎