「私を離さないで」などで知られるノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロの鮮烈なデビュー作「遠い山なみの光」を、『ある男』(22)で第46回日本アカデミー賞最優秀作品賞含む最多8部門受賞をはたした石川慶監督が、広瀬すず主演、二階堂ふみ共演で映画化した『遠い山なみの光』の公開日が9月5日(金)に決定。あわせて追加キャストと場面写真が公開された。
日本人の母とイギリス人の父を持ち、ロンドンで暮らすニキ。大学を中退し作家を目指す彼女は、執筆のため、異父姉の死以来足が遠のいていた実家を訪れる。母の悦子(広瀬)は、長崎で原爆を経験し、戦後イギリスに渡ってきていたが、ニキは母の過去を何一つ聞いたことがない。夫と長女を亡くし、想い出の詰まった家で一人暮らしていた悦子は、ニキと数日間をともにするなかで、最近よく見るという、ある「夢」について語り始める。それはまだ悦子が長崎で暮らしていた頃に知り合った、佐知子(二階堂)という女性と、その幼い娘の夢だった。
このたび追加キャストとして、長崎を離れイギリスで暮らす1980年代の悦子役に吉田羊が決定。広瀬演じる1950年代の長崎で暮らす悦子の約30年後を演じる。また悦子の夫で傷痍軍人の二郎役に松下洸平、二郎の父でかつては悦子が勤務していた学校の校長であり、悦子が大きな信頼を寄せる緒方役に三浦友和が扮するほか、さらに日本パートで柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜らが顔をそろえる。
吉田は1997年に舞台で俳優デビュー後、数々の舞台やドラマ、映画に出演するほか、エッセイ本も刊行するなど様々な分野で活躍。本作でほぼ全編英語での演技に初挑戦しており、撮影直前に単身イギリスへ短期留学、現地でのホームステイで磨きをかけた流暢な英語を劇中で披露している。本作の出演に寄せて吉田は「全編ブリティッシュアクセントの英語台詞は母国語でないもどかしさもありましたが、その不自由さと、言語に向き合った時間がそのまま知らず悦子の血肉になっていたと実感できたことは得難い経験でした」と語る。
日本での撮影後、イギリスパートを撮影した本作。石川監督は吉田について「イギリス訛りの英語の習得のため誰よりも早く現地入りされて、完璧に“30年前に渡英した悦子”としてクランクイン。本読みでのイギリス人スタッフの驚きと敬意に満ちた表情が、その圧倒的な説得力を物語っていました」とコメントを寄せた。
あわせて出演が発表された悦子の夫、二郎を演じる松下については「松下さんは真摯に芝居に向き合い、次々と新たな表情を見せてくださいました。素晴らしい演技、ぜひご期待ください」、さらに二郎の父を演じた三浦については「役への姿勢、現場での佇まい、そして映画への深い洞察と愛情。そのすべてに学ぶことばかりでした」と語り、信頼関係の深さをのぞかせた。
また、今回初の映像解禁となった特報予告では、「私がついた嘘」という言葉と共に、1950年代長崎の悦子、謎多き女性、佐知子、そしてイギリスで暮らす1980年代の悦子らの顔が映しだされる。さらに、場面は1980年代イギリスに移り、オーディションで選ばれたカミラ・アイコ演じる悦子の娘ニキの「なぜイギリスに?」という問いかけに対し、吉田演じる悦子は「パパと出会ったからよ」とあしらうが、娘は「嘘」と鋭く切り返す。一体、だれがなんの嘘をついているのか?意味深なシーンの断片とともに現れる「彼女たちの、あの夏の記憶」という言葉が、時代と場所を超え交錯する“記憶”の秘密を紐解いていく物語を予感させるミステリアスな特報に仕上がった。
さらに、吉田演じる1980年代の悦子が英国調のティーカップを持ち、遠くを見つめる写真が初解禁。1950年代の悦子が昭和の雰囲気の暖簾の前で佇む姿や、佐知子のモダンなファッションが映える場面写真も到着。ミステリアスでどこか不穏な空気が漂う女性たちの姿に期待が高まる場面写真となっている。
フランス時間5月13日(火)~24(土)に開催予定の第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出され、正式出品が決定した本作。 石川慶監督作品がカンヌ国際映画祭に選出されるのは初めてで、イシグロも、1994年にクリント・イーストウッドやカトリーヌ・ドヌーヴらと共にコンペティション部門の審査員を務めているが、出品者側として参加するのは初。気鋭のスタッフキャストが名を連ねて描く、ある女性の過去に秘められた記憶とは?続報にも注目だ。
<コメント>
●吉田羊(悦子役)
「私演じる悦子は、主にイギリスでの撮影となりました。全編ブリティッシュアクセントの英語台詞は母国語でないもどかしさもありましたが、その不自由さと、言語に向き合った時間がそのまま知らず悦子の血肉になっていたと実感できたことは得難い経験でした。撮影現場では、石川監督と一体となり、複雑に交差する強さと弱さの中に浮かび上がる悦子の本心を手繰り寄せるような日々。それは途方もないようで、優しい作業でした。
また今回、カンヌ国際映画祭への正式出品が決まったという報せを聞きとても嬉しく、この先、日本が誇る石川監督の作品が世界中の映画館でかけられる姿を想像してはいまから昂揚しています。素晴らしい日英両チームとご一緒させていただきましたこと、心より感謝申し上げます。皆様にお届けできる日を心待ちにしております」
●石川慶(監督)
Q.キャスティングについて
「ロンドン時代の悦子のキャスティングは、イギリスでの公開も見据えて海外チームとともに進め全会一致で吉田羊さんに決定しました。イギリス訛りの英語の習得のため誰よりも早く現地入りされて、完璧に“30年前に渡英した悦子”としてクランクイン。本読みでのイギリス人スタッフの驚きと敬意に満ちた表情が、その圧倒的な説得力を物語っていました。松下さんは真摯に芝居に向き合い、次々と新たな表情を見せてくださいました。素晴らしい演技、ぜひご期待ください。三浦さんには僕の強い希望でオファーしました。役への姿勢、現場での佇まい、そして映画への深い洞察と愛情。そのすべてに学ぶことばかりでした」
Q.カンヌ映画祭出品について
「一報を聞いて、まずは心からホッとしました。正直な気持ちです。この歓びは、これから映画祭に向けて少しずつ実感が湧いてくるのだと思います。キャスト、スタッフ、関係者の皆さま、長崎の方々、そしてカズオ・イシグロさんに、心から感謝いたします。本当にたくさんの人の思いが込められた作品です。その思いが、カンヌを通して世界中に届きますように」
●広瀬すず(悦子役)
Q.カンヌ映画祭出品について
「素直にとっても、嬉しく光栄に思います。ゾクゾク不穏な空気が漂っていて、その作品の空気にちゃんとのまれながら日々お芝居を楽しませてもらった現場でした。まだ私も完成を観れていませんが、監督たちと、この喜び、幸福感を共有できること、何より嬉しいです」
●二階堂ふみ(佐知子役)
Q.カンヌ映画祭出品について
「この作品が日本に留まらず世界の方々に観て頂けること、とても嬉しく思います。あの時代といまをつなぐ、素晴らしい作品です。情熱を注いだ石川監督、全てのスタッフの方々へ、おめでとうございます!」
文/サンクレイオ翼