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「アナウンサー調整してみます」中居正広とB氏が悪用…報告書が暴いたフジのおぞましい「接待システム」全容

  • 2025.4.4

3月31日、フジテレビで、中居正広氏による性加害問題について第三者委員会が調査報告をした。会見に出席したジャーナリストの柴田優呼さんは「400ページ近い報告書を読むと、単なる性暴力事件ではなく、フジテレビの社内にそれを引き起こす男性優位構造があったことがよくわかる」という――。

被害者の女性アナウンサーが追い込まれた「圧迫環境」

フジテレビと親会社(FMH)が設置した第三者委員会が3月31日、調査報告書を発表。これまで中居正広氏の「女性トラブル」という言い方で曖昧にされてきた内容を、「業務の延長線上における性暴力」とはっきり位置付けた。総計400ページに及ぶ調査報告書が明らかにしたのは、単に中居氏の事件の経緯だけでなく、セクシャルハラスメントが蔓延する同社の企業風土の実態についてだ。中でも、セクハラの対象にされやすい女性アナウンサーが置かれている過酷な状況が浮き彫りになっており、今回の事件が起きた背景がうかがえる。

フジテレビのアナウンサーだった被害女性が直面した環境とは、どのようなものだったのだろうか。調査報告書の記述をもとに見ていこう。

B氏が女性を連れて行った会で中居氏と電話番号を交換
1)セクハラを受けるリスクのある会合に参加を求められる

第一に、セクハラを受けるリスクのある会合に参加を求められる環境だった、ということがある。順を追って説明しよう。

被害女性は編成幹部B氏に誘われ、外資系ホテルのスイートルームであった中居氏らタレントとの会合(2021年12月開催)や、中居氏所有のマンションであったBBQ(バーベキュー)の会(2023年5月開催)に参加している。参加者の中にはこの時、性的な会話があったと言う者もいれば、なかったと言う者もいて、判然としない。ただそのように、セクハラとなるような話が行われるリスクがある場と言うことはできるだろう。

会合終了後、中居氏、B氏、被害女性の3人がすし店で食事をした際、被害女性はB氏から「(2人は) つきあっちゃえばいい」と言われたという (B氏は記憶にないが、発言した可能性はあると言う)。今の社会常識からすると、職場の上の立場の者が下の立場の者に対して (逆もそうだが)、こうした私生活に踏み込む発言をすること自体、問題になるような話だ。

この会合はどのような性格のものだったのか。被害女性はBBQの会に向かう途中、「仕事にプラスになる」とB氏から言われたという。つまり彼らは業務の一環として捉えていたということになる。なのに、こうしてプライベートな領域まで踏み込まれることが自然に行われている。被害女性はこの日、中居氏に求められて携帯電話の番号も交換したという。これで個人的なコンタクトができて、後日、中居氏が被害女性を誘い出して性暴力行為をするのに利用されている。

会合・飲み会でハラスメントに遭った女性アナは28.6%

フジテレビでは、被害女性のこうした会合参加は例外的なものではない。第三者委員会が行った役職員アンケートによると、出演者、芸能プロダクション、制作会社、スポンサー、広告代理店など取引先との会合への参加を強要されたことがある女性アナウンサーは24.1%もいる。女性社員全体13.9%、男性社員全体8.1%に比べてもかなり高く、これは全質問で同様の傾向となっている。

そうした会合でハラスメント被害に遭うのではないかと心配した女性アナウンサーは20.7% (女性社員全体9.3%、男性社員全体3.9%)、実際にハラスメントに遭ったと答えた女性アナウンサーは28.6% (女性社員全体15.3%、男性社員全体4.3%) にも上る。こうした会合に出ることでハラスメント被害の実害が出ているにもかかわらず、放置されているということだ。

また、会合参加の指示を役職員から受けたのに参加せず、そのため不利益を受けたと答えた女性アナウンサーは6.9% (女性社員全体4.7%、男性社員全体1.5%) を数える。「不参加の社員に対し、役員が『席があると思うな』と発言した」「上司からボーナス査定に影響すると発言された」「断ると重要なポジションにつけない」「仕事のため出席できなかったのに口をきいてもらえなかった」などの回答もあった。こうした反応自体がモラルハラスメントを思わせるもので、大きな問題だ。

フジテレビ社屋
だから「業務の延長線上の性暴力」と判断された

これらを鑑みると、第三者委員会が今回の事件を「業務の延長線上の性暴力」と見なしたのも当然だろう。特にアナウンサーは、番組プロデューサーが彼ら彼女らのキャスティング権を握っているため、組織の中でも弱い立場にある。番組の統括をしていたB氏には、被害女性の仕事の機会を左右する力があった。元々、入社数年の被害女性と幹部のB氏の間には、大きな権力格差も存在している。こうした権力格差は、被害女性と大物出演者である中居氏の間にも同様に存在しており、被害女性が中居氏の誘いを断るのが難しかった理由ともなっている。

