『ラ・ラ・ランド』(16)のデイミアン・チャゼル監督の長編デビュー作であり、常人では理解できない音楽にかける狂気的な情熱と執着、衝撃のラストシーンが大きな話題を呼んだ『セッション』(14)。本作の日本公開10周年を記念し、デジタルリマスター版が4K&Dolby Atmosで4月4日(金)に劇場公開される。当時鑑賞した人はより進化した劇場環境で観直せば、感動と興奮がさらにパワーアップ。一方で、まだ観たことがないという人も多いはず。そこでMOVIE WALKER PRESSでは、“ご新規様”限定で4K&Dolby Atmosの試写会を実施。はたして、令和の時代に鬼教師による狂気的な指導が描かれる『セッション』は、どのように受け止められたのか?アンケートの回答から印象的なものを紹介したい。
【写真を見る】そんな至近距離で睨まないで!スパルタ教師フレッチャーが生徒を鬼指導…
「もはやサスペンス」…緊張感から抜けだせない展開の連続に驚きの声が続々
主人公は名門音楽大学に通う1年生のニーマン(マイルズ・テラー)。ドラマーとしての成功を夢見て練習に励んでいたある日、学内外で有名な音楽教師フレッチャー(J・K・シモンズ)の目に留まり、彼のバンドにスカウトされる。これで偉大な音楽家への道が開けた!と優越感に浸るニーマンだったが、待ち受けていたのは“完璧”な演奏を求めるフレッチャーによる常軌を逸したスパルタレッスンだった。「ファッキン、テンポ!」と執拗に罵倒され、パイプ椅子を投げられ、何度もビンタされるなどの体罰を受けるなか、ニーマンのなかでもなにかが目覚め、ドラムの演奏により深くのめり込んでいく。
冒頭から張り詰めた緊張感が漂い、息つく暇も与えてくれない本作。試写会参加者からも「本当に音楽映画?」というコメントが数多く飛びだすなど、サスペンスフルな展開に驚いた様子だ。まずは、鑑賞後の率直な感想をお伝えしたい。
「もはやサスペンスのような緊迫感で、音楽映画とは思えない」(10代・男性)
「一瞬たりとも目が離せませんでした」(20代・女性)
「J・K・シモンズの演技によるとてつもない緊張感、静けさと演奏シーンにおける音量のコントラストでずっと心臓がドキドキでした」(10代・女性)
「世紀の傑作というキャッチコピーに嘘偽りなし」(20代・男性)
「久しぶりに時間が経つのが、“あっ!”という間な作品だった」(50代・男性)
「全身が震えた。最後がヤバい」(20代・男性)
「衝撃度96%」…『ラ・ラ・ランド』と同じ監督とは思えない『セッション』のヤバさ
無名の新人監督が撮った低予算映画ながら、サンダンス映画祭でグランプリ&観客賞をW受賞したのを皮切りに賞レースを席巻し、アカデミー賞でも作品賞を含む5部門にノミネートされ、3部門に輝いた本作。当時28歳だった監督のチャゼルも一躍、次世代の名匠として大きな期待を寄せられることとなった。
注目すべきは、フレッチャーによる“超”が付くほどの鬼レッスン。身体的、精神的にも生徒を追い詰めていくその指導方針が多くの賛否を呼ぶことになったが、それになんとしても食らいつこうとするニーマンの執念もすさまじい…。その関係性によってやがて導きだされるクライマックス。“ラスト9分19秒”の衝撃は、伝説として映画史に深く刻み込まれている。
とはいえ、今回の試写会はご新規様限定。それなりに評判は耳にしていたとしても、あの名作『ラ・ラ・ランド』を手掛けたチャゼルのデビュー作ということで、どこかハートフルなストーリーを予想していた人もいたようだ。そのギャップは「衝撃度96%」という数字にも表れている。鑑賞前と鑑賞後のイメージ差について語ったコメントを紹介しよう。
鑑賞前「音楽成長劇」⇒鑑賞後「緊張感がレベチだった」(20代・男性)
鑑賞前「練習して大きな大会に出るのかなとか思っていました」⇒鑑賞後「パワハラすぎてしんどい」(20代・女性)
鑑賞前「大学生が音楽を学ぶだけの映画だと思っていた」⇒鑑賞後「ただ音楽と向き合う映画ではなく、現代の学びでは得られない狂気を感じることができ、そこが違った」(10代・女性)
鑑賞前「『ラ・ラ・ランド』が個人的に好きで、同じ監督だと知っていたので、温かい音楽映画だと思っていました」⇒鑑賞後「『怪作』という表現が正しい作品でした。『傑作』では言い足りない」(10代・女性)
鑑賞前「『ラ・ラ・ランド』の監督でラストがすごい作品と聞いていた。結末がすごいらしい」⇒鑑賞後「衝撃すぎた。どんでん返しが気持ちよかったけどキャパオーバーして本当にすごかった」(20代・女性)
「時代的にはNG」…スパルタ教師フレッチャーの指導はあり?なし?
