映画館では毎週注目の映画が上映されていますが、なんと『アマチュア』『ベテラン』『プロフェッショナル』が4月11日より同日公開されていることをご存じでしょうか。
実際に見てみれば、なるほど、いずれもタイトル通り主人公の仕事に対する「熟練度」も重要な作品だったのです。一挙に3作品の見どころを紹介しましょう。
1:『アマチュア』
『ボヘミアン・ラプソディ』で第91回アカデミー賞主演男優賞を受賞したラミ・マレックの主演作かつ、『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』のジェームズ・ホーズ監督最新作です。
主人公はとても優秀なCIAの分析官だったのですが、テロに巻き込まれ殺害された妻の復讐に乗り出します。序盤から脅迫といえる手段で特殊訓練への取引をする様から危ういのですが、何しろ彼は戦闘経験ゼロのデスクワーカー。その後の銃の扱いは下手そのもので、観客としても「あなた本当にそういうの向いていないって!」と本気で心配してしまいます。
さらに、主人公がドアのピッキングを何から学ぶのか、主犯の居場所を知るためにどのような手段を使うのか、それぞれがアマチュアを下回ってもはや「素人」レベルでハラハラします。とある場面で「逃げまどう」様にはこっけいで笑ってしまいましたし、予告編でも見られる「ビルをつなぐ巨大プールのガラスを割る」場面は「CIA本部から追われる身なのにそんな目立つ方法取るのかよ!」といい意味でツッコミたくなりました。
他のどのスパイ映画よりも危なっかしくて「無謀」な主人公像がほぼコメディーにも映る一方で、彼のとんでもない優秀さが意外な方向から発揮されたりもしますし、はたまた理詰めで犯人を追い詰める「冷静な狂気」が悲しくさえ思えますし、現実の世界でも深刻なテロへの怒りと問題提起もはっきりと打ち出されてもいます。
主人公の「もう後戻りはできない」状況、頼れる人もごくわずかにしかいない中で希望をつかみ取ろうとする(あるいは希望を自ら手放すようにも見える)様も含めて感情移入できるはずですし、それは『ビーキーパー』とはやや異なるベクトルの「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」としての魅力にもつながっています。時には「論理」により相手を上回るスカッとした爽快感もありますし、何より「手堅い面白さ」を求める人におすすめできます。
2:『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』
2015年に韓国で大ヒットした『ベテラン』の続編ですが、前作を見ていなくても問題なく楽しめる内容です。連続殺人事件の犯人像を推理し真相に迫っていく、スタンダードな刑事または探偵ものの魅力を打ち出しているのですから。
重要なのは、その殺人犯が法では裁かれない悪人を標的にしていることでしょう。いわば司法制度の「代弁」または「正義」の主張のように殺人を繰り返しているため、そのために一部では「支持者」も得ているのです。それに付随して、インフルエンサーの扇動やフェイクニュースなど、今の時代ならではの問題も作劇に反映されています。
漫画『DEATH NOTE』(集英社)でも殺人者が世間から崇められる状況のいびつさが描かれていましたし、刑事たちが犯人の標的にされた人間をクズだと知りつつも守ろうとする構造は映画『藁の楯』をも思わせました。劇中では主人公の刑事が「殺人に良いも悪いもあるか!?」と言うなど、殺人そのものを断じて許さない姿勢が根底にあるものの、その倫理観が揺さぶられそうになる物語が刺激的で、また考えさせられるのです。
被害者は泣き寝入りするか命を落としてしまうのに対し、加害者は平然と利益を得るという、韓国のみならず世界中にある問題提起が重要なのは前提として、基本はやはりアクション要素多めのエンタメ。「パルクール」のように飛んだり跳ねたり、「泥臭い」という言葉さえも似合うリアルな格闘場面も見応えがありますし、それをもってこの世の「理不尽」そのものに立ち向かうような志の高さを感じました。