調査報告書によるとフジテレビでは、「番組出演タレント等との会合は、円滑な義務遂行、良好な人間関係の構築、コミュニケーションの活性化、番組企画立案、人脈維持拡大等、CX (注: フジテレビ) の業務遂行に資するとして、業務時間内外、場所、会合の厳密な参加者などを問わず、広く業務として認められており、これらに必要な費用は会社の経費として精算されている」(53ページ) という。タレントとの会食は、組織の中で制度化されているのだ。

しかし、女性アナウンサーや社員が取引先などからハラスメントを受けないため、実効性のある防止策や救済策が取られているようには見えず、彼らは孤立無援の状態に置かれていると言ってもいい。

「アナウンサー調整してみます」と接待要員にされる
2)「性別、年齢、容姿」といった点をもとに会合参加が求められ、接待要員のような扱いをされる

第二に、「性別、年齢、容姿」という属性にポイントを置いた結果、こうした会合に参加を求められ、接待要員のように扱われる環境があったということがある。能力を評価したり、仕事の上で直接的な関わりがあるから参加を求められるというわけではない。

被害女性が中居氏と個人的なコンタクトを持つに至るBBQの会では、会に先立ち、中居氏とB氏は以下のような会話を行っている。

「男同士じゃつまらんね。女性いるかなね。一般はさすがにね。となり、フシアナ誰か来れるかなぁ」(中居氏) 、「アナウンサー調整してみます」「2~3人いれば大丈夫ですかね??」(B氏)。

まるでBBQの食材を見つくろうのと同じような気軽なノリで、女性アナウンサーを集めようとしている。彼女たちに対し、プロの話し手としての職業的なリスペクトは感じられないし、人格のある個人として扱っている感じがしない。そして驚くのはB氏の態度だ。まるで女性アナウンサーのあっせん係のように見える。これがテレビ局の編成幹部がする仕事なのだろうか。

2025年1月27日の記者会見で辞任を発表した港浩一前社長ほか
港浩一社長らが取引先との接待に女性社員を動員していた

性別以外はここでは言及されていないが、年齢と容姿も、こうした女性参加者集めの際に考慮されていると推測される。B氏だけでなく、港浩一・前社長や大多亮・元専務(関西テレビ前社長)ら上層部も、こうして女性たちをわざわざ集めた会合を取引先相手に開いており、「社内において、性別・年齢・容姿に着目し、女性社員や女性アナウンサーを同席させて取引先の歓心を得る目的があった」(170ページ) と第三者委員会は見なしている。

社長の隣に座らせて酌をさせたり、浴衣を着て来るよう指示したり、また意に反して連絡先を交換させられることなども確認されたという。こうした女性たちを「喜び組」と侮蔑的に呼び、「喜び組でも呼んどけ」と言い放つ幹部さえいた。

上層部に女性の人権を軽んじているという反省がなかった
3)こうした会合に出た結果、性暴力という深刻な人権侵害を受けても、上層部は背景にあるリスク及び差別的構造がわかっていない

第三に、このようにして取引先との会合に参加した結果、性暴力という深刻な人権侵害を受けても、上層部はその背景に、元々こうした会合にはセクハラを受けるリスクがあること、「性別、年齢、容姿」といった点をもとにして参加を求めるという差別的構造があることを認識していない、という環境があったということだ。

調査報告書によると、港前社長ら上層部は一貫して、被害女性が性暴力に遭ったのは、中居氏とのプライベートな場だったと思っていた。被害女性が中居氏所有のマンションに行ったことが理由だった (現実には、中居氏は言葉巧みに、女性が誘いを断れない方向に誘導している)。しかし、個人的なつきあいのない彼らがなぜ、そうした状況に至ったかという推察がない。リスクのある会合に動員させられている女性アナウンサーらの人権への配慮が、根本的に抜け落ちているから、そうなるのではないのだろうか。

港浩一前社長、2025年1月27日のフジテレビ会見
女性社員を動員した接待で利益が出れば、男性社員の手柄に

調査報告書では以下のような意見も紹介されている。「呼んだ人が自分に利益が出るために女性社員を使っており、作品が当たればプロデューサーの力、会社に何か利益をもたらすと男性社員の力となる。一緒に頑張った女性社員達が恩恵を受けていない。男性社員が女性社員を盛り上げ役として連れて行き、何か獲得しても男性社員の手柄にしかならず、女性社員は使われただけになる」(166ページ)。

もしこの見方が正しいのであれば、彼らには女性たちを、自己利益追求のための単なる道具としてしか見ないマインドセットがあるということではないのだろうか。そのため、女性の尊厳に思いを致すという思考回路が、そもそも存在しないのだ。