シモンズ演じるスパルタ教師フレッチャーのキャラクターはやはり強烈。苛烈な指導ぶりは前述の通りだが、シモンズがアカデミー賞助演男優賞を受賞するなどその演技は高く評価されている。スクリーンいっぱいに迫ってくるフレッチャーの顔面も4K&Dolby Atmosによって迫力倍増。試写会に参加した10代、20代の若い世代の多くは、「怖い」「しんどい…」という反応を示していた。
今回、本編上映後には春とヒコーキの土岡哲朗が登壇するトークイベントも実施され、作品を観終えたばかりの参加者に率直な感想や意見を聞く場面があった。そのなかで「フレッチャーの指導はありか?」という質問が投げかけられると、やはり大勢が「なし」と回答。アンケートにも「いまの時代には合わない。怖さによるストレスがある」(30代・女性)、「ヒステリーすぎてしんどい」(20代・女性)というコメントが寄せられている。
一方で、全面的に賛成とはいかないまでも「理解はできる」という声もあった。
「いまだとパワハラに捉えられるが、高みを目指したいという意気を感じた」(30代・男性)
「狂気じみていると思ったけど、生徒を偉大な音楽家にしたいという想いを知った時に、誰かを極限まで追い込んでしまうのも、愛ゆえなのかな?と思ってしまった」(10代・女性)
「現代では決して認められないだろうが、あれくらいの指導者がもしいたらすべてが変わりそう」(10代・女性)
「偉人を生みだすのは個人の才能だけではなく、誰かの導きで作られるものでもあると思った。現代は達観している人が多い気がしていますが、筋を通して“本気”で生きるとこうなるのかもしれません」(20代・男性)
いかなるハラスメントも決して容認できるものではない。しかし、フレッチャーの指導によってニーマンの演奏が飛躍的に向上したのも事実。そこをどう捉えるかによっても受け止め方は変わってくるようだ。
「狂っていくのに少し共感」…主人公ニーマンの変貌ぶりにも様々な意見が
主人公ニーマンを演じたのは、のちに『トップガン マーヴェリック』(22)にも出演するテラー。当初はフレッチャーの指導に怯えるしかなかったが、幼いころからの夢を叶えるため、音楽以外のすべてを捨てる覚悟で猛特訓に取り組み、手にいくつものマメができ、それが潰れて血だらけになりながらも主奏ドラマーのポジションを獲得する。しかしその過程で、交際していた恋人に「練習の邪魔だ」と別れを告げ、親類やバンドメンバーにも傲慢な態度を取るなど性格も変貌してしまう。
このようなニーマンのキャラクターは、「正直、恐怖があった」(20代・男性)、「狂気」(20代・女性)、「狂ったように没頭するのがなにかに取り憑かれているようで怖かった」(10代・男性)とフレッチャーと同様に怖がられている印象。と同時に、ここまで熱中できるものがあることが「羨ましい」という意見もあった。
「ここまで一つのことに没頭できるのは素直に羨ましいと感じた」(10代・女性)
「反骨精神からくる努力がすごかった。自分もうまくなりたい。でも、ここまでの努力をまだしていないので、自分の人生ももっと無限大の広がりがあると思った」(20代・女性)
「ドラムにのめり込むにつれて狂っていくのが少し共感できてしまった。私も先日まで大学受験をしていて、追い詰められて自分の世界がすごく小さく見えてしまい、受験のことしか頭になくなっちゃった経験があったので」(10代・女性)
「ニーマンが没頭していくにつれ、観ているこっちもさらに没入できた」(10代・女性)
「自分がその場にいるみたい」…4K&Dolby Atmosでグレードアップした演奏シーン
4K&Dolby Atmosのフォーマットで行われた今回の試写会。映像美、音響の臨場感は抜群で、特に演奏シーンはよりクリアになっており、実際にライブを見ているような感覚を味わえる(その分、フレッチャーの怒号もマシマシに…)。映像、音響についての感想もピックアップしていきたい。
「生音そのままですごかった。曲、環境によって音の広がりやこもり具合が違って自分がその場にいるみたいだった」(20代・女性)
「最後のドラムソロの臨場感がすごかった」(20代・女性)
「爆音かつ良質な画質で、包み込まれるようで最高」(10代・男性)
「汗や血のしぶき、肌質までも鮮明に見えて感激しました。体の中までも響き渡る重低音に緊迫感が生まれて、いままでにない感情になりました」(20代・女性)
「映像の色彩の美しさはもちろん、静かなシーンの繊細な物音、息づかいまで伝わってきて、この環境で観られてよかったです」(20代・男性)
「ホラー並みに恐ろしい音楽映画って興味ない?」…『セッション』の狂気に大勢が魅了された!
賛否含めて様々な感想が飛び交っているものの、みなが一様に声をそろえて「とにかくすごいものを観た」という、満足感と(いい意味での)疲労感からくる言葉を送っている。以下の熱量高いコメントからも、本作が新たなファンを獲得したのは間違いない。
「とにかく“狂気”。狂気を感じたいならこの映画を観るべき」(20代・男性)
「人と人との“セッション”の答えが、最後の9分19秒」(10代・女性)
「目を離せるシーンがない」(20代・女性)
「なにかに真剣な人ほど観たほうがいい」(10代・女性)
「狂気と情熱の間に生まれた傑作」(20代・男性)
「ホラー並みに恐ろしい音楽映画って興味ない?」(20代・女性)
「熱量に圧倒されたい、衝撃を受けたいなら観よう」(20代・男性)
筆者もこの試写会に参加し、約10年ぶりに鑑賞したのだがとにかく終始圧倒されてしまった。フレッチャーやニーマンに対する印象も変わったし、エンドロールに入った瞬間に心のなかでガッツポーズし、スタンディングオベーションを送りたくなるほど完全に引き込まれていた。公開時に鑑賞した人はもちろん、DVDや配信で観ている人も新たな衝撃が得られるので、ぜひ劇場で『セッション デジタルリマスター』の極上空間を体感してほしい。
構成・文/平尾嘉浩