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親子で読んでほしい『僕には鳥の言葉がわかる』

  • 2025.4.10

小学校高学年から大人まで楽しめる科学エッセイ

生き物が大好きな少年が、バードウォッチングの楽しさを知って鳥の研究ができる大学に進学、ついには鳥の言語の秘密を探り当てて世界中を驚かせた! そんな気鋭の研究者が日本にいるのをご存じですか? それが本書の著者、鈴木俊貴さんです(「先生」と書くべきところですが、あえて親しみを込めて「さん」づけにさせていただきます)。研究者が著者なら難しい本なのでは?と思ったら、全く逆でした。小学生でも読めるわかりやすい文章で、最後まで夢中で読んでしまいました。

鳥たちの観察からすべては始まった

鈴木さんは1983年生まれ。現在、東京大学准教授で専門は動物行動学。鈴木さんが、鳥語研究の道を志した最初のきっかけは、高校時代にお年玉で買った双眼鏡でバードウォッチングに夢中になったことでした。子ども時代、さまざまな生き物を飼育してきた鈴木さんに、バードウォッチングは自然の一部を切り出すのではなく、彼らが自然界で生き抜く姿をありのままに見せてくれました。「動物たちの世界を知るとは、まさにこういうことなのかもしれないと、大事な気づきを得た気がしていた。」(本書P15)と言います。

そして大学三年生のときに、鈴木さんは運命の出会いをします。国内有数の探鳥地、軽井沢の森でのこと。シジュウカラなどの小鳥やキツツキなど、さまざまな鳥が群れを作っている森の中、彼らの鳴き声に聞き入っているうちに、鳴き声の種類と行動の関係に気づいてしまったのです。

「鳥たちは、餌の場所も天敵の来襲も、鳴き声で伝え合っているのかもしれない!」僕はものすごい世界に気づいてしまったようである。(P23)

この気づきが、鈴木さんの鳥語研究のスタートとなりました。大学生の鈴木さんは、自費でレコーダーやマイクなど必要な道具を揃え、何か月もひとり森に暮らして、食べるものに困って激ヤセしながら鳥たちの観察を続けました。自らの発見を誰もが認める科学的事実として論文に仕上げるには、さまざまな検証が必要だからです。

自分の発見を世界に認めてもらうには…

どのような巣箱を作れば観察に適しているのか、そのためには何が必要か、過去に発表された世界中の論文のチェックも欠かせない…と、やることは山ほどあり、失敗も多々ありました。でも大好きな鳥のこと、他の誰でもない自分が発見したことですから、鈴木さんにとっては、そのすべてが楽しいことだったようです。この人、すごく大変なことなのにすごく楽しんでいる…、そう思うと、こちらまで幸せな気分になってきました。

これ以上、本書の中身を紹介するとネタバレになってしまうのでやめますが、研究者の研究生活とはどういうものか、論文を発表するとはどういうことか、世界の学会で自説を発表するとはどういうことかといったことも、鈴木さんの経験を通じて理解できました。科学者を目指すお子さまには、そういう意味でも読んでほしい本なのです。

好きなこと・夢中になれることから始めたい

「おわりに」によると、今年、鈴木さんは、英・動物行動研究協会の最も栄誉ある国際賞を受賞することが決まったそうです。過去の受賞者に世界を代表する研究者たちが名を連ねる賞で、日本人初、アジア人初の快挙! 受賞理由は、「鳥の言葉を解明し、動物言語学という新しい領域を切り拓いたこと」とのことですから、鈴木さんが創設した「動物言語学」が世界で公式に認められたことになります。なんて素晴らしいことでしょう。鈴木さんは書いておられます。

僕はめずらしい生き物を対象としたわけでもなければ、特別な技術を使ったわけでもない。身近な野鳥のシジュウカラを対象に、双眼鏡とレコーダー、そして、ちょっとしたアイデアで研究を進めてきた。それでも、たくさんの新発見があったのだから、自然界にはまだまだ僕たちの知らない世界が広がっているのだろう。そう思うとワクワクするのは僕だけではないはずだ。(P256)

それにしても、「好きこそ物の上手なれ」というのは本当ですね。鈴木さんの若々しい文章に影響されたせいか、ふと鈴木さんの現在の心境を、子どもの言葉にしてみたくなりました。こんな感じではないでしょうか。

ぼくはこんな発見をしたよ。

とっても面白いからみんなにも知ってほしい。

みんなも鳥のことばがわかったら楽しいと思うんだ。

本書を読んでつくづく思いました。好きなこと・夢中になれることを見つけた人は幸せだし、強い! 苦労を苦労と思わず、目標に向かうことができるから。

今の時代、しなければならないことにうんざりしている子がたくさんいます。これをもし、「しなければならない」から「したい」ことに変えることができたら? 上達のスピードは目に見えて加速します。そのために親や大人にできることは、好きなことを見つけるための時間と機会をたっぷり作ってあげること。そしてその兆候をキャッチすること。子ども時代には、何より好きなこと・夢中になれることを見つけてほしい。そしてそこから将来を目指してほしい。そう願ってやみません。

僕には鳥の言葉がわかる
著/鈴木俊貴、小学館刊、定価1,870円(税込)

ようこそ シジュウカラの言葉の世界へ 山極壽一先生(総合地球環境学研究所所長)絶賛! 「類人猿を超える鳥の言語の秘密を探り当てたフィールドワークは現代のドリトル先生による新しい動物言語学の誕生だ」。NHK『ダーウィンが来た!』をはじめ国内外のメディアが注目する気鋭の若き動物言語学者による初の単著、ついに刊行! 古代ギリシャ時代から現代に至るまで、言葉を持つのは人間だけであり、鳥は感情で鳴いているとしか認識されていなかった。その「常識」を覆し、「シジュウカラが20以上の単語を組み合わせて文を作っている」ことを世界で初めて解明した研究者による科学エッセイ。動物学者を志したきっかけ、楽しくも激ヤセした森でのシジュウカラ観察の日々、鳥の言葉を科学的に解明するための実験方法などを、軽快に綴る。シジュウカラへの情熱と愛情あふれるみずみずしい視点に導かれるうちに、動物たちの豊かな世界への扉が開かれます。読後に世界の見え方が変わる一冊。巻頭口絵にはシジュウカラたちのカラー写真が、巻末にはシジュウカラの言葉を聞ける二次元コードつき。

<編集者からのおすすめ情報>本書の草稿を拝読したとき、何より感動したのは、鈴木先生が「シジュウカラのことが好きだ、もっと知りたい」というまっすぐな気持ちで、自然の中に身を置いて根気強く鳥たちをよく観察する姿勢でした。文系、理系、アウトドア派、インドア派問わず、何かを「好き」と思う気持ちを大事にすることで、日常生活の中でも新鮮な驚きや気づきが得られ、ひいては世界的な発見にまで繋がる--これは読者の皆さまにとっても、ポジティブなメッセージとなることと思います。

ちなみに、初の単著となる本文内のイラストはすべて鈴木先生自身によるもの! こまかなところまでかわいらしく描かれているのは、愛と興味をもって丁寧に相手を観察する鈴木先生ならではのタッチです。ぜひお楽しみください。

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