また、主人公はタイトルが示すようにベテランの刑事ですが、言動はかなり乱暴ですし、息子ともギクシャクしている状況で、決して褒められた人物でもありません。彼が危うさのある新人警官とどのように向き合い、事件に立ち向かっていくかという、欠点だらけの男の成長物語としても楽しめるでしょう。
リュ・スンワン監督は『密輸 1970』『モガディシュ 脱出までの14日間』などが日本の映画ファンからも高く評価されており、エンタメ作家として「間違いない」信頼をまたも得たと言えそうです。
3:『プロフェッショナル』
数多くのアクション映画に出演してきたリーアム・ニーソン主演作であり、その最高傑作とも評されています。邦題からは痛快アクションを思わせるかもしれませんが、実際は「滋味(じみ)深い」「激シブ」といった言葉がピッタリと合う作風でした。
物語の舞台は1970年代の北アイルランドで、元暗殺者の主人公は、その血塗られた過去を捨て去ろうと引退を決意するのものの、その矢先に凄惨(せいさん)な爆破事件を起こしたテロリストが町にやってきたために、壮絶な死闘が幕を開けてしまいます。
町の人々のささやかな交流や、仕事での腐れ縁のような人物からの提言などがあるからこそ、主人公の人殺しの過去からも、また戦いに赴く宿命からも逃れられないという悲哀が見えます。序盤の「これまで」も含めた関係性を丁寧に積み上げていく様は『イコライザー』を思わせましたし、アイルランドの荒涼な風景の中で危うくも愛おしいドラマが紡がれる様は『イニシェリン島の精霊』を連想しました。
監督のロバート・ロレンツは、クリント・イーストウッド監督の名作の多くでプロデューサーを務めており、本作も洗練された画や、西部劇を思わせる緊張感なども含め、イーストウッド作品のような趣きも感じさせます。主人公が抱えたジレンマや「贖罪(しょくざい)」、そのほかのキャラクターそれぞれに「理由」が見えてくること、やはりドラマ部分こそに力を入れている作品といえるでしょう。
そして、本作の原題は『In The Land of Saints and Sinners(聖人と罪人の国で)』です。その言葉通りの皮肉と悲哀に満ちていながらも、一瞬の判断で生死が分かれるアクションとの緩急の付け方も見事で、重々しくなり過ぎず、しっかりとしたエンタメに昇華されているのも美点でしょう。
ほかにもアクション映画が超大渋滞!
4月11日より、「そんなにいっぺんに公開されても追いつけないって!」と、映画ファンからのうれしい悲鳴が上がりそうな、注目のアクション映画がほかにも公開されています。
・『A LEGEND 伝説』:主演のジャッキー・チェンと『カンフー・ヨガ』のスタンリー・トン監督とのタッグの新作。秘宝を巡った過去と現在、夢と現実が交差した物語が展開するそうです。
・『サイレントナイト』:『男たちの挽歌』や『フェイス/オフ』のジョン・ウー監督最新作。愛する息子の命を目の前で奪われ、声を失った男の復讐劇を全編セリフなしで描いているとのこと。R15+指定です。
・『ゴーストキラー』:『ベイビーわるきゅーれ』の阪元裕吾監督が脚本を手掛け、同作でアクション監督を務めた園村健介がメガホンを取り、さらに同作で主演の高石あかりが殺し屋の幽霊にとりつかれてしまう女子大生に扮(ふん)しています。
※高石あかりは「はしごだか」が正式表記
さらに、絶賛に次ぐ絶賛の口コミ効果により、ロングランが続き興行収入は3億円を突破した『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の豪華声優陣による日本語吹き替え版も4月11日より全国公開されています。その吹き替え版はティ・ジョイ系列の劇場で先行公開されており、もちろん吹き替えも含めて大評判なので、こちらも見たい……!
そんなわけでアクション映画が大渋滞という言葉でも足りないくらいなのですが、なるべく多くに足を運んでほしい、目いっぱい楽しんでほしいところです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
文:ヒナタカ