Text by Qolyオフィシャルコラムニスト
Qoly専属評論家の元Jリーガー高木義成さんがサッカー界の疑問や問題などに独自の視点で切り込む『高木義成の高木式GK視点コラム』。
連載第3弾は先月3月28日に発生したミャンマーを震源とする地震に襲われた被災体験談だ。タイ・バンコクで人気焼き鳥チェーンの熊の焼鳥バンコク支店『Kuma No Yakitori Bangkok』の経営に携わる高木さんは、自身がコンドミニアムで被災した。
地震があまり発生しないとされるタイでの被災体験を独白した。
体調不良と勘違いする揺れ
仕事へ行く前にちょっと部屋で横になってリラックスしていたとき、(揺れたときは)体調が悪いと思った。めまいがするような感覚かな。「ああ、こうやってめまいが起きて誰も知らないところで人は倒れていくんだな」と思った。
(地震に慣れていないタイの人たちも)みんな同じことを言っていたよ。
(現地では地震による被害の)動画が出回るのは早かったよ。例えばコンドミニアムの上からプールの水が流れ落ちる動画や、ビルの間の渡り廊下が崩れている動画とか。(動画が早く出回った理由は)全部人気の物件だからというのもあるかもしれないね。
あとはチャトゥチャックの(建設中の)ビルが崩れた動画もね。バンコクのグループラインが何個かあるから情報を拡散してくれる人がすごく早く動画を出してくれた。
被害の実感でいうと、俺は被災したと思っている。ただ体験として(地震の)被害は食らったけど、物的な被害はなかったから(自身が経営する焼き鳥屋の)お店も何の問題もなかったよ。
「あ、死んだ」と思った被災体験
次の日のバンコクは、普通の日常が広がっていたよ。多分タイのバンコクでも(被害は)場所によりけりかな。受けた被害は場所によって全然違うと思う。うちの店はビルの1階だったから被害はなかった。
ただ俺自身はコンドミニアムの15階にいたから震度3どころの話じゃなかったね。(揺れを感じて)「あ、死んだ」と思ったからね。だから場所によって被害の温度差はすごくあると思う。
(高層マンションでの被災だったから)揺れはすごかったし、みんな避難したからね。もうその状況は映画みたいだったよ。廊下ではみんな逃げろと騒いでいて、非常階段を駆け下りたからね。中には下着で逃げる人もいたし、一生懸命タオルで身体を隠しながら逃げている人もいたよ。
(帰宅困難者は)俺の知り合いにはいなかったけど、知り合いの知り合いがSNSで「あの人はまだ家に帰れていない」といった投稿が沢山あった。俺が住んでいるコンドミニアムは(倒壊などの危険性がないと)報告がきている。
(地震から)1時間後くらいに部屋に戻れたから、俺は部屋で店に行く準備をしていたけど、そのときもサイレンが鳴ってまた非常階段を駆け下りる羽目には遭ったけどね(苦笑)。
ただネットに出回っているようなビルに亀裂が入ったという被害は俺がいるフロアでは見かけなかったね。そういう報告も入っていない。
恐らく日本人が一番見知った被害は、(建設中の)ビル倒壊だと思う。あそこは俺がよく買い物に行くところだからビル自体はよく見ていたので、「そうやって崩れちゃうの?」と驚いたよ。
あれが(AI生成などの)フェイク動画だったらと思ったけど、うちの従業員から話を聞いているとフェイクじゃなさそうだなと。
(ミャンマー人従業員の反応は)地震初日がすごかった。でもいまはそんなに地震の話はしないかな。ミャンマー(震源の地震)でも場所によって被害が違うらしいからね。第二の都市(マンダレー)は震源が近いから被害がすごかったと聞いているけどね。
絶対安全はない
(日本人は)地震を舐めていると思う。地震は絶対に逃げなきゃダメだよ。
よく『地震があったらまず慌てない』と言うけど、いざ起きたら慌てるからね。慌てないのは無理。地震もそうだけど、絶対はないからね。
だから「なんだよ。 タイ人は震度3で大げさだな」と言っている人は地震で危ない目に遭うかもしれない。
俺は地震が発生したら絶対逃げると決めている。 枕元に靴を置いてあるし、大げさでも命が助かればいいと思う。地震を舐めて死んだら自分のせいだからね。
地震は絶対に逃げなきゃダメだと思う。俺は今回の地震で耐震設計などをあまり信用しなくなったかな。
日本の耐震設計はすごいというけど、絶対安全はないからね。日本の基準通りに建物を作っていても、想定を超える地震が来るかもしれない。
そうなったら絶対ダメだと思う。あくまで絶対安全がないという話で、耐震工事を作っている人たちに対して信用していないという話ではない。俺自身は地震が起きたら真っ先に逃げると決めたという話だね。
(高木義成)
東京ヴェルディ1969、名古屋グランパスエイト、FC岐阜に所属、18シーズンでJリーグ通算238試合に出場した守護神。2017年に現役を引退した。 Web Football Magazine Qolyの専属評論家、オフィシャルコラムニストとしてサッカー界の疑問や問題などに切り込むQolyオリジナルコンテンツ『高木義成の高木式GK視点コラム』を連載。 現在はタイ在住で、料理人として新たな道を突き進んでいる。