長編初監督作品『PLAN 75』(22)が第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール特別賞を受賞し、同年のアカデミー賞日本代表として選出されるなど、世界で高い評価を集めた早川千絵監督。このたび、長編2作品目となる新作『ルノワール』も第78回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品決定。あわせて予告編とポスタービジュアルが解禁となった。
高齢化社会が深刻化した近い将来の日本を舞台に、75歳以上の国民に生死の選択を迫る衝撃的な物語を描いた『PLAN 75』から3年。本作で綴られるのは、1980年代後半の夏、闘病中の父と、仕事に追われる母と暮らす11歳の少女フキの物語。主人公フキを演じるのは多数の候補者の中からオーディションで抜擢された新人、鈴木唯。また、フキの母、詩子役に石田ひかり、父の圭司役にリリー・フランキーと、数々の映画賞を受賞してきた名優に加え、フキが出会う大人たちには、中島歩、河合優実、そして坂東龍汰ら若手実力派俳優陣が出演する。
子どもと大人の淡い境目をたゆたう少女のひと夏を描く本作。マイペースで想像力豊かなフキは、事情を抱えた大人たちと触れあうなかで、11歳の小さな体に宿る“うれしい、楽しい”という感情を膨らませていくが、時折見せる子ども特有の残酷な一面や鋭い視線にどきりとさせられるシーンも。早川監督は、少女が積み重ねていく感情の機微を細やかに描写すると共に、大人たちの人生のままならなさや、人間関係の哀感をあたたかなまなざしとユーモアを持って描きだした。自分にも覚えのある子どもならではのひりひりとした感情と、いまの自分に似た大人たちの孤独や痛みに共感し、激しく心を揺さぶられるだろう。
今回解禁された予告編は、11歳のフキが「みなしごになってみたい」というタイトルの作文を提出し、母親が担任教師に呼びだされるシーンから始まる。自由な発想で大人を驚かせるフキだが、闘病中の父親をいつも気にかけ、放課後は父親の病室へ通う。そんな日々の中で、フキがそれぞれに事情を抱えた大人たちと対峙する姿が紡がれていく。
同じマンションに住む久理子(河合)が、哀しみに暮れた表情で、ベランダから下を見下ろしていることに気づくフキ。久理子は誰にも話せずにいた秘密をフキに打ち明け始める。またある時は、母が知り合った男性、御前崎(中島)や、大学生の薫(坂東)と出会い、フキの日常が変化していく。「人が死ぬと泣く、どうして悲しいんですか？」と大人に問いかけるフキの声。子どもと大人の間で揺れる、ひと夏が繊細に描かれていく。
あわせて解禁されたポスタービジュアルには、楽しそうに踊るフキの様子が大きく据えられている。はちきれんばかりの感情を抱えたフキは、“哀しみ”を知って大人に近づいていく。幾重にも変化する11歳の少女の表情に、過去に置いてきた、遠い日の宝石のような記憶を呼び覚まされるはずだ。
役柄と同様11歳だった彼女の、まっすぐに大人を見つめる視線、この年齢ならではの自然な躍動感、時折見せる寂しげな表情など、スクリーンいっぱいに広がる、鈴木の瑞々しい演技に心奪われる『ルノワール』。カンヌの行方とあわせて、続報にも注目だ。
文/サンクレイオ翼