かつて「老後2000万円問題」が話題になったが、実際に貯金はいくらあれば安心か。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんは「2000万円の貯蓄があっても65歳から毎月10万円を引き出していくと81歳で底をつく。貯蓄を増やすことよりも重要なお金の準備法がある」という――。
※本稿は、井戸美枝『知らないと増えない、もらえない 妻のお金 新ルール』(講談社)の一部を再編集したものです。
老後資金で大切なのはストックよりフロー
Q 貯金が2000万円あれば余裕ですか? A ストック(貯金)よりフロー(収入)が大事です
かつて話題になった「老後2000万円問題」。いまだにこの金額がひとり歩きしているようですが、この誤解については後ほど解説しますね。じゃあ、いったいいくら貯金があれば足りるのかというと、3000万円以上あっても足りない可能性がありますし、1000万円弱で足りる可能性も充分にあります。どういうことでしょう?
老後の3本柱に「貯蓄」は入っていませんでしたよね。図表1を見てみると、たとえ2000万円あっても、引き出し続けていれば、あっという間に貯金は底をついてしまいます。
女性は90代まで長生きする可能性があることを考えると、いくらあっても足りないかもしれませんし、お金が減り続けていくのは心理的にも辛いはずです。大切なのはストックよりフロー。つまり、資産(貯金)よりも収入です。次の項目で、老後のフローについて考えていきましょう。
90歳まで生活費が枯渇しない方法を考える
Q 老後も働くなんて嫌なんですけど…… A ちびちび長く。少し働けばOKです!
年金で足りない分を貯金から取り崩し続けていたら、たとえ2000万円あっても心配だとわかりました。女性の平均寿命を考えると、ひとまず90歳までの生活費が枯渇しないようなフローを考えなければなりません。生活費の分くらいは、お金が入ってくるシステムを自分で作るのです。
最初にお伝えした3本柱の組み合わせで
・公的年金(繰り下げも含めて検討する)
・企業年金やiDeCo
・それで足りない分だけ、働く
という考え方です。個人年金など一度にたくさんのお金が入るものはそれだけ税金もかかってしまうので、ちびちび長くお金が入ってくることがポイント。現役時代と同じ年収でなくても大丈夫です。
老後も働くことはネガティブな面ばかりではなく、人とのつながりや生きがいにもなりうるのではないでしょうか。
貯めておきたいのは医療費と介護費
Q 本当に必要な貯蓄額が知りたいんです! A 医療・介護費1000万円を貯めておくと安心です
「ストックよりもフロー」と言いましたが、貯金ゼロでいいわけではありません。生活費以外にも住宅リフォームなどまとまったお金がかかることもありますよね。ただ、ここでは世帯ではなく、自分自身の貯金としていくら必要かを考えてみます。
貯めておきたいのは、主に医療費と介護費です。もちろん、どんな病気になるか、介護の期間がどれほど長くなるのかなど、個別の事情によって必要な費用は変わってきますが、それでも平均額は一つの目安になるでしょう。
65歳以降にかかる医療費の平均は約250万円と言われています。一方の介護費はもっと高額で、一時金+約5年間分の合計は平均、約580万円。合わせると約830万円が、老後の医療・介護のために準備しておきたいお金ということになりますが、少し余裕をみて1000万円を目安にしましょう。
自分の貯蓄が1000万円あり、なおかつ先の3本柱(年金・仕事・iDeCo)で月々の生活費を確保できれば、長い老後もそれほど心配いらないはずです。
ちなみに、例の「老後2000万円問題」とは何だったのでしょうか? あれは、当時の年金モデル世帯(会社員の夫と40年間専業主婦だった妻の世帯!)の年金収入と平均的な支出とを比べて、30年間で2000万円ほど不足するとしたもの。今の現役世代でこのモデル世帯に当てはまる人は少なくなっていますし、生活費も人それぞれ。はっきり言って、気にする必要はありません。
とはいえ、一人につき1000万円の医療・介護費を夫婦2人分と考えるとちょうど2000万円ですから、老後資金の目標額として、あながちトンチンカンな金額ということでもなさそうですね。
子供も遺族年金も当てにできない
Q 夫がいなくなっても私には子供がいるし…… A 老後に子供は頼れません。一人の余生に備えて
「いざとなったら、子供が老後の面倒をみてくれるはず」なんて思っている人、甘いです! これからの時代、子供たちも仕事や家庭、自分の人生を生きることで手いっぱい。老後の暮らしやお金は、自分でなんとかするしかありません。
夫婦2人分の年金があり、健康で暮らせるうちはまだいいのですが、問題は、夫が先立ち妻一人になったあとです。平均寿命と夫婦の年齢差から見ると、女性のおひとりさま期間は8年ほどの可能性が。そしてその期間と健康ではない期間が重なるかもしれないのです。
遺族年金があっても、受け取れる年金額は夫婦2人分の6割程度になることが多いようです。介護や医療のお世話になりながら一人で生きるときに、お金が足りないのは辛いことです。この年代になってもお金が入るよう、生涯にわたって受け取り続けられる年金を増やしておくのが最善です。
井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)
関西大学卒業。社会保険労務士。国民年金基金連合会理事。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください 増補改訂版』(日経BP)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)、『私がお金で困らないためには今から何をすればいいですか?』(日本実業出版社)など著書多数。