性暴力を受けた後でさえ、被害者のために動いてくれない
4)会社側は被害者である女性社員より、加害者である取引先の男性に寄り添う

第四に、港社長ら上層部も編成幹部B氏も、性暴力を受けた後PTSDとなった社員の被害女性に寄り添うより、有力取引先である中居氏に寄り添うような環境があったということが挙げられる。

これは特にB氏に顕著で、中居氏に代わって被害女性に見舞金を渡そうとするということがあった。またB氏は、被害女性と交渉するため弁護士を必要とした中居氏のために、フジテレビのバラエティ部門のリーガルアドバイザーを20年にわたり務めてきた弁護士を紹介。編成制作局が中居氏の側に立つことを示す形となった。第三者委員会は、見舞金と弁護士紹介の両方とも、被害女性への二次加害に当たると見なしている。

港社長ら上層部も、中居氏の出演番組を打ち切りにせず漫然と継続した。「被害女性が笑顔で復帰するまで何もしない」という、被害女性の置かれた状況を全く理解しない方針を立てていたためだ。

実際、社屋に貼られた中居氏の番組を宣伝するポスターを見て、被害女性がこのような状況で職場復帰はできないと感じ、退社に追いやられる結果となっている。

調査報告書によると上層部は、こうした対応が被害女性にどのような影響を与えるか、担当医師の考えを聞こうとしたことはないという。被害女性への配慮のなさと冷淡さは驚きに値する。

女性のケアは女性に任せるくせに、意思決定は男性だけ

また、メンタルケアの専門家でもないのに、同じ女性であるという理由だけで、十分なサポートもないまま被害女性との連絡をアナウンス室の女性管理職に担当させたのも、当人に対して大きな負担を生じさせた、と調査報告書は指摘している。

その一方で上層部はさまざまな方針を決定する際、この女性管理職の意見を聞こうとしていない。心身ともに大変なケアは女性に丸投げし、意思決定は自分たち男性だけで行うという、旧来の家父長制を実践しているとも言える。

中居氏に寄り添うことはB氏にとって自分の業績を利することであり、また人気のある中居氏の番組をすぐに終了しないことで、上層部は組織の利益を優先するという、利己的な形になっていることも言い添えておく。

以上はごく一部であり、今回ほかにも明らかになった深刻な問題は多い。これだけ根深い問題を抱えたフジテレビは、その企業風土を変えることはできるのだろうか。第三者委員会の会見に引き続いて行われた清水賢治社長の会見での受け答えを聞くかぎり、その見通しは暗い。

3月31日の会見で「被害者となりうる側の教育も大事」

今後社内教育をどう行っていくか聞かれて、清水社長が答えたのは「加害者になりうる側の教育研修もあるが、被害者となりうる側の教育研修も大事。自分たちが被害を訴える権利があるところも合わせてやっていくことが人権侵害をなくしていくための第一歩」ということだった。女性の意識が低いとでも言いたいのだろうか。

第三者委員会のアンケート結果によると、例え訴えても黙殺されるだけでなく、むしろ被害を受けた自分の方に、人事や業務上の支障が出てしまうと心配する声が多数あることの意味を、清水社長は一体理解しているのだろうか。責められるべきは (当然被害者側ではなく)、救済・処罰システムがきちんと機能しないまま放置してきた自分たち経営側であることがわからないのか。

2025年3月31日のフジテレビ会見にひとりで登壇した清水賢治社長
加害男性をきちんと罰する仕組みを機能させるべき

つまり教育研修が誰よりも必要なのは、自分たち男性上層部であり、にもかかわらず、この期に及んで、加害者側より被害者側の教育の必要性を平気で強調する清水社長に、無意識の女性蔑視がないと言えるのだろうか。

優越的地位にある男性が、弱い立場の女性に対して加害行為を働かなければ、そもそも問題は起きない。たとえ起きても、男性たちの集団で支配を固めた上層部が、そうした加害男性をきちんと罰する仕組みを機能させればいいことだ。なのに、どうしても女性に責任を転嫁したいという願望がそこにのぞいていないか。

救いがないのは、フジテレビだけでなく日本のメディア全体が、男性中心的な思考に支配されており、こうした点を指摘することがないことだ。それどころか逆に、清水社長の会見を聞いて「無難に受け答えした」と評価する声が流れているのを目にした。これが日本メディアのジェンダー感覚の現在地だ。

以下の記事でも指摘したが、さまざまな政治・社会問題に果敢に斬り込んでいるTBS「報道特集」も、メディア業界での女性の扱いを取り上げるとなると途端に、「十分声を上げて来なかった自分たちが悪かった」と女性たちが反省する様子を大きく扱うという始末だ。実際に意思決定の場にいる男性上層部や管理職こそ反省するべきなのに、そこはフジテレビと体質的に大きく変わらないようだ。
夜明けは遠い、と言わざるを得ない。

【参考記事】なぜTBS「報道特集」はセクハラ対応で「反省」する女性を出したのか…「女性に問題が」と主張する業界の大問題

柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト
コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。

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