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『海街diary』から10年!『ちはやふる』や『怒り』を経て『片思い世界』でも輝く広瀬すずの進化に迫る

  • 2025.4.5

『海街diary』(15)から10年。最新作『片思い世界』(公開中)で杉咲花、清原果耶とのトリプル主演を務めている広瀬すずほど、この10年の間に自らの内に眠る芝居のポテンシャルを少しずつ覚醒させ、俳優としての本領と魅力を開花させた人はいないだろう。

【写真を見る】『花束みたいな恋をした』の脚本家、坂元裕二と土井裕泰監督が再びタッグを組んだ『片思い世界』

綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆を相手に孤独と不安を少しずつ和らげていく少女をナチュラルに演じた『海街diary』

是枝裕和監督が吉田秋生の人気コミックを映画化した『海街diary』では、母親が違う3人の姉のもとで暮らすことになる末っ子のすずを瑞々しい芝居で体現。台本を与えずにセリフを口頭で伝える是枝監督の演出を受けた広瀬が、長女役の綾瀬はるか、次女役の長澤まさみ、三女役の夏帆を相手に、孤独と不安を少しずつ和らげながら健やかに成長していく少女をナチュラルに表現していて目をみはった。

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競技かるたに青春を懸けるヒロインを自分のものにした『ちはやふる』

そんな彼女の初期の代表作が、競技かるたに青春を懸ける高校生たちを描いた末次由紀の大ヒットコミックを、映画3作でまとめ上げた『ちはやふる』。本作で競技かるたに熱中する主人公の綾瀬千早に扮した広瀬は、バスケットボールで鍛え上げた持ち前の運動神経と血のにじむような猛特訓で0.1秒を競うこの迫力の“文化スポーツ”を自分のものに。

艶やかな着物と袴を纏った美しい前傾姿勢と素早い動き、鋭い眼差しで千早を完全に憑依させていたが、それが負けず嫌いで、どんなことにも全力で打ち込む10代半ばの広瀬自身の輝きも印象づけていた。撮影現場でも野村周平ら共演者と楽しそうに過ごしていて、昼食時にケータリングの場所に誰よりも全力で駆けて行ったり、笑いが絶えないあたりは普通の女の子となにも変わらないな~と思ったものだ。

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『チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』(17)も、そんな広瀬のハツラツとした魅力にあふれていた。この現場でも人一倍チアダンスの練習に励んでいたのが広瀬で、共演者が疲弊し、音を上げても最後まで努力を惜しまなかったという。その頑張りが現場の士気を高め、観客が納得するハイレベルのパフォーマンスを作り上げたのは言うまでもないだろう。

チアダンスの練習に取り組み、ハイレベルのパフォーマンスを作り上げた『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』 Blu-ray&DVD 発売中 発売・販売元:東宝 [c]2017映画「チア☆ダン」製作委員会

過酷な撮影を経て芝居のおもしろさに目覚めた『怒り』

そして広瀬が大きく変わる、第一のターニングポイントとなったのが『怒り』(16)だ。吉田修一の同名小説を映画化したミステリーで、ある事件に巻き込まれてズタボロになる沖縄に住む少女、泉を演じたのだが、妥協を許さない李相日監督による現場の洗礼を受けた彼女の芝居は、自身のキャラを活かしたそれまでのものと違い、目を背けたくなるぐらい壮絶で痛々しい。

現場で相当追い込まれたことも想像できたが、彼女はその過酷な撮影を経て芝居の本当のおもしろさに目覚めたのは間違いないだろう。それは当時取材した際の、「(本作で共演した)森山未來さんや宮崎あおいさんのような俳優になりたい」という言葉にもはっきりと表れていた。

沖縄に住む少女、泉を演じ、過酷な撮影現場も経験するなど大きく成長した『怒り』 Blu-ray&DVD 発売中 発売・販売元:東宝 [c]2016 映画「怒り」製作委員会

『三度目の殺人』、『先生! 、、、好きになってもいいですか?』、『SUNNY』などで様々なキャラクターにチャレンジ

こうして新境地を切り拓き、俳優としての高いスキルを印象づけた彼女は、第一線で活躍する名だたるプロデューサーや監督から次々にオファーを受け、様々なキャラクターにチャレンジしていく。

是枝監督との2度目のタッグとなった『三度目の殺人』(17)では、父親を殺した犯人(役所広司)と対峙する物語の鍵を握る女子高生を、いっさい笑わない陰のある芝居で作り上げて観る者を翻弄。三木孝浩監督の『先生! 、、、好きになってもいいですか?』(17)では、世界史の教師(生田斗真)に恋をし、その純粋な思いを勇気を振り絞ってぶつける内気な女子高生の心情を演じてみせた。

さらに、大根仁監督がメガホンをとった『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18)では、コミカルな演技も取り入れながら、ルーズソックスを履いた90年代のコギャルを快演。岩井俊二監督の『ラストレター』(20)では、主人公(松たか子)の姉の高校時代と彼女の娘を一人二役で、2人の共通点がわずかに感じられるように演じ分けていたのも記憶に新しい。

ルーズソックスを履いて90年代のコギャルを快演した『SUNNY 強い気持ち・強い愛』 Blu-ray&DVD 発売中 発売・販売元:東宝 [c]2018「SUNNY」製作委員会

俳優としてより進化した姿を見せた『流浪の月』

そして、李相日監督と再び組んだ『流浪の月』(22)が二つ目のターニングポイントに。広瀬が本作で演じたのは、幼児誘拐事件の被害者の烙印を押されながら生きてきた更紗。大人に成長し、既婚者でもある彼女は、事件の被疑者であり、実際は心の拠りどころだった男(松坂桃李)と15年ぶりに再会するのだが、広瀬は更紗の胸にその時に湧き上がった生の感情と、抑えられない衝動を、2人が会っていなかった15年の月日のエモーションを想像しながらリアルに表現。それを“嘘の芝居”を許さない李監督の現場でまんまと成立させているのだから流石だ。

幼児誘拐事件の被害者の烙印を押されながら生きてきた女性を演じた『流浪の月』 DVDスタンダード・エディション 発売中 価格:4,180円 発売・販売元:ギャガ [c]2022「流浪の月」製作委員会

自信の表れなのか、芝居の振り幅もどんどん大きくなって、『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』(23)では入江悠監督のもと、同作のテレビシリーズで自分のものにした天才探偵助手、美神アンナを自らが提案したヘアスタイルを映画用にアレンジし、より自由でアクティブなキャラへとバージョンアップ!さらに、岩井監督の『キリエのうた』(23)でも、歌うことでしか“声”が出せないストリートミュージシャン、キリエ(アイナ・ジ・エンド)のマネージャーになる謎の女、逸子を7色のウィッグを着け替えながらミステリアスに体現。実は結婚詐欺で警察に追われていた彼女を楽しそうに演じ、そのダークなキャラを魅力的なものにしていた。

謎の女、逸子を7色のウィッグを着け替えながらミステリアスに体現した『キリエのうた』 DVD&Blu-ray 通常版 発売中 価格:4,400円、5,500円 発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング [c]2023 Kyrie Film Band

名脚本家、向田邦子の代表作に挑戦した「阿修羅のごとく」

こうして振り返っただけでも広瀬がどれだけ多彩な役柄に異なるアプローチで演じてきたのかがわかるが、2025年の彼女はますますスゴい!さらなる新たな顔で快進撃を続けている。

まずは名脚本家、向田邦子の代表作として知られる名作ドラマを、広瀬と3度目の顔合わせとなる是枝監督がリメイクしたNetflix配信のドラマシリーズ「阿修羅のごとく」。オリジナルと同じ1979年が舞台の本作は、父親に愛人がいることが発覚したのをきっかけに幸せそうな家族が大きく揺らぎ、4姉妹の秘密や葛藤が次々と明らかになっていくもの。長女の綱子を宮沢りえ、次女の巻子を尾野真千子、三女の滝子を蒼井優が演じ、四女の咲子に広瀬が扮しているが、いずれ劣らぬ演技派の彼女たちが姉妹ならではの歯に衣着せぬ口汚い物言いで罵り合い、泣きわめき、大声で笑い合うのがめちゃくちゃ生々しくておもしろい。

なかでも広瀬は、末っ子ならではの無邪気さで言いたい放題。特にそりが合わない滝子にはことあるごとにケンカを売るので、蒼井と激しくいがみ合うが、その手加減なしの言いっぷりが本当に“姉妹あるある”でめちゃくちゃ痛快だ。

かと思えば、ボクサーの夫(藤原季節)が入院し、彼の母親(高畑淳子)から激しく糾弾されるシーンでは歪んだ表情だけで咲子の複雑な心情を伝えてみせた。そのあたりも広瀬のプライベートをまるで覗き見ているような自然さで、そこは是枝監督が同じように4姉妹を撮った『海街diary』の時の彼女とは(設定が違うこともあるけれど)まるで違う。

実在した女優、長谷川泰子の生き様を体現した『ゆきてかへらぬ』

こんなに奥行きのある芝居を、ここまで自由に自然に放つ20代の俳優がほかにいるだろうか?そう興奮していたのも束の間で、『ゆきてかへらぬ』(25)の彼女にはさらに驚かされた。本作は『ツィゴイネルワイゼン』(80)などの名作で知られる脚本家、田中陽造が40年以上前に書いた幻のシナリオを『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ』(09)などの根岸吉太郎監督が映画化した文芸作品。大正時代の京都、昭和初期の東京を舞台に、実在した女優、長谷川泰子と詩人の中原中也(木戸大聖)、文芸評論家の小林秀雄(岡田将生)による愛憎を軸にした青春劇が描かれるが、泰子役の広瀬はこれまでのどの作品よりも大人っぽく色っぽい。

冒頭のシーンからどこか気だるそうな佇まいにハッとさせられるし、中原とローラースケートをするシーンなどでは広瀬自身のかわいらしさもにじみ出るから、中原と小林が彼女に夢中になるのもよくわかる。それでいて、文学的な才能を持った男たちに挟まれて、自らの才能の限界に苦悩し、しだいに壊れていく泰子の憂いを帯びたしっとりとした美しさも表現しているのだから目が釘づけになる。「泰子を演じられるのは、広瀬すずしかいないと思っていた」と根岸監督は公言しているが、その言葉が決して大げさなものではないことは誰が見てもわかるはずだ。

杉咲花、清原果耶との化学反応が楽しい『片思い世界』

といった驚きの連続のなかで、いよいよ公開されるのが『片思い世界』。大ヒットした『花束みたいな恋をした』(21)の脚本家、坂元裕二と土井裕泰監督が再びタッグを組んだ本作は、東京の片隅の古い一軒家で暮らす強い絆で結ばれた3人の女性の何気ない日常とそれぞれが抱える“片思い”が描きだされていく。

【写真を見る】『花束みたいな恋をした』の脚本家、坂元裕二と土井裕泰監督が再びタッグを組んだ『片思い世界』 [c]2024『片思い世界』製作委員会

楽しそうに他愛ない会話を交わす広瀬と杉咲、清原の3人。彼女たちの化学反応が見ていて楽しいし、横浜流星が演じた3人と同じ記憶を胸に秘めた青年のキャラも興味深いが、最大の見どころは坂本が本作に仕掛けた“ある秘密”だ。それがわかった時に思いがけない感情が湧き上がることになるが、杉咲と清原と共に、そこへと導く広瀬の芝居がここでも自然で驚かされる。観終わったあとに、もう一度最初から観直したくなるはずだ。

東京の片隅の古い一軒家で暮らす3人の女性の何気ない日常が描かれる(『片思い世界』) [c]2024『片思い世界』製作委員会

まだまだ注目作がめじろ押し!

だが、現在26歳の広瀬にとって、この10年はひょっとしたら俳優としての第一幕だったのかもしれない。20代もまだ半分近く残されているし、すでに2本の新作が撮影を終えて待機中。1本はノーベル文学賞作家、カズオ・イシグロのデビュー小説を石川慶監督が映画化した主演作『遠い山なみの光』(2025年公開)。そしてもう1本は、真藤順丈による直木賞受賞小説を大友啓史監督が映画化し、妻夫木聡、窪田正孝、永山瑛太らと共演する『宝島』(9月19日公開予定)。

カズオ・イシグロのデビュー小説を石川慶監督が映画化する『遠い山なみの光』 [c]『遠い山なみの光』製作委員会

どちらも注目作なだけに期待が高まるが、広瀬すずはこの先も間違いなく進化し続ける。彼女の第二章はどんな色彩を帯びていくのだろうか?楽しみでならない。

文/イソガイマサト

※宮崎あおいの「崎」の正式表記はたつさき

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